飛び蹴りスマイル☆ふたごの魔法少女・4
「両者準備はいいアジャ? レディィィィィッ、ファイッ!」
レフェリーの合図と共に、試合開始を告げるゴングがアリーナをつんざくように鳴り響いた。
最初にリングで向かいあったのは春日先輩と堀江姉だった。リング中央に立つ堀江姉に対して、春日先輩はリングのロープ際まで後退して田村部長と話しあっている。
「……ゆいりん、先に仕掛けるよ!」
「……そうだねっ。それじゃ、ジャンボ鶴田のヤツやるよ!」
その場で春日先輩は三回ほど軽くジャンプをすると、堀江姉へと腕を振り上げながら直進した。
「そんな打撃は当たらないわよ!」
春日先輩の打撃は堀江姉には当たらない。繰り出した打撃は空を切って、春日先輩は勢いのままにロープへと突っ込んで行く。
「……ここよっ! ゆい! やるわよ!」
打撃を当てなかったのはわざとだったらしい。
春日先輩は、履いているスカートをひらりと翻して体を反転させると、ロープの反動を利用して堀江姉へと突進する。それと同時に、リングの外にいた田村部長もリングへと乱入して堀江姉へと突っかかって行った。
二人は勢いを維持したまま宙へと跳ねる。
そして、両足を肩ぐらいまでに上げて堀江姉へと思い切りドロップキックをかました。二人のドロップキックは堀江姉の両肩に当たると、堀江姉は大きく倒れ込む。
そんなことよりジャンボ鶴田って誰だろう。
「え、えげつない攻撃だな。こんなのを食らったら、さすがに起きていられないだろ」
「いや、まだナリ。あっちゃんには効いていないナリ!」
「そうは言っても、あんなのを両方から食らったら起き上がることなんて……」
コロの言う通り倒れ込んでいた堀江姉は簡単に起き上がった。
クールな顔のまま首に手をやりながら左右に倒す。
「……ダブルカウンターキックね。初めてにしては上出来。悪くないツープラトンね。でも、私たちプロ相手では大した攻撃にはならないわよ」
「いやいやいや、それはおかしいでしょ。プロって言ってますけど、あっちゃんさん達はアイドルだったんじゃ……」
「あらあらマモルさん、何か勘違いしていませんか?」
リングの外で微笑んでいた堀江妹はそう言うと、ロープのくぐってリングの中に入って行った。
「私たちは確かにアイドルだったわ。それも、レッツゴーヤングに出ていたようなね」
レッツゴーヤングってなんだろう。
前から思ってたんだけど、この人たちと会話していると知らない単語があり過ぎて困る。家に帰ったらウィキペディアで調べよう。
「でも、ただのアイドルじゃないのよ。私たちは……」
再度、二人を光が包んで変身をした。
赤と青を基調とした衣装は変わらない。ただ、さっきのようなアイドルアイドルしているフリフリのお姫様コスチュームから、ピッチリとしたストレッチ素材のコスチュームに変わっていく。いうなればレスリングのスーツのようなものだけど、二人が着ているのはより過激でファンシーな感じだ。
「高校卒業と共に私たちはアイドルを卒業したの。そして、マジック・ペアとしてプロレスデビューしたのよ!」
ただのアイドルでは収まらず、アイドルレスラーになっていたらしい。俺が呆然としていると、横でコロとペレが何やら話しあっている。
「……なるほどナリ。だからテレビから姿を消したナリね」
「マモルは知らないかもしれないプルけど、昔はよくあった話なんだプル。ミミ萩原なんかがそうプル」
「そ、そうなんですか……」
守護獣二匹はファンシーな見た目をしているけど、よくよく考えればコロとペレも春日先輩らと同年代のアラフォー、いや、ただの40代だ。ご丁寧に具体例を出してくれてはいるけど話に全く付いていけない。無駄な親切心だ。
「そうなると、タッグマッチも相当難しい試合になりそうプル」
「向こうはタッグマッチのプロフェッショナルナリ。元々タッグマッチは強かったナリけど、それにプロレスのエッセンスが加わるナリと……」
「ってことは、これは、ただじゃ済みそうになんじゃ……」
