#2
2-1. 疑問
始業式が終わり、教室に戻ると、俺は男子から質問攻めにあった。
「おい、久東さんと一体何を話していたんだ!?」
「なんでお前ばかり女子運がいいんだよ!!」
「オマエ、イツカ、フコウニシテヤル」
俺はその質問に適当に回答しつつ、二人の様子を見ていた。
一人は、篠木葵。
葵は俺と花音のほうを交互にみて、頭を抱えている。
――おいおい、目がくるくる回っているぞ……。
そこに、優里が後ろから抱きついてきて、さらにパニックに陥る。
優里はそれを楽しんでいるようだった。
もう一人は、久東花音。
花音は、転校生ということと、そして朝のホームルームのことで、クラスの女子たちが花音の席に集っている。
花音の様子をみると、あまり感情的にならず、落ち着いた感じで会話をしているように思われる。
クラスの女子とは仲良くやっていけそうな雰囲気を醸し出していた。
「おいおい、なんだよ、葵ちゃんと久東さんのほうばかり見ちゃって」
武彦が俺の周りにいた男子たちを追い払って、俺のところへ近寄ってきた。
「いや、別にどうもしないが」
「嘘だね、なんかあるよな」
「どうしてそう思う?」
俺は武彦に問いてみた。すると武彦は瞳の奥に光を見せて、
「お前が女子を見るなんてなんかあったとき以外あり得ないからだ」
「…………」
――ごもっともで。
「うん、何かあったみたいだな」
「何があったとは聞かないのか?」
「まぁ、俺とお前の仲だからな、あまり追求はしない。だけど」
「だけど?」
武彦は俺の肩に手を当て、俺の耳元で、
「二股は良くないぜ?」
「違うわ、ぼけ」
俺は肩を回して、武彦の手を振りほどく。
「ならいいんだけどな」
と、武彦は笑いながら、俺の肩をぽんぽん叩く。
すると、教室に沢嶋先生が入ってきた。
「おーい、お前ら席につけー」
クラスのみんなが席に着いたことを確認して、
「よーし、それじゃ連絡事項言うぞー」
と、沢嶋先生が今後の日程について話し始めた。
「月末ごろに、学年で遠足に行くんだが……、今回は山でバーベキューだ」
教室がざわつく。
「おい、聞いたか? バーベキューだってよ」
「ってかバーベキューの略称なんだったっけ? BB9?」
「なんだそれ、ビービー弾の大きさみたいだな」
「肉食えるのか? 肉食えるのか?」
「お前ら、少しは落ち着けって」
沢嶋先生が教室をなだめる。
「それで遠足の班を……そうだな、遠足の一週間前には決めておいてくれ」
――それって、今考えたよね?
大丈夫なのか不安だが、それで帰りのホームルームが終わった。
沢嶋先生が教室を出た後、教室は先程までの賑やかさに戻る。
「さて、俺も帰ろうかな」
俺は席を立ち、カバンを取った。
「あ、遥くん!」
葵が、カバンを持ちながら俺のところへ近寄ってきた。
「ご、ごめんね、私、部活があるから……一緒に帰れない」
「あ、あぁ、別に構わない。一人で帰るからさ」
「そ、そう? ごめんね……」
葵は残念そうに、教室を後にした。
「さて、帰ろう」
静かになった教室から、出ようとすると、
「私が一緒に帰ってあげようか?」
行く手を、花音が遮った。
「お、おう、それじゃ、帰ろうか」
そうして、俺と花音は一緒に教室から出た。
――なーんか怪しいよなー。
教室の片隅に潜んでいた遠野優里はそう思う。
――転校初日で遥斗と仲良くなるなんて、なおさらおかしいぞ。
1年のときもクラスが一緒だからわかるが、遥斗はあまり女子とは話さない。
それに、久東花音さんはいきなり遥斗を連れだしたのだ。
――この裏には、何かあるぞ?
遠野優里は、二人の関係を疑い始めていた。
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