2-2. 思惑

 俺と花音は、隣を歩きながら、下校していく。

 どうやら、俺の家の近所に引っ越してきたらしい。

 ――まぁ、あの現場を見られたって言われたから薄々気づいていたことなんだけどな。


「それで、何かいいアイディアがあるのか?」


 すると、花音は少し驚いた表情を見せた。


「遥斗から先に切り出されるとは、思ってなかったわ」

「いや、お前に俺の思い打ち明かしてから、少し気が楽になったからさ」

「そう、少しはマシになったのね」


 花音は胸ポケットから黒いボールペンを取って、ペン回しをし始める。


「なんで歩きながらペン回しなんだ?」

「ん? あぁ、これね。手にボールペン持ってないと、気が落ち着かないときがあって、それでそうなったら、いつもこうやって遊んでいるの」

「へぇー」

「たまにあるじゃないの? 大人がタバコを吸いたくなるときと一緒よ」

「なんだ、その例え方は?」

「い、いい例えが思いつかなかっただけよ!」


 花音は少し恥ずかしそうに、ペン先を勢い良く俺に向けてきた。


「おぉ、危ないな」

「あなたが、変なつっこみを入れるからよ」


 花音はそう言うと、黒いボールペンを胸ポケットに戻す。


「さて、幼馴染の篠木葵のことなんだけど」

「お、おう」


 花音は本題に踏み出した。


「あなたは、まずは恋とは何かを確かめなければならないと思うのよ」

「……え?」


 ――恋とは何か、確かめる?


「『え?』じゃないわよ、まずは恋とは何かを確かめなければ、本当にあなたが幼馴染のことが好きかどうかわからないじゃない」

「あぁ、なるほど」

「そう、例えるなら、ミートスパゲティを作るならば、その作り方を覚えなければならないのと同じことよ」

「……ほかに例えるものはなかったのか?」

「わ、分かりやすさ重視で言ってみたまでのことだからっ!」


 花音は恥ずかしそうにそう言う。


「で、具体的にはどんなことをすればいいんだ?」


 俺は花音に尋ねる。


「ふふっ……、その点につきましては、任せておきなさい。いい考えがあるから」

「ほ、本当か?」

「任せておきなさいってば、信用しなさい。確実にあなたに恋って何か教えてくれるものを考えてあるから」


 花音は自慢気にそう語るので、


「それじゃ、期待しておくからな」

「えぇ、それとこれから放課後はあなたの家に行くから、よろしくね」

「えっ!? 俺の家じゃないとだめなのか?」

「何か問題でもあるの?」

「い、いや……、お前の家とかじゃだめか?」


 すると、花音は黙りこんで、そして、


「……だめね、ごめんなさい」

「そっか……、それじゃ仕方がないな、わかった」

「それじゃ、今後あなたの家にお邪魔させていただくから。……掃除ぐらいはしておきなさいよね?」

「わかってるよ」


 そう言っている間に、家の近くの四つ角にたどり着いた。


「あ、それじゃ、私こっちだから」

「おう、それじゃ、また明日な」


 俺がそう言うと、花音は恥ずかしそうに、


「う、うん、また明日」


 そう言い残して、花音は駆けていった。

 ――なんだか、花音にはこれからお世話になりそうだ。

 これも、俺の不始末のため、俺が葵にちゃんとした気持ちを伝えなかったために起きてしまったことだと、自分でも自覚している。

 だからこそ、なんとかしなければいけない。

 ――これから、頑張ろう。

 そう思いながら、家の途へ着いた。

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