第66話 共鳴 中編

「きっとこの地の奥深くに埋まっているんだと思う」


「大いなる聖遺物が?学校の地下に?」


 精霊石は別名大いなる聖遺物と言われている。精霊石に関する神話を継承する団体がそう言い始めたものだけど、今ではその名称も多くの住人に知れ渡っている。

 マールもまたおばあちゃんから精霊石の事を聞いていたので、その呼び方が自然に口に出ていた。


「実際に発掘してみないと分からないけど」


「でも今までこんな事はなかったのに何で今日に限って発動なんて」


「きっかけはまだ分からないけど……共鳴したんだよ。あの反応は、間違いない……」


 このしずる説に従えば、今回の天候の異常は地下に眠る精霊石が共鳴した結果として起こったものらしい。つまり、そもそもの原因は――。


「それって、なおちゃんが?」


「彼女には何か秘密がある……それが何かはまだ分からないけど」


 そう話すしずるの眼光が鋭く光る。その視線は倒れているなおに注がれていた。話を聞いたマールはすぐにその説に異議を訴える。


「なおちゃんは友達だよ!」


「そうね。でも謎が多いのも確か」


 マールの抗議にもしずるは一向に引かなかった。この彼女の態度にはきっと確信めいたものがあるのだろうと感じたマールは、改めて問いかける。


「しずるはなおちゃんの事を何か知ってるの?」


「私が知っているのは、彼女がこの島の住人じゃないって事くらい。みんなと変わらないわ」


「でもなおちゃんは記憶を……」


 うまく情報を引き出せなかったマールは、なおの事情を呼び水にもう一度チャレンジを試みた。すると、しずるは真剣な顔になって視線をそらしながら口を開く。


「そう、何も覚えていない……だからこそ常に行動を把握する必要があるの」


 彼女が任されている仕事はこの島の安全を守る事。それを思い出したファルアがその仕事に打ち込む彼女に敬意を評しながら、その先の事について最悪の想定を口に出しながら選択を迫った。


「うん、しずるはそう言うお仕事だもんね……。でもさ、もしそれでなおちゃんが危険だって判断されたら……」


「何言ってるの?なおちゃんがそんな存在な訳ない!」


「だから、もしもの話だって!」


 その話を聞いたマールが当然のように噛み付く。おかげで話の流れは途中で止まってしまった。2人のやり取りを目にしたしずるは、まぶたを閉じて今日何度目かの溜息を吐き出す。


「私は上の判断に従うだけだから……」


「分かったよ。でも絶対そんな事はないんだからね!」


 彼女が飽くまでも命令に従うと言う、ある意味当然の返事を返した事でマールは声を荒げる。友達思いの彼女の声が実習室に響き渡り、そのおかげなのか倒れていたなおがゆっくりと意識を取り戻した。


「あの……一体何が……」


「なおちゃん!」


 目を覚ました彼女のもとに3人が駆け寄った。マールは起き上がりかけたなおの肩を抱いて、心配そうに声をかける。


「大丈夫?頭が痛いとか身体が痛いとかない?」


「えぇと……はい、大丈夫です。ただ、不思議と頭がスッキリした気はします」


「良かったぁ」


 彼女の言葉から体調の不調がない事が分かると、安心したマールはニッコリと笑う。トランス状態になった時の事を全然覚えていないなおは、嵐が収まっているこの状況がすぐには理解出来ず、周りをキョロキョロと見渡しながら戸惑っていた。


「一体何があったんですか?」


「なおちゃん、この騒ぎの元と共鳴したんだって」


「共……鳴……?」


 マールはなおにしずるが語った話をそのまま伝える。共鳴と言われても、ピンと来ない彼女は首を傾げるばかり。うまく話が伝わっていないと感じたマールがどこから話そうかと頭を捻っていると、しずるが席を立って声のトーンを落として話しかける。


「それは飽くまでも私の説だから。実際には違う現象の可能性もあるから……」


「え、そうなの?」


 ここまで来てまた彼女の主張が変わってしまい、マールは困惑する。一体真実は何処にあるのか。その言葉のせいで何か色々誤魔化されている気がした彼女がうまく喋れないでいると、窓の外を確認したなおがつぶやく。


「あ、空、晴れて来ましたね」


「本当だ、これで一件落着だね」


 さっき空が晴れた時はまだ学校以外の場所は嵐のままだったのに、いつの間にか周辺の空も重苦しい雲は消え去って真っ青な空が一面に広がっていた。

 この状況にみんなが喜んでいると、ひとりその景色を注目していなかった彼女がこの部屋を去ろうとしていた。気配でそれに気付いたマールがすぐに声をかける。


「あっ、しずる、どこに行くの?」


「この事を報告しないと……またね」


 しずるはそう言うとすっと消えるようにマールの視界から消えていく。それは彼女らしい相変わらずの見事な手際だった。しずるがいなくなり、いつもの4人が実習室に残されて場の雰囲気も落ち着くと、その中でまだいまいち要領を得ていないなおがつぶやく。


「よく分からないんですけど、もしかして私が悪かったんでしょうか?」


「そんな事ないよ!なおちゃんはなおちゃんだよ!」


 マールは不安がる彼女に必死で問題ない事を伝えようとするものの、焦って言葉が意味不明になっていた。


「え、ええと……」


 なおは彼女の言葉を聞いて余計に混乱する。そのやり取りを見ていてずっと様子を伺っていたゆんが呆れ顔でツッコミを入れた。


「マール……そんな言い方じゃ伝わらないから」


「あはは……」


 こうして何となく問題解決した感じになった4人は、魔法実習室を後にして自分のクラスに戻る事にした。教室に戻ると嵐が過ぎ去った事もあり、開放された明るい雰囲気に満たされ、騒がしくなっていた。


 嵐が過ぎ去った事で平穏が戻った学校はすぐに職員会議を打ち切り、念の為と言う事で以降の授業は終了となった。とは言え、普段より1時間ほど早く帰れただけだったんだけど。


 家に帰ったマールは、早速僕に向かって興奮気味に身振り手振りを加えて学校で何が起こっていたのか説明する。


「ほーん、そんな事があったんだ」


「何そのまるで無関心な態度。とんちゃんは心配してなかったの?」


「心配はしたけど、無事に解決してるじゃない」


「そりゃまぁ……そうだけど」


 正直言うとマールの学校の周辺だけが酷い嵐になってると知って、僕らもその原因究明と解決方法について必死で使い魔ネットワークの力を総動員して解決策を模索してはいたんだ。

 けれど色々と対策を考えている内にこれはとんでもない事だと分かって、使い魔レベルじゃあ何も出来ないって結論になったから、もう祈る事しか出来なかったんだよね。


 ただ、この話をするとマールがまた調子に乗っちゃうような気がしたから黙っておく事にしたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る