ヤクソク

「・・・・・・っ!?」

「・・・バァーカ」

少女の口元に押し当てられたのは、マシュマロだった。

「俺のキスは、俺の作る薬より高けぇんだよ」

少女の口の中にマシュマロが押し込まれる。

「俺とキスしたけりゃ、前払いで支払え」

顔を真っ赤に染めたまま、少女は幾斗に額を指で弾かれた。

「な・・・っ」

「俺が日本に帰ってきた時、お前がちゃんと自信を持って堂々と笑えていたら・・・・・」

痛みで額を押えている少女に、幾斗は顔を近づける。

「その時は、キスしてやるぞ?」

そう言って幾斗は少女の耳元で小さく囁いた。

「っ・・・・それが、前払い・・・・・ですか?」

「あぁ。安いモンだろ?」

「やっ・・・・約束ですよ!?」

強い口調で言う少女に、幾斗は笑いながら小さく返事を返した。

「んじゃ、これは俺の患者卒業祝いと・・・キスの予約券ってことで」

幾斗がそう言って少女の手に乗せた物は、二つだった。

「これは・・・・何ですか?」

少女が手探りで触れた物は小さな長方形の物にイヤホンが繋がった物と、小瓶だった。

「ミュージックプレイヤーと、俺がお前に処方する最後の薬だ」

小瓶の蓋を開けると、いちごの香りがすぐに広がった。

「じゃ・・・・・元気でな」

寂しいけど、これは悲しい別れじゃない。

「・・・はい・・・本当に、ありがとうございました」

そう言って別れを告げた少女の口の中は、とても甘酸っぱい味で満たされていた。

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