第71話 いたずら妖精 その4
ルルンはそう言って情報を引き出したパッドをみんなに見せる。みんなが興味津々にひとつの画面を覗き込む中、なおは顔を上げ先生の顔を見つめる。
「それはどう言った妖精なんですか?」
「基本臆病ですぐに逃げ出すんだけど、誰もいないとなるとすぐにその好奇心で無茶苦茶やらかすんだ。機械の不自然な故障はみんなこの妖精の仕業だと言われている」
「その妖精が危険なんですか?」
「そうとも。逃げられる内はすばしっこく逃げていくんだけど、いざ身の危険を感じたら襲ってくる。賢い妖精だからね。武器を使ってくるかも知れない」
流石専門家らしく、ルルンはかなり具体的な妖精の情報を口にする。賢い妖精と言うその情報にマールは想像力を膨らませていた。そんな中、危険な妖怪と言うそのパワーワードになおが反応する。
「警備部はきっとそんな危険な妖精をほっとかないと思います」
「そうだろうね。最近よく近くで警備部の人間を目にするよ。アレは妖精を捕まえようとしているんだろうな」
話がここまで進んだところで、じっと黙って聞いていたファルアが満を持してここで口を開いた。
「私達で先に保護するって事は出来ないでしょうか?」
「なるほど、君達が僕に会いに来た一番の目的はそれなんだね。だけどさっきも言ったように素人が手を出していい問題じゃない。止めておくべきだ」
「でも、警備部に妖精が捕まったら」
「それこそ餅は餅屋だよ。悪徳な妖精ハンターならともかく、警備部なら妖精を悪いようにはしない。任せておけばいい」
この時、彼女の口から放たれた初めて聞く言葉にマールが興味を抱く。
「妖精ハンター?」
「妖精を捕まえて商売しようって連中さ。多分、まだこの島にはいないと思うよ」
ルルンは楽観的にこの妖精狩人の事をサラッと流すと、ファルアがちょっと興奮しながら声を荒げる。
「これだけ騒ぎになっているんですよ!そのハンターがやって来ていても不思議はないんじゃないですか?」
「妖精ハンターがこの島に来たら僕のもとに情報が入ってくるはずなんだ。今のところそれはないからね」
どうやら先生には独自の情報網があるらしく、ハンターの動向もしっかり把握していると言う事らしい。その言葉の信憑性を4人はあれやこれやと聞き出そうとするものの、ルルンは独自の理論でその話を上手く誤魔化してしまう。ま、そう言う情報はおいそれと他人には話せないものだしね。信用の問題もあるし。
その後も妖精談義は続いたものの、後は特に有効な情報が出る事もなく、何となくモヤモヤしたものを残しながら4人はこの妖精研究家の家を後にする。
帰り道、この件についての反省会と言う事でみんながぽつりぽつりと話す中、マールはなおに話しかけた。
「何だか聞きたい事をちゃんと聞けずに戻ってきちゃったね」
「コミニュケーションって難しいですね」
ここでゆんが少し楽観的な言葉を口にする。
「いたずら妖精がルルンさんの言う通りに異次元の世界からやって来ているならさ。私達でそれを見つける事も出来るかも」
「異次元の世界を検知するってそんな魔法私達習ってないよ。それにもしそれが出来るなら、警備部がとっくに試しているんじゃないの?」
彼女の説にもう少し現実的なファルアがツッコミを入れた。その正論にゆんはあっさり前言を引っ込める。
「それは……そうだけどさ」
と、雰囲気が少し暗くなったところで話題を変えようとマールが焦って口を開いた。
「そ、それより妖精ハンターって厄介そうだよね」
「妖精を捕まえる仕事が成立しているって事は、妖精を欲しがる富豪とかがいるって事だもんね」
「需要と供給かぁ。全く、お金持ちはろくな事をしないね」
彼女の言葉にゆんとファルアが言葉を続ける。妖精は自然のままの姿を愛でるもので、誰かの所有物になってはいけない。ファルアはそう言う考えの持ち主なので、ハンターと言う存在そのものを許せないようだった。同じ考えのゆんが同意するのも当然だろう。
ここで、この話題はこれでおしまいとばかりにファルアが話を戻す。
「そう言えば、コンロンの森でマールはどうやって妖精界に行ったんだっけ?」
「足を滑らせて一段下に落ちたんだけど、その時に既に妖精界に入っていたのかも?」
マールは朧げになりつつある当時の事を思い出しながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出す。そのあてにならないような言葉にゆんは苦笑いを浮かべた。
「うーん、全く参考にならないねぇ」
「なら聞かないでよっ!」
からかわれているように感じたマールはコントのツッコミレベルの反応をする。それからも有効な話が中々出ない中、何かに気付いたなおがポツリと何気なくつぶやいた。
「不思議な気配と言えば……」
「どうしたの?」
その言葉をマールが拾う。この時、上空を指差したなおにみんなが注目した。
「ほら、空の色が……」
「あれ?何だか薄い膜を張ってるみたい……。どう言う事だろ?」
そう、なおが気付いたのは微妙な空の色の変化。いつも見慣れているはずの空の色がこの時に限って不思議な雰囲気を醸し出している。
一体これはどうした事かとみんなでその理由を懸命に考えていると、マールが視界の端に何か蠢くものを発見する。
「あっ!あそこ!」
その声にみんなが注目する。さっきまで話していた話題が話題だったので、ゆんがその存在について希望的観測を述べた。
「もしかして妖精?」
「行ってみよう!」
その蠢くものの正体を確認しようと4人は一斉に走り出す。その様子を物陰からじっと見ていた存在がここでその行動を危険視して声を上げた。
「ちょ、行っちゃ駄目!」
しかしその声も空しくマール達はすっと視界から消えていった。比喩的な表現ではなく物理的に消えたのだ。この事から見てどうやら彼女達は異次元空間に入り込んでしまったらしい。
この存在が彼女達の行為を止める事が出来ずに落胆していると、いつも行動を共にしている使い魔が声をかける。
「空間が閉じたわね」
「何でこんな所にマール達が……」
「私たちは私達で探しましょ、焦りは禁物よ」
「分かってる……」
そう、それはしずくだった。彼女もまた指令でこの地に現れる妖精を追っていたのだ。探索中に偶然4人を発見したしずくは直感で様子がおかしい事に気付き、自分の仕事を一時中断してずっと見守っていたらしい。結局その悪い予感は的中してしまった訳だけど。
使い魔のみこに慰められた彼女は気を取り直して、マール達を助ける手段を考えながら元々の仕事に復帰する。
一方、それとは知らずに無意識の内に異次元世界に入り込んだ一行は、その不思議な光景に戸惑っていた。
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