第146話 星祭り その4
こうして部長の許可も取れたと言う事で、マール達はペコリと頭を下げて部室から出ていった。一部始終が終わって静かになったところで、ミーム先輩が呆れ顔でため息を吐き出す。
「ふう、まるで花火みたいな留学生達だな」
「元気なところは去年のミームを見てるようだよ」
部長はそう話す先輩の顔を見ながら微笑みを浮かべた。この指摘に先輩は目を丸くする。
「えっ?私ってあんな?」
「そっくりだったよ。そうだ、マールのパートナー、お願い出来るかな?」
部長は先輩とマールの相性を見抜き、一緒に活動する事を提案する。先輩は一瞬驚いたような表情を浮かべ、それからすぐに真面目な顔になった。
「部長命令なら」
「命令じゃないよ、お願い」
その反応から何か高圧的に受け止められたのかと感じた部長は、改めて先輩に優しく話しかける。その言動から想いを察した先輩は少しわざとらしく頭を下げた。
「この私めにお任せを!」
「頼もしいな。頼んだよ」
舞台は変わって学園の寮。マールは使い魔の僕に目を輝かせながらこれからの事をベラベラと楽しそうに話しかける。
僕はその熱意を右から左に受け流して、事実だけを記憶していった。
「ふ~ん。星祭りね」
「とんちゃんは知ってた?」
「そりゃ知ってるよ。知識だけだけど」
僕は試されている気がして必死で知ったかぶりをする。大体、本島に来てからは寮から出る事が出来ないのでこの島の使い魔ネットワークを利用出来ない。この島独自の風習やらイベントやらは僕は知る事が出来ないんだ。どうにか寮を抜け出せればいいんだけど、変に結界が強固で抜け出せないんだよね。
ま、この事はマール達には秘密だけど。
僕がポーカーフェイスを決めていると、マールが眉を下げて淋しそうな表情を浮かべる。
「ごめん。一緒に連れてきたいけど……」
「いいよ、今更。友達だけで楽しんできな」
「うん、有難うね」
僕の了承を得て、マールは安心した顔でベッドに潜り込んだ。それを見た僕もあくびをひとつ。
さて、寮の外には出られないけど、僕もこの建物の中を探検するかな。みんなが寝静まった後、たまにそう言う事をしてるんだよね。ずっと部屋の中に閉じこもってるばかりじゃストレスだって溜まっちゃうもの。寮の他の使い魔達ともそれで仲良くなってるし……。
まぁ、だから淋しいなんて事はないんだよね、本当は。
それからあっと言う間に時間は飛んで、星祭りの当日がやってきた。このお祭りは夜のお祭りなのでみんなが集まるのも夕方になってから。そんな訳で、放課後になってマール達はミチカ達との待ち合わせの場所に向かっていた。その場所は星祭りの会場の近くの公園。
彼女からもらった手書きの地図を頼りに2人は歩いていく。初めていく場所なのでマールは何度も地図と現在地を確認していた。
「えーっと、待ち合わせ場所は……」
「あ、あれじゃないですか?」
該当する場所らしきものが見えてなおが指差す。公園は結構特徴的な遊具とかも合って割と分かりやすかった。
ただ、その場所は待ち合わせの定番みたいな所だったらしく、マール達が着いた頃には他の待ち合わせらしき人達でかなり賑わっていた。
「ん?もう結構人が多いよ?」
「みんな星祭りの待ち合わせなのでしょうか?」
「だったりして」
「おーい!こっちこっち!」
2人が公園内を歩いているとすぐに呼び止める声が届く。そこで声の方に振り向くと、しっかりおめかししたミチカ達がスタンバっていた。前の待ち合わせの時とは違うこの状況に、マールは目を丸くする。
「まさか先に来てるとは……」
「私は朝が弱いだけだっつーの」
彼女の反応に気を悪くしたミチカが頬を膨らます。そんな2人とは対象的に、エーラとなおは親しげに挨拶を交わしていた。