春日先輩と堀江姉はリングサイドに引いていくと、田村部長と堀江妹がリング中央で向かい合った。互いに指先を出しては引き、牽制し合って見つめ合う。どこにも隙は無いように見えた。
その時だ。俺の不安は的中した。
「た、田村部長、後ろ、うしろっ!」
見合っている田村部長と堀江妹の所に、リング外に出ていったはずの堀江姉がリングに乱入して来て田村部長の背後に回り込んだ。
春日先輩も飛び込もうとするが間に合わない。堀江姉妹の攻撃はすでに始まっていた。
「じゅん! 行くわよ!」
「お姉さま、行きましょう!」
二人は声を掛け合うと、前後から田村部長に直進して行き左右の腕を掻っ攫った。
旋風のような飛びだしでフリルのスカートが勢いよく翻り、田村部長の胴体はリング中央で一回転する。それと同時に田村部長の腕を両足で挟み込み、仰向けになるように押し倒した。いや、叩きつけたという方が正しいだろう。遠心力を使って無理やり叩きつけた。
「必殺! 魔法少女ダブル腕ひしぎ逆十字固めっ!」
押し倒した後は腕ひしぎ逆十字固めだ。それも、両腕でだ。
「っぐ、いやあああああああああっ!」
「ゆ、ゆいりん!」
両足でしっかりと締めあげられる田村部長のか細い腕はミシミシと音を立てる。
堀江姉妹が声を上げて叫んだ技名は身も蓋もない。ただの腕ひしぎ逆十字固め。それだけに田村部長の痛みは分かる。
「レ、レフェリー! お、おい! あれって反則なんじゃ……!」
「反則じゃないアジャ。プリティーかすがとゆいりんコンビもやっているアジャ」
俺は田村部長を指差して必死に言うが、レフェリーの言う通りだった。二人がかました開始早々の一撃はツープラトンなのでお互い様ということだ。
「……なんとも張り合いの無い相手ね。やっぱりアマチュアとやっても面白くないわね」
「お姉さま。このままゆいの腕をへし折ってはいかがですか? その方が観客も盛り上がりますよね?」
堀江妹は観客席に向かって大きく叫んだ。当然のように会場のボルテージは一気に最高潮だ。
――やっちまえ!
――折れ!
――勘違いババアを墓場に送ってやれ!
捻りもしない野次が次々とリングに浴びせられる。
苦境に立たせられている田村部長に悲壮感が一層増した。
「ひ、ひぃ、や、やだよ、やだよぉっ、か、かすが、助けて……」
「た、田村部長! 耐えてください! 後少しだけ耐えて……」
魔法少女の戦いに圧倒的アウェイは無かっただろう。どこからか、常に応援の声が背後から上がっていたはずだ。しかし、この場は違う。俺達が大声をあげても田村部長の耳には届かない。俺達の声は、堀江姉妹に向けられた観客席からの大声援でかき消されている。
田村部長の大きな目には涙が溢れだし、力無く呟きながら両足をじたばたさせる。が、そんなことをしたところで締め技が解かれるはずもない。
「コ、コロ、これはもう……」
「そう、そうナリね。このまま固められたらゆいりんの腕は……」
コロは首に掛けた青いタオルに手を掛けた。
「……かすがの名の下に命ずる。我が力をここに示せ! 行くぞ、プリティーレインボーバトンっ!」
リングサイドにいた春日先輩はリングに乱入して、相棒のプリティーレインボーバトンを堀江姉目がけて振り下ろした。
「ふんっ、そんな攻撃当たるはず無いでしょ?」
堀江姉はバトンを避け切った。だが、春日先輩の攻撃はこれで終わってはいない。そこから動作を崩さないまま堀江妹目がけてバトンを思い切り投げつける。
「そのような攻撃は当たりませんよ。舐められては困ります」
堀江妹も同様に体をよじってバトンを避け切る。攻撃は二人に当たらなかったものの、堀江姉妹が上体を逸らしたお陰で田村部長のホールドは解かれた。
「と、解けたっ! ありがとうかすが!」
田村部長は痛々しい笑顔を見せ、両腕を守りながら春日先輩とタッチをする。
だが、会場からは当然のようにブーイングの嵐に包まれる。なんせ堂々と武器を使ったからだ。
――武器は卑怯だぞ!
――プロレスを舐めるんじゃねえ!
――引っ込め、クソババア!
