第67話 共鳴 後編
「ま、難しい話はそう言う専門のところに任せてさ、僕らはいつも通りにしていればいいよ」
「そだね、有難う」
僕の言葉に納得したのか、マールはニッコリ笑うと布団の中に潜り込んでいった。ふぅ、上手く誤魔化せて良かった。
って言うかマール!まだ寝るのは早いよ!僕は布団を引剥して丸くなっていたマールを無理やり起こす。
「何すんのよ!」
「宿題や予習とかあるでしょ!それに晩御飯もお風呂もまだだし!」
「今日は私疲れたのよー!寝かせてよー!」
「今寝たら中途半端な時間に起きてまた夜寝られなくなるだけだってば!」
「むぅー。とんちゃんのいけずー」
怒られたマールは渋々起きて机に座る。僕の忠告通り勉強でもし始めたのかと思ってちょろっと覗くと、お気に入りの雑誌に目を通し始めていた。まぁ、あのまま眠られてしまうよりはマシかと僕はそれについては何も言わない事にする。はぁ……。
それにしてもマールはまだまだ僕がついていないと駄目だな……。
場所は変わってなおの家では、彼女が自分の事について深く悩んでいた。
「私、怖いんです」
「ん?何故?」
彼女の保護者の先生はなおと向き合うと、真剣にその悩みに付き合う。過去の記憶がない事を常に気にしている彼女は、いつもこうして先生のカウンセリングを受けるのが日課となっていた。
「あの時、私は自分じゃない何かになっていました……。私って一体……」
「それで、みんなはなおを嫌ったのかい?」
「いえ、みんな心配してくれました」
「そっか、いい友達ばかりじゃないか」
先生はなおの話を聞きながら、彼女が友人に恵まれている事を知って嬉しく思っていた。そしてもっと周りの人を信じるようにアドバイスをする。それでも彼女の不安は消える事なく、その心情を素直に切々と訴える。
「でも……私はやっぱり普通じゃないんです、このままだと……」
「このままだと?」
「何か、とんでもない事をしてしまいそうで……」
なおはしょんぼりとうつむいてか細い声でつぶやく。先生は優しく彼女の肩に両手を置くとじっと顔を見つめ、ニッコリと笑う。
「大丈夫、そんな事になりはしない」
「本当ですか?」
「ああ、保証する」
先生はそう言うと立ち上がり、紅茶を入れる。出されたお茶をなおは両手で掴み、小さく一口喉に流し込んだ。少し落ち着いた彼女は椅子を深く座り直すと、台所で夕食の作業を始めた先生に向かって話しかける。
「先生は私の事をどれくらい分かってるんですか?私は普通なんですか?」
「うん、現状の分析ではなおは普通の人間と言う結果しか出て来ない。だから普通だよ」
「で、でも……今回の事とか、魔法検定の結果とか……他にも……」
先生から望み通りの言葉が返って来て、本当ならそこで安堵するべきはずなのに、なおはどうしてもその言葉を素直に受け入れる事が出来ないようだった。
先生はその言葉を聞きながら黙々と料理を続ける。その作業のせいで会話は止まり、彼女も無口になる。やがて炒め物やスープが完成し、なおも食事の準備を手伝った。
そうしてすっかり準備も整い、先生となおの2人の夕食の時間が始まる。食事を口に運びながら、先生は途絶えていた会話の続きを口にした。
「だから、なおはちょっと魔法の才能のある普通なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、何も気にしなくていい。さあ、ご飯を食べよう。育ち盛りは栄養を摂らなくちゃだぞ」
こうして彼女も心の平穏を取り戻し、一日はゆっくりと過ぎていった。今回の出来事はしずるが然るべき場所に報告済み。それで今後何が起こるのか、上がどんな判断が下すのか、それはまだ誰にも分からない。
取り敢えずはまた平穏な日々が続く。しずるを含めみんなが今はそう信じていた。
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