第145話 星祭り その3
「分かりました!すぐに帰ります」
「うん、ならよろしい。お祭り、楽しんでね」
こうしてお祭りの時の決まりを確認した2人は、改めて寮の中に入っていった。色々と言われるのかと思ったらあっさりと話が通ってしまい、その事で会話が弾む。
「案外簡単だったね」
「毎年の話だそうですから、お馴染みの事なのでしょう」
「だね~」
次の日、マール達が休み時間にまったりしていると、寮の門限についてミチカが話しかけてきた。
「許可取れた?」
「とーぜん!」
「じゃ、みんなで星祭り楽しもうね」
望み通りの返事をマールから聞けて、彼女はニッコリと笑う。ここで心に引っかかりを覚えたマールはその疑問を口にした。
「そういやその時のメンバーって?」
「収穫祭の時と一緒だよ」
「そか。なら気が楽だ」
こうして当日同行メンバーの確認が取れて、マールは胸をなでおろす。話がリセットされたところで、ミチカがここで今回の裏話を少し大袈裟に口にした。
「マールもなおも文化祭で一気に有名になっちゃったから、みんなが狙っていて大変だったんだよ」
「何か裏で動いてたの?」
「星祭りを楽しむメンバーって結構重要でね。その年に一番話題になった人と楽しむのが一番幸運を呼ぶって言われてるんだ」
彼女は、その後も自分達がマールを誘う権利を得るために様々な手を使った事を力説する。言う方は武勇伝かも知れないけど、聞かされる方は自分達のためにそう言う闘いをさせてしまった事に何となく引け目を感じさせてしまうのだった。
「そんな事になってたの?」
「でも私達と一緒楽しむの、嫌じゃないでしょ?」
「まぁ、うん」
確かに、あんまり馴染みのないメンバーと一緒にお祭りに行ってもそんなに楽しめる気はしない訳で。マールは、同行メンバーに誘ってくれたのが一番仲の良いクラスメイトだった事を運命の女神に感謝する。
ミチカは勝利者の余裕を見せるかように、マール達の都合を優先した。
「他に一緒に行きたいメンバーがいたら誘ってもいいよ」
「じゃあまた聞いてみるよ」
お祭りの話が具体的に決まっていき、段々と気持ちも高ぶってくる。その雰囲気になおも興奮して声を弾ませる。
「お祭り、楽しく賑やかに過ごせるといいですよね」
「そうだ、他にも星祭りの話が何かあったら教えてよ」
「お、興味が湧いてきた感じ?いいよ、話したげる……」
このリクエストに気を良くしたミチカは、星祭について詳しい話をマール達2人に得意げに話し始めた。星祭りの由来から現在のお祭りの話、そうしてお祭りに関するジンクスなど。冷静になると他愛のない話も多かったものの、初めて聞くその話にマールたちは何度もうなずいて目を輝かせた。
地元住民のその熱いお祭りの説明を最後まで聞き届けた後、マールは感心したように相手を褒め称える。
「ミチカ、詳しいんだね」
「いやこれくらい常識だって。本島の子はみんな知ってるよ」
「そ、そうなんだ」
本島の住民の星祭りに対する情熱に、マールは少し圧倒された。同じ話を聞いたなおは、その情熱をプラスに捉えて分かりやすく感動する。
「それだけみんなに愛されているお祭りなんですね」
「子供の頃から親とか周りの大人達に何度も話を聞かされるからね~」
「本番の日が楽しみです」
こうして、お祭り情報を記憶に刻み込んだ事以外はその日も何事もなく過ぎていって一日は無難に暮れていく。マール達はミチカの言葉を思い出し、星祭りに同行出来る留学生メンバーがいないか声をかけてみる事にした。
ちょうど寮に戻った時に主要メンバーが揃っていたので、そこでさり気なく話を振ってみる。
「みんなは星祭りの日、何かするの?」
「え?まぁ部活の子達と一緒に……あ、ごめん」
すぐに返事を返してきたのは、部活をエンジョイしているファルアだった。彼女は自分の予定を口にした後、申し訳なさそうにマールに頭を下げる。
マールもまた余計な気を使わせてしまったと焦りながら、彼女に自分達の事情を説明した。
「いや、私達もクラスの友達と行く事になったから」
「そか。いい友達が出来て良かったね」
「当日はお互いに楽しみましょうね」
こうしてファルアの予定を確認した後、次のメンバーのスケジュールを確認しようとマールはゆんの顔を見る。そうして口を開きかけたところで、先を読んだ彼女が自分の予定を率先して話し始めた。
「私はライブだよ」
「まさか、星祭りの日特別ライブ?」
「だよ~。売れっ子アイドルは忙しいんだから」
ゆんは嬉しそうに笑う。本当にアイドルとして活動するのが楽しいのだろう。その笑顔を見たなおも優しく微笑み返した。
「頑張ってくださいね」
「ありがと!」
こうして寮内にいる留学生仲間のスケジュールは全員分確認出来たと言う事で、マールは改めてなおの顔を見る。
「みんな予定埋まってたね」
「あの、しずるさんは?」
「しずるはいつもみたいな感じじゃない?今日も姿が見えないし」
しずるの都合を聞かれたマールは、彼女は捕まらないものとして扱った方がいいと返事を返す。その内容を聞いたなおは、少し淋しそうな顔をした。
「誘うの、難しいでしょうか?」
「多分ね~」
残念がる彼女を何とか説得し、この日はゆっくりと一日は過ぎていく。それにしても、しずるはいつもどこで何をしているのだろう。召喚魔法部とは別の謎の校内の秘密組織に所属して暗躍でもしている?
本人に話を聞けない以上、この謎は深まるばかりだった。
次の日、登校したマールは追加メンバーが増えない事をミチカに伝える。
「ごめん、全員に話を聞いてみたんだけど……」
「いや謝らなくていいよ。ほら、4人ってちょうどいいじゃん」
「だね」
何だかんだ言いつつ、マール、なお、ミチカ、エーラの4人は良いグループになってきていた。この4人なら、星祭りも楽しいものになるだろうとマールは夢想する。その後、4人で集まって星祭り談義に花が咲いたのだった。
お祭りの予定が決まったからにはその日に部活の予定が重なっては困ると言う事で、今度は召喚魔法部に話をつけに行く。放課後、2人が転移魔法で部室に赴くと、席に座って何か書物をしていたミーム先輩に要件を伝えた。
「ほう、星祭りの日は開けて欲しいと……」
「ダメ……ですか?」
「私だったら悩むところだけど、部長なら話を聞いてくれるんじゃないか?」
そう、確かにこう言う話は部長にするのが一番確実。なのに何故一番最初に目に入った先輩に伝えたのかと言えば、部長の姿が見えなかったからだ。
ミーム先輩に話をしても埒が明かない事が分かり、マールは改めて部室内を詳しく観察する。顔を左右に動かしたところで該当人物の姿が見つかる訳もなく、マールは先輩に助言を求めた。
「その部長は?」
「今日は生徒会に報告に行ってるから……」
「僕がどうかしたかい?」
「あっ、部長!」
噂をすれば何とやらと言うか、部長の話をしていたそのタイミングで本人が転移魔法で部室に入ってきた。それを利用して、マールはシームレスに事情を部の責任者に説明する。
部長は黙って彼女の話を聞き入れ、話が終わった後にニッコリと微笑んだ。
「星祭りだね。いいよ、じゃあ本格的な部活参加は翌日からにしよう」
「「有難うございます!」」
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