上品なお客さんたち、リング上にはババアしかいないぞ。いや、そんなことはどうでもいい。
田村部長はロープの隙間から退場したので、リングにいるのは春日先輩と堀江姉妹。1対2の戦いだ。
「反則技の使い方だけはプロ並ね。でも、あなたのような熟女レスラーなんて誰も興味ないわよ。残念ね」
向かいあって立つ堀江姉は春日先輩を煽る。春日先輩は冷静だった。
「あら、人のことを言えた口なの? 今のあなた自身の姿を鏡で見てみなさい。魔法アイドルあっちゃん&じゅんだってぇ? はぁ? どこがアイドルなの? そんな汚れ仕事はいまどき地下アイドルでもやらないわよ」
「ふんっ、ほざけばいいさ。さっさと片付けてあげる! 行くわよっ、じゅん!」
「はいお姉さま! さっさと片付けましょう!」
煽っていた堀江姉が、春日先輩の正面目がけて突進する。
春日先輩はその場にしゃがみ込んで簡単に回避した。
「まだよっ! もう一回!」
だが、堀江姉の攻撃は終わっていない。ロープを使って勢いを保つと再度突進した。
春日先輩は今度も同じようにしゃがみ込んで攻撃をかわす。さらに、ロープに突っ込んでいく堀江姉の尾てい骨目がけて思い切り足裏で蹴りを食らわせた。
「あなたの攻撃は見切ったわ。そんな攻撃、二度と食らわないわ!」
堀江姉はマットに思い切り頭から突っ伏した。
すると、今度は堀江妹が名乗りを上げた。
「まだまだっ! 今度は私が行きます!」
同じように春日先輩目がけて突っ込んでいく。堀江妹の攻撃も単調なもので、春日先輩は労せずに交わして尾てい骨に蹴りを入れた。
「……プロレスなんてチョロいものね。魔女相手に戦っている方がよっぽど心が折れるわよ」
春日先輩は両手を広げて煽り、倒れ込んでいる堀江姉妹に向かって言葉を吐き捨てた。
「ふんっ、そう言っていられるのは今だけよ? じゅん、行くわよ!」
堀江姉妹は起き上がると、同じ技を繰り返すように春日先輩目がけて飛び掛かった。
「無駄なことね。さっきと全く同じ攻撃が通じると思ってるの?」
春日先輩は同じ攻撃が来るものと思って中腰になってカウンターを食らわせようと身構えた。そこに、田村部長も増援としてリング内に乱入した。
「……さっきのは必要経費。蹴り一発であんた達を仕留められるんだから安いものね!」
春日先輩の所に堀江姉妹がツープラトンを仕掛けると誰もが思っていた。
「私のところに ……こない?」
だが、堀江姉妹は春日先輩をスルーした。繰り出した右腕は宙で空振りさせられる。
「かすがばかりにいい恰好はさせないんだから、今度はもらったよっ!」
「ゆいりん、そんな攻撃が当たると思ってるんですか?」
乱入した田村部長は堀江妹めがけて腕を振って頭に強打を食らわせようとした。
だが、対面から走り込んできた堀江妹は強打を簡単に避けて、ロープを使って逆に田村部長目がけて突進した。堀江姉も同様にロープを使ってそこから勢いよく春日先輩に向かっていく。
春日先輩と田村部長はリング中央で背中合わせとなる。ほんの少し前までは前後から追い込もうとしたのだが、逆に前後を譲り渡して追い込まれていた。
「残念ねかすがにゆいりん。これで終わりにしてあげるわ!」
中央で孤立する春日先輩と田村部長の喉元に堀江姉妹の左腕がクリーンヒットをする。惚れ惚れするくらいに綺麗なラリアットだった。二人は濁った声を上げながらリングに沈められる。
「か、春日先輩に田村部長!」
「無駄だ。受け身を取っていれば大したことは無いかも知れないけど、この二人は不意をつかれたからね。ただでは起き上がれないわよ」
「そうです。これがプロとアマの決定的な差です!」
堀江姉妹の言う通り訓練を受けたプロなら咄嗟の動きにも対応できたかもしれない。
しかし、春日先輩と田村部長は素人同然だ。そんなことが咄嗟に出来るはずもない。
二人は息を必死に吐きながら腹部を上下させるのが精いっぱいで、立ち上がることも困難な状況に陥った。
「これでフィニィッシュよ!」
春日先輩と田村部長は逆さに持ち上げられて太ももを羽交い締めにすると垂直に落下させる。
頭からのダメージを受けて抵抗できない春日先輩・田村部長の両足を、堀江姉妹は水平に大開脚させた。
フリフリのスカートのガードは破られ、当然のように局部が丸出しになった。
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