第118話 収穫祭 その5
「留学組の友達?」
「うん、何かスカウトされたって言ってた」
自分の推理が当たっていた事で満足した彼女はうんうんと無言でうなずく。こうして4人は意気投合して仮設ステージに向かう事になった。歩きながらミチカはエーラに話しかける。
「今何の発表やってんだっけ?」
「えーっと、ちょっと待ってね。……今はカイザル中央魔法高校の劇かな、お、次だよウチの学校の番」
彼女はバッグから収穫祭のパンフレットを広げると、現時刻を確認してステージ内容を確認した。それによるとレビド中央魔法学校の出番はもうすぐとの事。自校の出し物が迫っていると言う事で、気の早いマールはその内容を勝手に想像する。
「アイドル研?」
「えーとっね……、あった。アイドル研は3番目だ」
話を聞いてパンフレットを確認したエーラは、彼女達が見たいと思っている出し物の順番を口にする。そこに載っていたと言う事でゆんがこの収穫祭で歌うステージと言うのが仮設ステージの舞台である事が確定的となった。もうすぐ彼女のステージが見られると言う事で、なおの目も輝き出す。
「私、ゆんちゃんがステージで歌ってるところを見るのは初めてです」
「私もだよ」
留学生2人が盛り上がる事で、ゆんを知らないミチカもかなり好奇心がうずいてきたようだ。それで2人と同じくらいにテンションを上げて語り始める。
「私も見させてもらうとするよ。留学生の本気のアイドル活動ってやつを」
「お、大袈裟だなぁ」
彼女の言い方がツボに入ったのか、マールはそう言いながら笑い出す。その笑い声は他の3人にも伝播してしばらく全員で笑いあった。
4人が仮設ステージに着くと、会場では各学校の関係者で大いに賑わっていた。舞台を見ると確かにそこでは演劇が披露されている。みんなは前方の椅子が用意されている場所まで行って空いている場所を探した。
よく見ると席はそれなりに空席もあったりして、4人は何とか全員座れる席を見つけ、みんなで仲良く並んで椅子に座る。
席に座ったところで舞台を見ると、劇はちょうどクライマックスになった辺り。物語の大体の流れを理解しようと頑張ったところで劇は終了してしまった。
周りの盛り上がりに従って拍手をしながら、マールは感想を口にする。
「劇、途中からだったからよく分からなかったね」
「でもハッピーエンドっぽい事は分かりましたよ」
「それが分かれば十分だね」
マールとなおがそんな感想を話し合ってるところで、委員長キャラのエーラが彼女らしい真面目感想を口にする。
「でも演技の質も演出もレベル高かったよね。きっと今日のために沢山練習したんだと思う」
「イケメンもいたし」
その感想に茶々を入れる感じでミチカが話に割って入る。確かにこの劇、イケメンがやたらと多かった。むしろイケメンしかいなかった。そのためにこの意見に全員が同意する。同意した上でマールがその話に乗っかった。
「みんなモテるんだろうね~」
「ファンクラブとかもありそう」
ミチカもすぐにその流れで返事を返す。男性アイドルグループのようなイケメンだらけの劇が終わった事で彼ら目当てのお客さんは次々と席を立っていた。
その人達と入れ替わるように別の人達が空いた席に次々と座っていく。きっと次に始まるレビド中央魔法学校の関係者達なのだろう。
しばらく待っていると準備が整ったようで、また拍手が始まった。そうして舞台に注目したマールは声を上げる。
「あ、始まったよ。最初は……ダンスだ」
そう、一番手はダンス部の演技から始まった。ゆんのアイドル研は3番目だからこのダンスの後にもうひと組いて、その次と言う事になる。
流石に一番手をつとめるだけあってダンス部の演技はとても素晴らしいものだった。ノリの良い音楽に合わせてキレキレのダンスを披露していく。
そのプロ顔負けのパフォーマンスを目にしたマールはただただ圧倒されるばかりだった。
「うわ!すっごいキレッキレ!」
「ところどころ魔法を効果的に使っていてすごいですね」
なおもまたダンス部の演技に目を奪われていた。魔法世界のダンスなのでただ踊るだけじゃない。人の体力では飛べないほどの跳躍を見せたり、機敏な動きに合わせて光の粒子をたなびかせたりと、所々で効果的な演出を見せていた。難しそうなダンスが決まるたびにマールは拍手をする。
「ダンス部、ノーチェックだったよ」
「知ってたら入ってた?」
ダンスに興奮するマールにミチカが茶々を入れる。急に突っ込まれて焦ったマールは思わず本音を口にした。
「いや、あそこまで体は動かないし、運動は苦手だから見ている方がいいや」
「マールらしいや」
彼女らしい返事を聞いたミチカはそう言って笑う。マールが苦笑いで返していると、ここで同じ舞台を見ていたエーラが突然爆弾発言を口にした。
「この部活、私の姉も入ってるんだ」
「えっ、どれ?」
「ほら一番左端の……」
彼女の指摘に、みんなが舞台の左端に注目する。するとそこには委員長キャラの彼女とは印象の全く違う女生徒がダンサーの衣装を着て必死になって踊っていた。
その子を見つけたマールは姉妹でかなり容姿が違う事にびっくりする。
「あ、あれそうなんだ」
「言われてみれば、似ている感じもしますね」
「ショートカットだと印象が違うから、言われなかったら気付かなかったよ」
3人がそれぞれに感想を述べ合う中、ダンスの披露は終了時間を告げた。舞台では次の出し物の準備のためにダンスメンバーがぞろぞろと舞台上からはけていく。その間もずっと椅子に座りっぱなしだったエーラにミチカが声をかけた。
「挨拶に行かなくて良かったの?」
「いい、朝の内に言ったから」
「そっか」
ダンスの出来が見事だったので会場から割れんばかりの拍手が沸き起こる。マールたちも純粋に感動して、手が痛くなるほどの拍手でダンス部の健闘を褒め称えた。
「いやー、ブラボーブラボー!」
「実に見事だったよ」
「拍手も鳴り止まないね。完成度高かったし」
こうしてダンス部の感動の熱が冷めないままに始まった次の出し物に、マールは目を丸くする。
「次は……コント?」
「いきなりステージに2人だけになっちゃったよ、あれプレッシャーが半端なさそう」
そう、さっきのダンス部のパフォーマンスは総勢20人が音楽に合わせてキレッキレの派手なパフォーマンスを見せてくれていたのに、その次に始まったのが地味な2人組。これは中々に落差が激しい。
けれどその落差すらもネタにして話す2人のコントは意外にも完成度が高く、すぐに場の空気をモノにしていた。
「あはははっ!」
「すっごい面白いよ!ボケもツッコミも完成度高い!」
こうして会場を笑いの渦に巻き込んでコント研究部の2人が盛り上げに盛り上げていた所、エーラからパンフレットを借りて読んでいたミチカがこの部活の詳細情報を読んで驚きの声を上げる。
「うわ……」
「どしたの?」
その言動に隣りに座っていたマールが反応した。ミチカはそのパンフレットの該当部分を彼女に見せながら、さっきの言葉の理由を説明する。
「コント研究部、部員2人だって」
「嘘?あれで全メンバーなんだ」
「流石我が校の部活だよ」
「だねー」
部員が2人しかいない、だからこそ舞台上の2人は芸が磨かれたのだろう。
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