メディシン

それから、盲目少女と幾斗の平穏な日常が始まった。

毎日の交流で、幾斗への警戒心も緊張も解けてきた少女は少しずつだが笑うようになった。

「貴方のこと、もっと教えて下さい」

毎日のようにする少女からの質問で、幾斗について分かったことがたくさんある。

歳は27歳で、身長は178㎝。

髪は茶髪で瞳は黒。

特技はどこででも眠ることが出来ること。

そんな幾斗の特徴を頭の中で思い浮かべながら、幾斗がどんな人物なんだろうと、少女は想像していた。

「あ、そうだ。これを渡しておく」

ふいに幾斗が何かを思い出したように少女の手の上に何かを乗せた。

「・・・・・小瓶、ですか?」

「薬だ。薬」

「薬・・・・?」

手の上で転がる小さな小瓶を揺らして見ると、じゃらりと音がした。

「その薬はものすごく効くぞ。水は必要ないから飲んでみろ」

何に効く薬なのか、どうして水がいらないのか、少女は疑問に思ったが、とりあえず小瓶の蓋を開け、中の薬を一粒取り出してみた。

触ってみると、それは小さな球体で、ほのかに甘い香りがした。

「俺が用意した特別な薬だ。俺もよく飲むが、大好物だ」

「・・・・薬が、大好物・・・?」

「ちなみに、飲み込む必要もない。口に入れて気に入らなかったら吐き出せ」

更に訳がわからない幾斗の言葉を聞きながら、少女は恐る恐る手の上の薬を口に含んだ。

「・・・・・・甘い、ですね・・・・これ、飴ですよね? いちご味の・・・」

口の中に広がった甘さは、少女もよく知る味だった。

「正解。俺の薬は効果抜群だぞ」

「・・・・俺の薬?」

「あぁ、俺、薬剤師だからな」

「・・・・・・・え!?」

さらりと言われた言葉に、少女は困惑した声を出した。

「い、医者じゃないんですか!?」

「あれ、言ってなかったか? 俺はこの病院に勤務してる薬剤師」

「な、何で薬剤師が担当医・・・・!?」

「この病院は俺の知り合いが設立してて、ちょっと手伝ってるだけ。だから基本暇なんだ」

その言葉に納得した少女は、口の中に広がる甘い飴を味わう。

「・・・・・飴が好きなんですか?」

「いや、いちごならなんでも好きだ」

「・・・・・・」

また、幾斗についてわかったことが2つ。

いちごが大好物だってことと、薬剤師だということ。

「・・・・じゃあ、これ本当に薬なんですか?」

少女は、小さくなった球体を口の中で転がしながら、手の中の小瓶を持ち上げた。

「いや、それはほんとにただのいちご飴」

楽しそうに言いながら、幾斗は少女の頭を撫でた。

「俺の薬は高いからな」

そう言った幾斗は、どんな顔をしているだろうと、少女は真っ暗な世界で思い浮かべた。

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