本島へ
交換留学
第84話 交換留学 その1
ある日の放課後、マールの通う魔法中学校の会議室で職員会議が行われていた。全教師が会議室に集まり、今まさに議題が発表されようとしている。教師達はみんな司会の教師の方に注目して話が始まるのを待っていた。
しいんと静まり返った会議室で時計を見て時間を確認していた司会の教師は、頃合いを見計らって会議を始める。
「では、交換留学生についての話を進めたいと思います」
今回話し合われるのは交換留学生の選定についての会議のようだ。マール達の通う学校は本島の学校と兄弟校の関係にあり、いつもこの時期にお互いの学校の生徒を交換留学生として交換し合う制度があった。島にとっては都会の学校の風土を子供達に知ってもらう知ってもらういい機会であり、本島から来てもらう生徒達にはこの島の良さを知ってもらういい機会と言う事で、お互いにウィンウィンの制度な訳だ。
司会の教師が会議の開始を告げたと同時に、まずは眼鏡のいかにもインテリっぽい教師が発言する。
「やはり成績優秀者がいいのではないでしょうか」
この意見を皮切りに、多くの教師がそれぞれ活発な意見を主張し始める。そうして会議室は一気に賑やかになった。
「成績も含めて魔法適性も考えませんと」
「人間関係、交友関係も考慮した方が……」
ある程度意見が出尽くした後、それぞれの意見をまとめて大体の候補生が選別される。
「となると、彼女達が候補と言う事で」
「では、これで校長に了解を取ると言う事で。お疲れ様でした」
交換留学生の最終選抜は校長が決める段取りになっている。教師達が選別した生徒のリストを校長が読み込んで決める感じだ。議論を経て、大まかな生徒がリストアップされたところで今回の会議は終了する。
全てが終わった時、会議室の時計の針は夜の9時を回っていた。
「え?留学?」
「本島の学校の子達と入れ替わりなんだって」
次の日の朝、早速留学の話をゆんがマールに持ちかける。その事を全く知らなかった彼女は頭の中でははてなマークが踊っていた。
「誰が?」
「それは分かんない。でも毎年やってるみたいだよ」
話しかけたゆんの方も実はそんなに詳しくなかったみたいで、ものすごく大雑把に返事を返していた。それでもマールにとっては有益な情報だったらしく、目をキラキラと輝かせながら質問を続ける。
「どれくらいの間なのかな?」
「さあ?」
あまりに頼りないその質疑応答に業を煮やしたのか、もう少し詳しい事を知っているファルアがここから話に参加する。
「1年だよ。1年間」
「1年って事は1年前に本島からきた子がこの学校に?」
今度は彼女の顔を見ながらマールは質問する。ファルアはこの質問にも淀みなく答えた。
「2年の先輩にいるみたい、来月戻るみたいだけど」
「それで本島からこっちに戻ってくる人がいると」
「交換だからそうなるね」
ここまで話を聞いたマールは腕を組んで考える。そうしてある結論に達してそれを口にした。
「2年生が帰ってくるって事は、その留学って1年生が対象って事じゃん」
「そうだよ。マール、知らなかったんだ?」
「じゃあ私が選ばれる事も?」
留学の話が1年生対象だと確定してマールの目が更に輝いた。何せマールはまだ一度もこの島を出た事がない訳で、本島への憧れは人一倍大きいものだったのだ。こうして話が盛り上がってきたところで、もうひとりの友達がこの会話に参戦する。
「本島、行ってみたいです!」
「あ、私も私も!」
なおが元気よく本島に行きたいと主張した為、負けじとばかりにマールも大声を上げた。そのやり取りを聞いていたファルアは軽くため息をこぼす。
「マールは無理なんじゃない?だって魔法検定……」
「うー!それは言わないで!」
自分のウィークポイントを口に出されたマールは大声でその発言のキャンセルを図る。そんなコントじみたやり取りを横目に、ゆんはなおに声をかけた。
「なおちゃんなら選ばれるよきっと!」
「えっ、でも……」
このゆんの言葉に、何故かさっきまで行きたがっていたはずのなおは戸惑う。どうしてそんな行動を取ったのか分からなかったファルアは、マールの相手をそこそこにしてなおの顔を覗き込んだ。
「何か気にかかる事があるの?もしかして自分の正体が分からないから……?」
「いえ、その……」
「そこは否定しないんだ」
「えっ、あっ、すみません」
ファルアに追求されたなおは思わず謝った。その必要性を全く感じなかった彼女はすぐになおに優しい言葉をかける。
「いや、謝らなくていいよ。気にしないで」
このやり取りを見ていたマールはなおが傷付けられているように見えて、すぐにその原因を作ったファルアを注意する。
「ファルアも余計な事言わないの!」
「ごめん」
「いえ、いいんです。あの……」
ファルアに謝られたなおは両手を可愛く振って彼女を責めないでアピールをする。どうやらこの事から困惑の原因はファルアの一言ではなさそうだった。
このやり取りでなおは何か別の事を言いたそうにしている。それに気付いたマールは思わず聞き返した。
「えっ?」
「私は皆さんと一緒がいいです」
そう、なおはみんなと一緒に本島に行きたいと思っていたのだ。その真意が分かってマールは一安心する。そこで彼女は優しく微笑んだ。
「じゃあ私達と一緒なら本島に行っていいんだ?」
「はい!皆さんと一緒なら是非行きたいです!」
明るくそう話すなおを見て、場は一気に和やかな雰囲気に包まれる。そこで何かに気付いたのか、ゆんがマールの方に顔を向けてにやりと笑う。
「だってさ」
「何その私が一番の問題みたいな雰囲気」
「実際一番条件キツイじゃない」
「むー!私だって本当はすごいんだから!」
彼女にバカにされたマールは頬を膨らませて根拠のない反論をする。とは言え、その言葉にまるで説得力がない為、ゆんは更に言葉を続けた。
「いつもぐーたらしてるのに?」
言葉のナイフをグサグサとその身に受けながら、マールは反撃の言葉を頭の中の記憶倉庫の中から探しまくる。めぼしい武器は中々見つからなかったものの、数少ない武器の中からようやく使えそうな業物を見つけた彼女は、ドヤ顔でこれだとばかりにふんぞり返った。
「え、えっと……そーだ!私、妖精のアレの契約者だし!」
「それマールじゃなくてマールのご先祖様がすごかっただけ」
「くっ!」
折角の優位要素をゆんに秒で否定されたマールは思わず悔しさで顔を歪める。険悪な雰囲気になりそうな気配を感じたなおは、すぐに2人を止めようと間に入って声を上げる。
「け、喧嘩はやめてくださーい」
この彼女の献身に、当のゆんはケロッとした表情でその心配を否定する。
「喧嘩じゃないよ。じゃれてるだけ」
「そうそう、マールいじるの楽しいんだ」
彼女に続いてファルアもそう言って笑う。いつものいじりだと言う彼女達の主張になおが確認の為にマールの顔を見ると、苦笑いのような呆れているかのようなそんな微妙な表情をしていた。この状況になおは判断を下せずに結局この件は有耶無耶になる。
話はここで仕切り直しと言う事で、数秒の沈黙の後にゆんが話を再開させる。
「まーでも多分私らには縁のない話だよね、留学とか」
「そーだよねー。あー羨ましいなあ」
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