第140話 魔法文化祭 その8

 それが分かった彼女は、問題なく友達の活躍を楽しめると言う事で心を弾ませる。


「忘れないようにしなくちゃだ!」


 ライブ情報の問題が解決されたところで、その後もずっと文化祭パンフを眺めていたミチカがここで魅力的な出し物を発見した。


「ねぇ、演劇部の劇見る?」


「今やってるの?」


「後20分くらいしたら上演かな。急げば間に合うと思う。席は埋まってるかもだけど」


 ミチカのその説明を聞いたマールの好奇心のアンテナが本格的に動き始める。


「そんな人気なんだ?」


「そりゃあ、美女もイケメンもいるしね」


 この一言が決定打になって、マール達の次の行動は決定される。好奇心マックス状態の彼女はすぐに行動を開始した。


「よーし、ダッシュで行こう!」


「あ、マールちゃん待って!」


 2人が駆け足で廊下を進む中、話に乗り遅れたなおはワンテンポ遅れて走り出す。演劇は校舎じゃなくて講堂で行われているので、自力で向かえば辿り着くのは本当に上演ギリギリの時間になってしまう。転移魔法はこの人混みの中では使えなから仕方ない。


 3人が懸命に走ったところ、何とか上演5分前に講堂に辿り着く事が出来た。中は熱気がものすごくて、3人共少し気後れをしてしまう。その後、靴を履き替えて中に入ると、ずらりと並んだ席はほぼ埋まっていた。

 3人がそれぞれ空いている席を探していると、ミチカが2人を手招きしたのですぐに合流する。


「一番後ろの席しか空いてなかった……」


「おばけ屋敷で時間ロスしちゃったしね」


 マール達は一番後ろに偶然3席並んでいた空席を見つける事が出来、そこに並んで座った。最初はいい場所を選べなかった後悔について話していたものの、気持ちに余裕の出来たミチカが振り向いたところで自分達の幸運を口にする。


「まだ座れただけ良かったよ。ほら」


「うわ、いつの間に……」


 彼女の言葉にマールが振り向くと、そこのは大勢の立ち見の人の姿が。上演間近となって更にお客さんが増えたらしい。この講堂は全校生徒が収容出来るほどの座席数を誇っている。

 けれど、文化祭は一般の人も訪れるので今の講堂内も生徒以外の割合が高い。この学校の演劇部の演劇はそのそれほどまでの人気なのだ。

 その人気の高さにマールは改めてゴクリとつばを飲んだ。


 講堂内の熱気がピークに達した時、降ろされていた幕が上がっていく。ミチカはすぐに雰囲気に圧倒されている2人に声をかけた。


「お、始まるよ」


 こうして大人気の演劇はスタートする。舞台上には凝ったセットと凝った衣装の演劇部員達。切れのいい動きとよく通る声が印象的だった。演技もすごいものだったのだけれど、音響とか舞台装置の演出も本格的で、まるでプロの舞台を見ているような雰囲気があった。

 お客さん達のほとんどはその出来に圧倒されていて、当然マール達もその迫力に心を撃ち抜かれていた。


「おお、演出がすごい……」


「すごく……本格的だ」


「まるでプロみたいですね」


 上演されている演目はオリジナルのもので、冒険あり笑いありのお客さんの好みを読んだエンタメ要素満載の物語。先の読めない展開でお客さんをどんどん惹きつけていた。

 マール達も注目して観劇している中、ミチカがこの演劇部についての豆知識を披露する。


「演劇部の監督が元プロの演出家だからね~」


「へぇぇ~」


「この演劇部を経てプロの役者になる人もいるんだって」


「それはすごい」


 そんな会話をしてる内に舞台上では話が進み、決闘シーンに移っていた。舞台上ではイケメン演劇部員2人だけとなり、激しい戦闘が繰り広げられる。そのアクションは本格的で、ダメージを受けた相手の痛みまで見る側にダイレクトに伝わってくるようだった。

 決闘のラストシーン、決着が着くその場面で集中して見ていたマールが声を上げる。


「わあっ、痛そう」


「演出だってば」


 ミチカは演劇を見慣れているのか、そこでクールにツッコミを入れる。決着が着くと場面は転換して、また大勢の演劇部員が舞台に出てきた。クライマックスが近いのか役者達が物語に残った伏線を話し始め、そこで意外な事実が判明する。

 会場はその展開の見事さにどよめきの声が上がった。当然この流れにマール達も驚いています。


「大どんでん返し!」


「びっくりです」


 全ての問題がこうして解決した舞台上では、ハッピー・エンド状態となって演劇部員達が歌い始めた。

 演劇をあまり見た事のないマールは、その流れに少し戸惑う。


「急に歌うし~」


「だって演劇だもん」


 観劇経験者のミチカは演劇のお約束に一々素直な感動をする彼女に冷静なツッコミを入れる。舞台上では登場人物全員がその美声を披露していた。それを見たなおも感想を口にする。


「皆さん歌も上手ですね」


「だよね」


 全員が歌い踊り、劇はそのままフィナーレを迎えた。お客さんで溢れる講堂は割れんばかりの拍手に包まれる。マール達も素晴らしい演技を見せてくれた演劇部員達に向かって惜しみない拍手を送った。

 幕も降りて席を立つ人も増え始めた頃、マールはミチカに話かける。


「いやあ面白かった。でもお腹空いたね」


「だってもうお昼だもん」


 この言葉を受けてマールが時間を確認すると、示されていた時間は12時20分。この事実に彼女は驚愕する。


「うえっ?時間あっと言う間に過ぎ過ぎ~」


「あはは」


 その反応が面白くて同席していたなおもクスクスと笑った。演劇も終わったと言う事で、3人は講堂を後にする。

 靴を履き替えて外に出たところで、ミチカが笑顔で話しかけてきた。


「ご飯どうしよっか」


「え?」


「ほら、お店出しているところがあんなに」


 普段ならお弁当を持参していない場合、食堂で食べるのがセオリーなのだけど、今日は文化祭、生徒達が主催する食べ物関係の屋台も多く出店している。運動場はさながらお祭り状態だった。ミチカは食事もこの屋台メニューで済ませようと提案してきたのだ。

 マールは彼女の真意を再確認する。


「食べ歩きするの?」


「それが文化祭の醍醐味でしょ。嫌なら別にいいけど」


「いや、勿論付き合うよっ」


 この屋台村に興味津々だったマールはミチカの誘いにすぐに乗っかった。こうして全部の屋台メニューを制覇する勢いでマール達は食べ物を購入していく。

 屋台メニューはたこ焼きやら焼きそばの軽食系や、ポテトやアメリカンドックのおやつ系、クレープなどのスイーツ系と盛りだくさん。好きなものを好きなだけ購入してマール達は笑顔になる。

 マールは主にB級グルメ的な屋台を選んで、なおはクレープやポテトなどを好んで購入していた。


「うんまうんま」


「皆さん流石お店を出すだけあって上手ですね」


 屋台メニューを堪能した2人が感想を言い合っていると、ここで焼きそばやらピザやらを食べてお腹を膨らませたミチカがお腹をポンポンと叩く。


「うむ、余は満足じゃ」


「何キャラだよ!」


 その謎の王様キャラにマールは軽くツッコミを入れた。まだまだ食べていない屋台があるとマールとミチカが新たな屋台に並んだところで、時間をチェクしていたなおが2人に声をかける。

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