「今日はよろしくです」
「楽しもうね!」
こうして4人が揃ったところで星祭りを楽しむ状況は整い、みんなは雑談をしながら会場へと向かう。
公園から会場までは徒歩5分と言ったところだろうか。まだ夕方で日も完全に暮れてはいないと言うのに既に人が多く集まっていた。お祭りの定番の屋台もズラッと並んでいて、その光景を見ただけでマールはよだれをこぼしそうになっている。
「廻るのはやっぱ屋台から?」
「あはは、それはいきなり過ぎるって」
マールの欲望ダダ漏れな問いかけにミチカは大笑い。そこで何も知らない彼女は地元少女の顔を真顔で見つめ返した。
「じゃあ、どこか行くとこあんの?」
「とーぜん、最初はまず祭壇だよ」
ミチカはドヤ顔で即答する。その答えを聞いたなおが今からみんなで何をするのかの予想を立てた。
「祈りを捧げるんですね」
「そ!やっぱなおちゃんは違うね」
「いやそのくらい私だってすぐに思いつくんですけどー」
彼女のなお上げにマールは頬を膨らませる。何となく雰囲気が悪くなる中、その様子を気にしたエールが仲裁しようと言葉をかけた。
「まぁまぁ、星祭りの日に喧嘩はマズいって」
「え、そうなん?」
「あー、今夜は宇宙から精霊が降りてきてみんなの心まで見透かされるって言うしなぁ」
喧嘩が良くない理由について、ミチカも何か思い出したみたいで1人で納得する。その言葉を聞いたマールは、そこからお祭りの言い伝えを推理した。
そうしてすぐにある結論に辿り着くと、勢いよくポンと手を打った。
「あ、分かった!それで悪い子にはお仕置きをってやつでしょ。パターン読めるわあ」
「惜しい!悪い子には何もないんだ。何もね」
「へ?」
予想が外れたマールは目が点になる。答えを知りたくなった彼女は何も言わずにミチカの顔をじーっと見つめた。
その視線を感じたミチカは、少し得意げになって人差し指を立ててドヤ顔になる。
「いい子にはギフトが送られるって言われてるんだ。ま、幸運って言う目に見えないアレだけど」
「へぇ、もう始まってるのかな?」
「ま、流石に星が見え始めてからじゃないかな」
マールの質問を受けたミチカは空を見上げる。上空は濃い群青色に変わり始めていたけれど、まだ夕暮れの残滓が残っていて本格的な夜はこれからと言った雰囲気だった。
同じ景色を目にしたなおは、そこで既に輝いていた一点の光を見つける。
「でも、もう一番星は見えてますね」
「やば!もう余計な事は喋らないようにしないと」
マールはすぐに言い伝えを気にして大袈裟なリアクションを取った。その様子を見たエーラはクスクスと軽く笑う。
「はは。取り敢えずは祭壇前では良い子を演じていればいいんじゃない?」
「そんなもんなの?」
マールはエーラのその言葉にゆるさを感じて脱力した。そこですぐさまミチカがツッコミを入れる。
「マールは今夜一晩色々と気をつけた方がいいかもだけど」
「言ったね?ミチカよりはちゃんとしてる自信はあるよ」
「私だってしっかり真面目ですよーだ」
「へぇぇ」
言い合っている内にミチカとマールの雰囲気が険悪っぽい感じになってきた。そんな2人の様子を見たなおが慌てて仲裁に入る。
「2人共、お、落ち着いてください、ね?」
「大丈夫大丈夫。私は平常心だよ」
「私だって平常心だよ」
あたふたする彼女に2人はお互いに別に感情は高ぶっていないと説明。その後の会話は無難なやり取りに終止する。
何となくさっきまでのやり取りが有耶無耶になってしまったところで、目的地が近付いてきたようだ。
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