第138話 魔法文化祭 その6
魔導石の入ったエネルギーボックスは作動中に外れないように魔法的な封印を何重にも張り巡らせていた。その難易度の高さを自覚しながら、製作班スタッフはなおに恐る恐る問いかける。
「出来る?」
「やってみます!」
なおはまずまぶたを閉じて深呼吸して精神を落ち着けると、カッと目を見開いた。そうしてオブジェをじっくりと観察して、その体に流れる魔導エネルギーの流れを見極める。
そうしてどうすれば止められるかの突破口を感じ取り、すぐに実行しようと手を伸ばしたその時だった。
「グギャゴ……オマエ、ナニスル、キダ!」
「シャベッタァァァッ!」
そう、今まで雄叫びしか上げていなかった魔導オブジェがいきなり言葉を喋ったのだ。この突然の異変に、教室内はとんでもない騒ぎになる。
周りが混乱する中、なおは冷静に自分に求められた役割を実行した。
「ごめんなさい。あなたを……止めます!」
「ヤメロオオオオ!」
自分の命のもとになっている動力源の魔導石を抜き取られまいと、オブジェは必死の抵抗を試みる。
けれど、拘束魔法の光の網はまだ破られない。そんな状態の中、なおは手を伸ばしてオブジェにかけられた封印をあっさりと解き、中のエネルギーボックスを簡単に取り出してしまった。
命の力を失った魔導オブジェはすぐに沈黙。こうして暴走事件は無事解決する。
なおは取り出したエネルギーボックスを開いて中のレプリカ魔導石を抜き出して観察し、暴走の原因を見抜いた。
「このレプリカに地霊の余剰エネルギーが混入していたみたいですね」
「え……それって」
彼女の見解にミチカが質問を飛ばす。なおは魔導石を親指と人差指でつまんで、興味深そうに眺めながら言葉を続けた。
「今は眠ってもらっています。月の光で浄化すれば余剰エネルギーは元の大地に戻るはずです」
「なおちゃんすごい!」
その見事な処置にマールが感嘆の声を上げる。この言葉が呼び水になって、教室にいたクラスメイト達が次々になおを讃えた。
「すごい!」
「最高!」
「かっこいい!」
クラスメイト達から次々に上がる賞賛の言葉を浴びて、なおは頬を赤く染める。
「そ、それほどでも……」
「それほどでもあるんだって!」
謙遜する彼女にマールは彼女の肩を軽く掴む。とにかく事件は解決したと言う事で、クラスに落ち着いた時間が戻ってきた。魔導石は制作班に手渡され、なおの助言通りに浄化作業をする事に。
場が落ち着いたところで、マールが改めて感想を口にした。
「いやあ、大袈裟な事にならずに済んで良かったよ」
「本当です。マールちゃんがすぐに呼びに来てくれたから」
「私はなおちゃんなら何とかしてくれると信じてたからね」
なおは自分の手柄を誇示するでもなく、呼びに来たマールの手柄だと相手を立てる。マールは彼女の謙虚さに感動しつつ、さっきのオブジェへの対処の仕方で気になった事を質問する。
「でもどうして原因や対処法まで分かったの?」
「あのレプリカに触れた時にイメージが逆流してきたんです」
「そうなんだ。地霊っていつから混入してたんだろ?」
「最初から混入されて販売されているみたいです。レプリカはそのままだとただの水晶ですから」
マールの質問を、なおはスラスラと立て板に水を流すように答えていく。まるでレプリカ魔導石の事を以前から知っていたみたいに。
でも、だとしたらそれは本来おかしな話である訳で。レプリカ魔導石の事はマールでも今日になるまで知らなかった代物。それになおに至っては魔導オブジェと対面するまで全く知識として持っていなかったはず。
この現象について、マールはどう考えても答えを導き出せずにただ首をひねるばかりだった。
「よく知ってるね」
「これも触った時に情報が伝わってきました」
触った物からそのイメージを読み取る――サイコメトリーみたいな能力をなおは会得しているのかも知れない。その触ったものがレプリカ魔導石だったからこそ分かっただけなのかも知れないけれど。
なおの話をそこまで聞いたマールは、何だかレプリカ魔導石が怖い物のように感じてしまう。
「じゃあ市販されているレプリカはみんな危険なものって事?」
「多分そうじゃなくて、何かのきっかけがあったんだと思います。眠っている地霊を呼び起こす何かが」
なおの話を聞いて、マールはそのきっかけに相当するかも知れない事柄を思い起こしていた。それはレプリカを買ったミチカが中々帰ってこなかった事との関連だ。
気になった彼女は、なおにそれとなく話を振ってみる。
「そう言えばミチカがアレを買った後に道に迷ってたけど、それも原因だったりして」
「もしかしたら土地の地場が影響したのかも知れませんね」
結局その謎は解けないまま、レプリカ魔導石以外の作業をまた続けていく。遅れ気味だった行程は、マール達生徒の必死の頑張りで何とか順調にタイムスケジュールを消化していった。そうしてなおの助言通りに浄化を済ませたレプリカ魔導石を再度オブジェに組み込んで、全ての作業が完了する。
一生懸命頑張ったのもあって、マールはこの瞬間に溜めていた感情を爆発させた。
「やった!完成だぁ~!」
「やりましたね、マールちゃん!」
「うん、達成感半端ないよっ」
クラスの出し物が完成したのがちょうど文化祭の前日。教室の飾り付けも済ませて案内パンフレットなどの準備もセット完了。後は当日を待つばかりとなった。
マール達は、クラスが一丸となって完成させたこの出し物に絶対の自信を持っていた。
この日は他のクラスからも次々に歓声が上がっており、どのクラスもギリギリまで作業をしていた事がうかがわれた。その歓声を聞く度に明日の文化祭がとても楽しみになってくるマールなのだった。
日付が変わりあくる日、魔法文化祭の当日がやってきた。朝の準備を済ませ、登校してきたマール達は気分を最大限に高ぶらせて教室へと向かう。なおと2人で楽しく話をしながら教室に入ると、すぐにミチカから声をかけられた。
「ついに文化祭当日だね」
「不具合が起きないか気を付けなくちゃ」
マールは先日の暴走の件を思い出して少し心配そうな表情を浮かべる。すると、ミチカはニコニコ笑顔でこの心配性の女子の背中をどんと勢いよく叩いた。
「大丈夫だって、最後みんなであれだけチェックしたんだし」
「だよね~」
彼女の言葉にマールも安心して笑顔を返す。文化祭の始まる午前9時までに間に合わせるようにクラスメイト達は素早く作業を進めた。魔導オブジェも今度こそ不具合なく想定通りの動きをしてくれている。
全てのチェックが終わっていつでもお客さんを迎え入れられる状態になったところで、時間は午前8時50分に。本当にギリギリで間に合っていた。
10分後に文化祭が開催されると、学校に続々とお客さんが入ってくる。程なくして、マール達の教室にもお客さんがポツポツと入り始めた。
最初は何の出し物があるのかと教室内を物色し始めたお客さん達も、教室の真ん中にでんと構える巨大オブジェにすぐに目を奪われる。
「おおっ、すげぇ~」
「1年生でこの完成度ってヤバくね?」
「よく見ると可愛いよね?」
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