第139話 魔法文化祭 その7
みんなで作った魔導オブジェの評判はかなり好評で、お客さんは色んな角度から眺めたり、写真を撮ったり、その写真をネットにアップしたりと思い思いの方法で楽しみ始める。可動するオブジェはふわふわと空中を浮いており、手を動かして挨拶をしたり、あくびをしたりと、まるで生きているようなリアクションをした。
新たな動きを目にする度にお客さんは目を輝かせる。オブジェの造形も真っ黄色でゆるい感じだったので、そこも受けているのだろう。
お客さんの良好な反応を目にしたミチカは何度も何度もうなずいている。特にトラブルが起こる様子もなく、今日一日無事に展示し続けられそうだ。
この日のために頑張ってきた制作班のクラスメイトも、オブジェの人気に目を細める。
「うんうん、受けもいいね」
「マール、一緒に他の教室回ろうか」
自分の教室はこれで大丈夫だと確信したミチカがマールに声をかける。一応教室にも何人か担当は残ってもらうものの、それ以外のメンバーは自由行動だ。
お誘いを受けたマールは目を輝かしてふたつ返事で了解する。
「うん、行く行く!なおちゃんも行こうよ」
「あ、はいっ」
マールがなおを誘って、こうして3人での学園の魔法文化祭巡りが始まった。まだ勝手の分からない留学生組は、スタスタと歩くミチカの後ろをカルガモの子供のように甲斐甲斐しくついていく。
マールは好奇心の炎を燃やしながらミチカに話しかけた。
「まずどっから行くの?あ、そうだ!」
「うん?」
「ねえ、このまま街の文化祭に行くってのは駄目?」
「駄目に決まってるでしょ!マールは午後からオブジェの管理担当なんだから」
彼女の密かな野望は速攻でミチカに否定される。マールはこのどうしようもない現実を心の底から嘆いていた。
「うー。なんで同じ日に文化祭やってるのよーっ」
「学校の出し物も楽しいってば」
「そうですよ、楽しみましょう」
「はぁーい……」
同行する2人から説得されてマールはトボトボと廊下を歩いていく。いつの間にか3人の並びはミチカが先頭でマールが最後尾となっていた。3人は他のクラスの出し物を興味本位で適当に廻り始める。
教室によっては資料を展示しただけのものとか、クイズをやっていたりとか、実験をしていたりとかで、それぞれクラスの特徴が出ていて結構面白い。
最初はそんなに乗り気じゃなかったマールも、段々と文化祭を楽しめるようになっていった。
ある程度のクラスを廻って階段を上がって2階についた時、ミチカが一番近くの教室の出し物に注目する。
「あは、魔法料理出してる」
そこは2年生の教室で、生徒達だけで運営する魔法料理を出す喫茶店。喫茶店なので魔法料理は軽食しか出ないものの、興味を持った3人は排水口に水が流れるようにその教室に入っていった。
3人はエプロンをした店員生徒に案内されて開いている席に座る。それからメニューを見て、それぞれ好きなものを注文した。
マールはパンケーキとミルクティ。ミチカはアップルパイとジンジャエール、なおはショートケーキと紅茶をそれぞれ選択。当然それらはみんな魔法料理で、みんな何かしらの魔法がかけられている。
注文したメニューはあらかじめ用意していたものらしく、すぐに3人のもとに届けられた。ミチカは魔法の込められたアップルケーキを一口サイズに切り分けて口に含むと、満足そうに笑顔を浮かべた。
「意外とイケるよ、これ」
「うんまうんま」
マールもパンケーキの出来にご満悦。なおもまたショートケーキを美味しそうに食べている。全員が出された料理に満足して魔法料理喫茶店を後にした。
それから2階の教室も適当に巡っていると、定番のお化け屋敷をやっている教室をミチカが発見する。
「お化け屋敷、行っとく?」
「行こっか」
このお化け屋敷に興味を持ったマールはすぐにこの誘いに乗っかった。なおも特に異論はないようで、そのまま流れで3人は一緒に教室に入っていく。
このお化け屋敷も流石は魔法学校の生徒の作ったお化け屋敷、ギミックは素人感満載なものの、演出は魔法がふんだんに活用されており、雰囲気はとっても本格的だった。
まず入った瞬間に、3人はそこがまるで別の世界かのような錯覚を覚える。教室のはずなのに薄気味悪い世界が目の前で展開されていた。
この雰囲気の完成度の高さにマールは圧倒される。
「ちょ、何?異世界?」
「空間拡張魔法みたいですね、すごい」
今までは割と大人しめの反応の多かったなおも、この魔法技術の高度さに目を輝かせていた。そんな感じで最初こそ怖さより好奇心が勝っていたこのお化け屋敷だけど、演出に迫力があると言う事はその後の恐怖体験もまたとんでもない完成度だと言う事で、3人は少しずつこのお化け屋敷の怖さに心を震わせていく。
急に暗くなったり、雷が鳴ったり、前後左右背後から怪しげな気配が漂ってきたりと、いかにもこれから怖い魔物が出てきますよってお膳立てが整えられる。
そうしてルートに従って角を曲がったその時だった。3人の前に突然四方八方から恐ろしげな魔物が姿を表したのだ。
お約束な展開ではあったけれど、すっかり雰囲気に飲まれていた3人はこの突然のアクシデントに大声を上げる。
「うわああっ!」
「キャアアー!」
「こ、こんなものっ!」
ミチカとなおが叫び声を上げる中、恐怖に駆られたマールがつい攻撃魔法を魔物に浴びせようとしてしまう。その禁止事項を察知したお化け屋敷の管理者が、ここで注意をしに3人の前に現れた。
「お客さん、破壊魔法は厳禁ですっ!」
「あ、ごめ……ファルア?ここあなたのクラスだったんだ」
管理者はマール達のよく知るファルアだった。そう、このお化け屋敷は彼女のクラスの出し物だったのだ。ファルアの方もすぐにマールの存在に気付き、態度を軟化させる。
「あ、マールじゃん。楽しんでる?」
「いやもう怖いよここ」
「にひひ、当然だよ!」
懐かしい友達と軽く会話を楽しんだ後、お化け屋敷ツアーは再開される。その後も大いに怖がり、大いに叫び声を上げて、何とかお化け屋敷を抜ける事が出来た。
出口まで到着したところで、3人はまたしてもファルアに再開する。彼女は出口で無事に辿り着けたお客さんを見送る係も兼任しているらしい。
「有難うございましたー!」
こうして友達に見送られてマール達はお化け屋敷を後にする。廊下を歩きながら、さっきのアトラクションについて話は盛り上がった。
「結構本格的だったね」
「ファルアちゃんも頑張ってましたね」
なおはお化け屋敷の内容よりも、そこで頑張る友達の笑顔が一番印象に残っているみたいだ。廊下を歩いて次に楽しむ場所を探しながら、マールはミチカに質問する。
「この文化祭でもクリスタルエレメンツのライブあるんだよね?」
「えーと、昼からかな。マールの担当の時間が始まる前には終わる感じ……?」
タイムテーブルを持つミチカの説明によると、アイドル研のライブは午後1時からの30分で午後2時からのマールの担当の仕事には影響しない。
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