勇者パーティーのお付き魔術師

きなこもち

第1話

【勇者召喚】

今から500年以上も昔、この国で行われたという伝説の魔術儀式のことである。なんでそんなに昔に行われた儀式の話が出てくるかというと、つい先日行われた大陸の主要国家会議でそれを実行に移すことが決定され、今日がその実行日だったからである。


「では、言い訳を聞こうか。なぜ、召喚の議を無断で欠席した? 」


眉間に血管を浮かび上がらせ、見るからに怒ってますといった表情の男性、我が国の宮廷魔術師団長殿ツェーザル・アーレンスは淡々とそう言った。


「前にも言ったじゃないですか。俺は召喚は反対ですって。反対してることに参加する道理はないでしょう?」


悪びれずにそう言う。実際悪いことをしたとは思っていないのだ。

悪いと思っても居ないのに反省などしないし、悪びれることも当然無い。

そんな俺の態度に余計と気を悪くしたのか、ツェーザル殿は声を荒立てて怒鳴りつけた。


「お前が一般人だったならばな!それが仮にも、誉れも高き宮廷魔術師団副師団長の言うことか、エヴァリスト・カノーヴァ! 」


怒鳴り声が鼓膜にビリビリと響く。そのあまりの大きさに思わず耳をふさいだが、それでもなお耳が痛くなるほどの怒声。ずいぶんと怒らせてしまったようだ。

だが、それでも俺は謝る必要があるとは思っていない。今でも不服に思っているのだ。この世界の危機を、否、人類の危機を他所の世界の存在に救ってもらおうなどと。命がけの仕事だ。向こうからすればそんなものを受ける道理はないし、俺がそんな立場なら受けない。当然のことだと思うが。


「……はあ、言っても態度は変わらんか。まったく、お前の言わんとすることはわからんでもないがな、立場という者がある。それを弁えて行動しろ」


「……別にいいじゃないですか。儀式自体には関与してるんですから。陣を組む際に協力したでしょう。俺の実際参加の魔力量なんて数で補って余りあったでしょうに」


最低限の協力はしているし、俺にしかできないようなことはやってある。俺じゃなくてもできるようなことまで協力などしたくはない。別に降格なりなんなりしてくれてもかまわない。


「本当にお前というやつは……。まあいい。陛下からお許しは出ている。国からは厳罰……と言いたいところだがまだ決まってはいない。そのうち下るだろうからおとなしくしていることだ」


「……了解」


ツェーザル殿が扉から出ていくのを眺め、そのまま扉の方をぼう、と見つめる。

勇者召喚に関して俺が個人で行ったことは二つ。召喚が完璧に機能しなければ途中で陣が機動停止するようにしたこと。そしてもう一つは、本来逃げていくはずの陣の中の魔力を召喚対象者へ与え、それぞれが何らかの力を発現するように促したことだ。

前者は身勝手にこちらが召喚する以上、中途半端な形にして、対象者に不具合が起こるようなことはあってはならない。そのための安全装置を設置した、ということだ。後者は、勇者が召喚の折に与えられるという力をよりその者になじませるようにする、というのが正しい言い方なのだろう。そしてもともと勇者たちの世界にはないであろう、魔力に身体を馴染ませ、魔術を扱いやすくするために術式に織り込んでおいたことだ。

こちらは、戦力として召喚する以上より強く会ってもらう必要があることと、生存確率を上げるためだ。

この両方を術式に織り込んだことはきちんと訳を話し、承認されて、むしろ推奨されて行ったことだ。


やれることはやった。

ただそれでも俺は、勇者召喚をこれ以上になく無責任なものに感じていた。




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