第83話 美味しい料理 その5

「筋を褒められたんだから、みんな才能はあるんじゃない?」


「ええ?あれってお世辞とかじゃないの?」


 ファルアはすぐにその言葉にツッコミを入れた。確かに折角訪ねてきた相手に辛辣な言葉はそうそうかけられないだろう。マールがその言葉を聞いてショックを受けて真顔になっていると、先生の性格を知っているゆんがすぐにフォローに入った。


「先生はそう言う事言わないから大丈夫だよ。だからみんなセンスはあるんだって」


「だったら嬉しいな」


 彼女の言葉にマールが笑顔を取り戻していると、今度はなおが興奮した表情をみんなに見せた。


「私、魔法料理に興味出てきました」


「お、なおちゃんも始める?初心者用の簡単な本とかあるよ?貸したげようか?」


「あ、でもこう言うのは自分で買って使いたいです」


「よーし、じゃあオススメの本教えてあげる」


 こうしてゆんとなおが魔法料理談義で盛り上がり、その熱がうつったようにマールやファルアも話題に加わっていく。


「私にも教えてよ!」


「私も!」


「みんなすっかり魔法料理にハマったわね……」


 4人が魔法料理の話に花を咲かせる中、しずるはひとりクールにその様子を優しい眼差しで眺めていた。



 それから5人は魔法料理について、早速買った本に書かれていた内容や、実践した時の経験を中心にレポートにまとめていく。みんながバラバラに出した情報をしずるがまとめる形で研究はうまくまとまっていき、あっと言う間に二週間後の研究発表の時間がやってきた。


 マール達の発表は研究を届け出た順番と同じ4番目で、魔法料理と言う独特な視点からの研究はクラスのみんなの注目を集めていた。


「……と、言う訳で魔法料理はとっても奥が深いのです!」


「おお~」


「はい、2班の発表、中々良かったですね。どうも有難う。それじゃあ次のグループ、発表をお願いします……」


 マール達の班の発表は、視点が斬新なのもあって盛大な拍手で迎えられた。結構な盛況っぷりにマールは自信を持ってガッツポーズをする。


「手応えあったね!」


「これで優秀賞は決まりだね!」


 今回一番の功労屋のゆんもマールのその発言に乗っかって喜んでいた。グループ研究の発表はその後も続き、各班のそれぞれの趣向を凝らした研究がみんなの前で披露されていく。魔法現象の研究や魔法を使った職業の研究、妖精についての研究、魔法の歴史についての研究など、どの研究も中々しっかりと追求されていて、発表が終わる度に大きな拍手が湧き起こっていた。


「これはライバルが多いねぇ~」


 出来の良い研究の多さにマールが危機感を覚えていると、やがて全ての研究の発表が終わる。発表が終わると、ここで優秀な研究の発表に移った。先生からランキング形式で一番下から順番に発表されていき、マール達の魔法料理の研究は2位と言う高評価を得たのだった。

 自分達の研究に自信のあったマールは、この評価を受けて頭を抱えて悔しがる。


「かぁ~。やっぱ定番は強いかぁ~」


「でも十分いい順位だと思いますよ。私達別に最優秀賞を目指していた訳じゃないですし」


 なおはそんなマールを見て精一杯のフォローをする。彼女に慰めながらもマールは自分の主張を曲げる事はしなかった。


「でも挑戦するからにはトップは目指さなきゃだよ!」


「へぇぇ~。マールにそんな向上心があるとは知らなかったわ」


 そんなやり取りを横目で眺めていたファルアが面白がって茶々を入れる。その言い方にカチンと来たマールは、その場で思わず声を荒げた。


「なにおう!この向上心の塊に向かって!」


 こうして今にも喧嘩が始まりそうな一触即発な雰囲気が漂い始め、一瞬教室は騒然とする。

 けれど、そこでその様子を冷静に見定めていたしずるが後ろの席から一言ヒートアップする2人に釘を刺した。


「2人共、そこまでにしときないよね。まだ授業中」


「あ」


 彼女のその的確な一言に2人は正気を取り戻し、クラスの雰囲気は元に戻る。グループ研究の優劣は評価的には多少の加点はあるものの、特に賞品とかが出る訳でもなく、自己満足的な意味合いが一番大きかった。だからマールの熱意もやがて自然に沈静化してく。そうして授業はいつものように滞りなく進むのだった。


 ちょっとしたトラブルはあったものの、こうして研究発表も無事に終わり、またいつもの日常がやってくる。この頃はそんな穏やかで変わらない日々がずっと続くものと、僕もそう思っていたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る