第2話
「……どちらさまでしょうか、彼らは」
ツェーザル殿が昼頃見知らぬ男女を伴って俺の工房兼自室に訪れていた。
男女二人ずつのおそらく十代半ばほどの外見で髪は皆一様に黒。茶髪の多いこの国では珍しい髪色である。因みに俺は赤みがかった茶髪である。
「昨日話した勇者殿だ」
「ああ、なるほど」
どうやら彼らは勇者らしい。正確には召喚者。勇者と呼ばれるのはその中でも高い資質を持つまとめ役のことを指したはずだ。出ないとこんがらがるだけで別に立場が変わるわけではないのだが。
それにしてもなぜそんな人たちを俺の魔術工房なぞに連れてきたのだろうか。危険なだけであろうに。
「お前には勇者殿の旅に同行してもらうことになった」
「…………はいぃ? 」
ツェーザル殿は小さくペナルティーも兼ねていると耳元で行ってくる。
どういう事なのだろうか。勇者殿が旅に出るというのはわかる。各地回って見分を広げてもらいつつ地力をつけてもらい、魔王軍との戦いの折には力を貸してもらう。基本方針の一つとしてあったものだ。
だが、連絡要員として数人国から同行させるとは在ったが、なぜ俺なのだろうか。
言っては何だが、俺はかなり位が高い。国の魔術師として2番目だ。指揮にだってかかわるし、仕事だって……魔術師である以上魔道の探求があり、時間などいくらあっても足りない。
本当に疑問だ。
「なぜ自分なのでしょうか」
「適任だからだ」
ペナルティーではない方の理由はこれだ。適任。どういう事だろうか。
まとめ過ぎて何もわからない
「詳細を教えていただきたく」
そう言うと、ツェーザル殿は数センチ伸ばしたあごひげを一摩りして花で短く息を吐いてから口を開く。
「まず君が同行するに足る、十分な力量を持った術師であるという点。これは副師団長である君は今更どうこう言うまでもない力量の持ち主だ」
「光栄です」
お褒めの言葉をいただいたので答えておく。事実を言っているのだろうが、社交辞令にしか聞こえない。無表情なところがその印象にさらに拍車をかけている。
「次に、君が勇者殿たちと年が近い点。きみが18、彼らが16だ」
16。予想はそう間違っていなかったようだ。ただ、14くらいかと思っていたのだが彼らが童顔なだけなようだ。
年が近い、まあ旅で生活を共にする上ではそれなりに大事な要素かもしれない。あまり長期の旅に出たことがないから何とも言えないが。そんなことで嘘もつかないだろうし、そうなのだろう。
「最後に、有事の際は君なら対応できるということ」
それが大半の理由だろう。有事の際の対応能力が俺と他の術師では違いすぎる。まあ、納得せざるを得ないだろう。給料と研究費を減らされても困るし、どうせ魔族に人が滅ぼされれば研究も何も言ってはいられない。反抗はあきらめて従っておくのが無難だな。
「了解しました。お役目、謹んで拝命いたします」
俺がそう言うとツェーザル殿は満足げに頷き、あごひげを2,3度摩った。そしてその直後、扉の向こう側に立たせたままだった4名を招き入れる。
「よろしく頼む。というわけで、決まりだ。入ってくれ」
招かれてはいってきた四名は黒髪にやや黄色の肌、という共通点こそあれど、特徴はバラバラな男女だった。瞳の色が魔力に依存するこの世界に転移してきたからだろうか、瞳の色は朱、翠、蒼、黄と四者四様。髪の毛先も僅かにその色を滲ませている。魔力が平均以上の物にみられる特徴だ。
男女はそれぞれ揃いの特徴的な服を着ていた。
男たちは紺色のかっちりとした、素材は何なのかはわからない服を着ており、一人はボタンを上一つ開け、もう一人はすべて開け、白い服を覗かせていた。
女たちは特徴的な丸目の紺の襟に、全体的に白い服、と言えば良いのだろうか。兎角、男女ともにこの世界では見たことのない型の、素材の服を着ていた。
何でできているのだろうか。とても気になる。
男たちは両者ともそれなりに背が高く、180cmほどはあるだろう、俺よりは5,6センチ高い。それに、力仕事で鍛えられたのとは明らかに違う、筋肉がついていた。いったい元の世界では何をしていたのだろう。
女たちは一人は俺と同程度、175,6cmほどの身長で、全体的に線が細く、もう一人はかなり小柄で155cmほどだろうか。恐らく160cmはない。そしてどこがとは言わないが、それなりにご立派なものをお持ちだとだけ言っておこう。
「エヴァリスト・カノーヴァです。皆さんの旅に同行させていただくこととなりました。よろしくお願いします。名前の方は、長いと感じられるでしょうし、エヴァと呼んでいただいて構いません」
そう言って会釈をすると、一番前にいた黄の瞳をした少年が手を差し出しこう言った。
「
差し出された手を握り、握手を交わすと満足そうに彼は頷く。
一瞬思ったけど、なんでこいつ完全に上から目線なんだろうか。初対面なのに最初から敬語使ってないし。
ツェーザル殿が敬意を払った話し方をしているだけで、別に勇者の方が俺より上の立場な訳ではないのだが。
勇者を軽視するつもりは毛頭ない。ないが、なぜだかこちらを下に見ている視線が気に入らない。なにより、なぜ彼はこんなにもへらへらとしていられるのだろうか。命を懸ける、という実感がないように見える。
どれだけの実力を持とうが戦いに絶対などないというのに、潜在能力は高けれど、ひよこの彼が旅に出る前からこんなに浮ついている。恐らくリーダーであろう彼がだ。先行き既に不安である。
「よろしくたのむぜ! 」
続いて手を差し出してきたのは朱色の瞳の少年。
快活そうな印象を持たせる短髪の彼の差し出した手を握る。名前は八雲
明るい雰囲気を持つ彼はムードメーカなのだろう。自然とそう思える青年だ。だが、彼もまたどこか浮ついているように感じる。不快感というより心配を抱かせるのは彼の人柄だろうか。
「
俺とほとんど同じくらいの身長の翠の瞳を持つ短髪の少女は短くそう言った。前の二人と違って握手は求めてこず、ならばこちらもと短くよろしくお願いしますとだけ告げた。表情が希薄で何を考えているか分かり辛い。この手の手合いは付き合いがそれなりにないと表情が読めない分付き合いが難しいが……その分気を使うしかないだろう。
「あ、あの……
声を震わせながら、消え入るような小さな声でそういったのは一番背の低い蒼の瞳の少女。小柄な体躯も相まってより一層弱弱しく見える。
先程と同じく短くよろしくお願いしますとだけ告げる。緊張しているようだし、あまり長く話す意味はないだろう。
全員と軽い自己紹介を終えるとそれぞれの役割を軽くだけ説明され、出発の日時は後で伝達するとツェーザル殿に告げられ、共に勇者殿たちと退室していった。
これが俺の勇者殿たちとのファーストコンタクトになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます