いたずら妖精

第68話 いたずら妖精 その1

「ねぇ、これ読んで」


「ほえ?」


 昼休み、給食を食べ終えたマールがぼうっとしていると、突然ゆんがスマホの画面を見せてきた。どうやら何か気になるニュースがあったらしい。彼女が気にするニュースは面白いのが多いので、マールも軽い気持ちでひょいとその画面を覗き込む。


「妖精の被害が急増?何これ?」


「妖精が見つかったって話があったじゃない。どうやらあの妖精達が悪戯を始めているっぽいんだよね」


 記事によると、最近都会の方で物がよくなくなると言う事が話題になっているらしい。なくなる物は最新AV機器やら家電製品、それにPCやら工具やら……その被害は日に日に増えていると言うもの。原因が全く不明な為、これはきっと妖精の仕業だと盛り上がっていると言うものだった。


「この記事、本当なの?聞いた事ないんだけど」


 マールにとって妖精が人間に危害を加えるなんて初耳だった。この見せてくれた記事も正式なニュースじゃなくてまとめサイトのものだったので、彼女はついその情報源の信憑性を疑う。


「そこなんだよねぇ~。マールはどう思う?妖精、見たんでしょ?」


「あの妖精と同じ妖精がいたずらしているとは限らないよ。私が見たのはそんな事しそうになかったな」


 ゆんの質問に、以前コンロンの森で見た妖精の事をマールは思い出す。あの時見た妖精は質素な姿で自給自足をしていて、何より人間を恐れているように見えた。人間を怖がる性格の妖精がわざわざ人の世界にやって来て悪戯をするとは思えない。

 マールが妖精について私見を述べていると、その話に興味を惹かれたのか、同じく当事者のなおがやって来た。


「そうです、あの妖精達は自分の世界を大切にしていました。なので人間にちょっかいを出すようには……」


「なるほど~。そう言えば結局ブームになった時に妖精を見たって人はほぼ現れなかったからね。もしかしたらちゃんと見る事が出来たのはマール達だけなのかも」


 ゆんは2人の話を聞いて納得するように何度もうなずいている。あの時に妖精と遭遇した話と今回の話の繋がりがよく分からなかったマールは、ひとり納得している彼女にうなずく理由を質問する。


「つまり?」


「今回騒ぎになっているのはやっぱり別の妖精なのかもって事」


 ゆんのその答えに、マールは、ああ!と手を叩く。それからその彼女の言葉にマールは軽い疑問を覚えていた。


「でもさ、妖精って珍しい存在じゃなかったっけ?」


「だよね。そもそも人に悪戯する妖精って……」


 どうやら、その結論を出したゆんも自分の出した答えに半信半疑な部分があるらしい。彼女もまた妖精についてはあまり詳しい事を知らないのだから、そこは仕方がないのかも知れない。ここに妖精に詳しいファルアがいたら、もっと詳しい話も聞けるのかもだけど、生憎彼女は今席を外していた。

 そこにいつの間にか現れた美少女が話に割って入ってくる。


「いない事もないよ。そもそも本来妖精は悪戯好きだから」


「しずる!何か知ってるの?」


「その被害報告は本物よ。私も話は聞いてる」


 しずるの話によれば、まとめサイトに載っている情報自体はどうやら本物らしい。話に尾ひれはついているようだけど。この展開にゆんは目を丸くする。


「え、このニュース、そんなに信憑性の高いものだったんだ」


「ゆん、自分も信じていないのに私に見せてたんだ」


「あはは……いや、いい話のネタになると思って」


 苦笑いする彼女を見てマールは怒る気もなくして、釣られて苦笑いをする。で、実際被害が出ていると言う事で、その手の仕事をしているしずるに彼女は興味本位で声をかけた。


「で、しずるはどうするつもりなの?」


「勿論捕まえられそうなら捕まえる。そうでなければ警戒する。いつものパターンね」


「あ、あはは……」


 いつもながらクールに言葉を返されてマールは返す言葉を見つけられなかった。話すべき言葉を全て話し終えると、しずるはまた煙のように彼女達の視界から消えていく。本当、神出鬼没だなぁ。

 しずるもいなくなった事で話は仕切り直し。マールは改めてこの件についてゆんに話しかける。


「この被害報告が本物だとするとさ、私達の身の周りに妖精が現れる可能性もあるのかな?」


「今のところ被害報告は都会に偏っているから、まずないだろうけどね~」


「だよねぇ~」


 その後、その日は何事もなく過ぎていった。放課後、家に帰ったマールは楽しそうに身振り手振りを加えながらこの事を僕に報告する。


「へぇぇ~」


「何でとんちゃんはそんな他人事なのよ」


「いや、噂は小耳には挟んだけど、都会の話題だしね」


「もぉ~。とんちゃんまでゆんと同じ事を~」


 反応が薄いのが気に入らないのか、マールは僕を素早く捕まえて拳で頭をぐりぐりする。痛いよ!ストレス解消に僕を利用しないでよ!


「いてて!使い魔虐待反対ー!」


「でも確かに都会にしか現れないのなら、私達には縁がなさそうだよね。残念」


 好きなだけグリグリして気が済んだのか、僕を開放したマールは椅子をくるくる回しながら地元では妖精に会えないっぽい事を残念に思っている。

 僕は何とか彼女を慰めようと安直に助け舟を出した。


「マールは一応妖精に会えたんだからいいじゃんか」


「会えはしたけど、あんな出会いは不本意だよお!」


「全く、わがままだなぁ」


 マールが出会った妖精は彼女が想像していたものとは違っていた。彼女の口ぶりからして、どうやら忘れたい過去にまでなってしまっているらしい。

 僕は後ろ足で顔を掻きながら、そんなマールの相変わらずのわがままっぷりに閉口する。


 次の日の朝、マールが寝坊して遅れて教室にやってくると、ゆんが興奮気味に彼女に話しかけてきた。雰囲気から言って、どうやらその話は昨日の妖精絡みのものらしい。


「昨日テレビでもやってた!被害は広がってるみたい」


「え?嘘!そうなんだ」


 悪戯妖精の被害がテレビで紹介される程に広がっている。それを素で驚くマールにゆんからの痛いツッコミが入る。


「マールはニュース見ないから知らなかっただけでしょ」


「えへへ……」


 彼女が仕方なく苦笑いをしていると、興奮したゆんが更に話を続けてきた。


「テレビでは妖精に何か目的はあるのかって言ってたよ。どう思う?」


「カラスが光るものを集めるみたいなアレじゃない?」


 この話題にファルアが乗っかる。本島での妖精観察ツアーにも参加した事のある彼女は、友人達の間でもちょっとした妖精通だ。そんな彼女の言葉にマールは返す言葉を持っていなかった。


「ちょ、妖精をカラス扱いって……」


 ファルアの説を耳に入れたゆんはしばらく考え込んで、それから何か気付いたのかつぶやくように言葉を口にする。

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