第8話ハルの消失
ゴブリン襲撃事件の翌日
周りの見る目は少しばかり…まぁなんだ
想像通りと言うか?
何か保母さん達がひそひそ話してるし
良いさ
畏れられるのは前世で馴れた…
「ハル君」
「リオネさん?」
急に後ろから呼ばれ
振り返ったらリオネさんがいた
「俺に…何かようでも?」
少し突き放すように言った
リオネさん相手だから善意が揺らぐけど
「えぇ、昨日のゴブリンについてで会議があるそうなのですが
詳しいことを知っているであろうハル君にも来てもらいたくて」
「あぁ、そう言うことならわかりました」
◆
町長の家で会議があった
議題は昨日のゴブリン襲撃事件である
重要参考人である俺は根掘り葉掘り詳細を聞かれた
Q.出たゴブリンは何匹か
A.10匹ですね、全て駆除しましたのでご心配なく
Q.ゴブリンはどう倒したか
A.96式13㎜機銃という自作の道具で倒しました
Q.96式13㎜機銃?
A.…高速で鉄の塊を飛ばす道具です
などこんな質問をされたのだ
機銃については実際に見せて納得させた
みんな驚いていたのは言うまでもない
◆
さて、俺はてっきりゴブリンを倒したせいで周りから化け物扱いされるものと思っていた
しかし
周りの評価は違っていた
それが
“ 天才 ”である
どうやら道具使って倒せば子供は忌みから天の才に変わるのだ
リオネさんがどもったのもびっくりしたからだと言う
なんだ…少し安心した
その時は
本気でそう思っていた
だから
◆
バシャッ
「…え……?」
だから思いもしなかった
一部から“ 天災 ”として
忌み嫌われているなんて
…いや、気づいてはいたのだろう
ただ…やっと見つけた安らぎを崩したくなかっただけだ
「………」
知らないおばさんがこちらを化け物を見るかのような目で見つめ
別の若い女性からは凍えるような冷たい目で見られる
俺はリオネさんと施設に帰る途中でいきなり水をかけられた
理由など……まぁきっと…………
…あぁ…無理なのかな…
やっぱり俺には…
只の人として生きるのは…
無理だったのかな?
もう、
大人ぶって善人するのも…
疲れたよ……
◆
~リオネ視点~
ハル君はどこか変わった子でした
初めて見たあの日
木箱に入れられ
施設の前で捨てられているのを保護した日から
私はあの子が変わっていると思いました
まず泣かないし大人しい
そのお陰でだいぶ周りの保母さん達から喜ばれていました
そして
5歳の時私に“魔法の適性”があるか聞いて来ました
私は…彼に適性どころか魔力がないと言うのを知っていました
彼をどう傷つけず伝えるか
いや、伝えること自体迷いました
でも、彼に無責任に適性アリとも言えません
渋々魔力が無い事を伝えました
「わかりました…魔法は諦めます」
彼はそうなんでもないように言った
(ハル君、貴方は強いですね…
魔法を使えない事実を受け入れられずに一生を捨ててしまう人もいるんですから)
私は勝手にハル君は心が強いのだと勘違いしていました
その後ハル君は物作りのスキルを持っているらしく、彼の作ってくれた器具で生活がだいぶ楽になり、また同僚のスピュルさんの知りあいである商人さんがハル君の作った調理器具と自転車を取り扱わせて欲しいと言って来たのには凄く驚きました
そして彼は器具・自転車の権利と引き換えに莫大な富を築きました
彼はきっと
将来は歴史に名を残す偉業を成し遂げるに違いありません
私はとても嬉しくなりました
魔法が使えなくてもアイデアで富を築く
そうそれはまさに喜劇だと
一方で
ハル君は売り上げと一緒に大量の鉄鉱石を仕入れていました
最初は足りなかった自転車の補給と子供用の自転車を作って施設のみんなに貢献していました
只でさえ売り上げの半分を施設へ入れてくれるのに自腹をしてまで施設へ貢献する
私はとても優しい子なのだと感激しました
でもハル君が6歳の時
川の近くに巨大な鉄の筒が置かれていました
ハル君に聞くと絶対に触らないで欲しいとだけ言われ
詳しく教えてはくれませんでした
そして事件が起きます
森から出ない筈の魔物、ゴブリンが森から出てきて施設の子供たちを襲おうとしたのです
ゴブリンは私たち大人からすれば初期のレベル上げにしか使えない程
ひょっとしたら餓死寸前のヨロヨロで武器を持っていないような状態でも勝てるかもしれません
ですが力の弱い子供には強敵です
更に駆け込んできたレイカちゃんの話ではハル君が一人残ったと言うではありませんか
私は急いで駆け出しました
「ハル君、無事でいてください…!」
しかし川に着くと戦闘はもう終わっていました
ハル君がなにもなかったように無傷で佇んでいましたが目の前の川はゴブリンから流れた血で真っ赤になっていました
そして私は気づきます
これをやったのはハル君の作ったあの鉄の筒であること
そして…
私がハル君を
心の底から怖いと思ったこと
振り返って考えれば私のその考えは保母として…教育者として失格です
なに以前にハル君はこの施設みんなのために最善の事をしているのですから
だから
だから私は
ハル君が畏怖の目で見られるのは少しの間だけだと思ってしまった
そして
仮にそうだとしても
何か行動を起こされるなど思ってもいなかった
だから
だから
だから
ハル君が…
ハル君が町の女性から冷たい目で水をかけられた時の
絶望…と言うより世を失望したような目は
私は消して反らす事は出来なかった
そして
その日を境にあのハル君は
別の人格に変わった
目に光の無い
世に希望を見いださない瞳をして
ハル君は消失してしまった
子供たちを守ろうとしたばっかりに
周りの手によって消失されてしまった
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