第64話 雨の日 後編
他の生徒は一向に収まらない天候に不安を感じ、食事後はまた窓の外に集まっていた。今も一分に一回は雷が落ち、雰囲気はまるで魔界の光景のようだった。これが人為的になされている事が分かっているマールは怒りを露わにする。
「一体誰がこんな事するんだろう?意味が分からないよ!」
この状況に何も出来ない歯痒さをみんなが感じている所で、突然何か閃いたのかファルアがみんなに話しかけた。
「そうだ!今から魔法実習室に行かない?」
「今から?何するの?」
この突然の宣言にマールは呆気にとられる。ファルアは両手でドンと机を叩くとにやりと笑い、その意図を得意げに説明した。
「犯人探しだよ。実習室のクリスタルで探してみようよ!」
「ファルア、出来るの?」
「なおなら出来るんじゃない?」
突然ファルアから指名されたなおは当然のように困惑する。
「私、ですか?」
「そっか、なおちゃんなら!魔法検定Aだし!」
ファルアの意図を理解したゆんも楽しそうにその案に同調していた。この中で指名されたなおだけが戸惑っている。
「でもそう言う魔法はまだ習ってない……」
「私が教えてあげるよ」
ここで人探しの魔法を習得しているファルアがなおの肩を叩いた。そうして次の行動が決まった4人は早速それを実行に移す。
「よーし!実習室にゴー!」
「い、いいのかな……」
マールの言葉と共にみんなは意気揚々と教室を出る。このなし崩しの勢いに流されて、なおだけがまだ困惑したまま……。
教室を出た4人はそのまま魔法実習室に向かう。賑やかに話しながら歩いていると、途中で大事な事に気付いたファルアが急に大声を上げた。
「あ、そうだ!私、鍵借りてくるね!」
彼女はそう言うと、そのまま鍵が保管してある職員室に向けて歩いていった。確か職員室は結界が張ってあるままだった気がするんだけど……ファルアならもしかしたら何とかするのかも知れない。
彼女が誰にも同伴を求めなかったので、きっと何とかするあてがあるのだろうと考えた3人はそのまま魔法実習室へと向かった。歩きながらマールは冗談っぽくみんなに話しかける。
「こうしている内に雨、止んじゃったりして」
「それならそれでいいよ」
「問題はこの嵐の様な暴風雨がずっと続く場合ですよね」
「絶対犯人を見つけよう!」
賑やかに話している内にやがて3人は魔法実習室に到着する。後はここでファルアが鍵を持ってくるのを待つだけだったんだけど、室内に人の気配を感じたマールが何気なくドアに手をかけると何の抵抗もなくそれは動いた。
「あれ?鍵が……」
「先生はみんな職員室のはずなのに、一体誰が……」
ゆんもこの状況に頭をひねる。一度動き始めたドアを途中で止める事も出来ず、マールはそのままドアを全開にする。するとそこには見慣れた人影が。
「みんな来たんだ」
「しずる?」
そう、そこにいたのはしずるだった。彼女は椅子に座ってクリスタルに手をかざしている。その姿を目にしたマールは驚き、ゆんも声をかける。
「え?何やってるの?」
「ちょっと雨雲の力を削ごうと思ってね」
「まさかしずるがこの嵐を?」
何を勘違いしたのか、ゆんがとんでもな事を言い放つ。その言葉を聞いたしずるは当然のように気を悪くした。
「ちょ、私は止めようとしてるんだけど?」
「ねぇ、鍵はもう……あ」
取りに行った鍵がすでに借りられている事を知ったファルアが魔法実習室にやって来た。そこで中にみんなが実習室に入っている事を確認した彼女は思わず口をつぐむ。ファルアを目にしたしずるはニッコリ笑うと優しく声をかけた。
「ファルアも入りなよ」
全員集まったところで改めてしずるは状況を説明する。まず、天気が荒れ出してそれが人為的なものだと察した彼女はすぐに実習室利用の許可を得ようと職員室に赴き、事情を話して鍵を借りた。それからはずっとここで何とかこの嵐を静めようと奮戦していたと言う事だった。
職員室で職員会議が始まったのも、このしずるの話を教師達が重く受け止めたからと言う事らしい。
説明を聞き終え、マールは彼女に質問する。
「しずるの力でもこの嵐は止められないの?」
「見ての通りね。今は力の流れを見極めてる」
どうやらその話し方からみて、しずるの能力を持ってしてもこの嵐は中々の難敵のようだった。マールの次は自分の番だと、今度はファルアが話を始める。
「あ、あのね。私、この嵐、誰かが天候を操ってるんだと思うんだけど」
「でしょうね」
「そのクリスタルでさ、犯人を探さない?きっとその方が早いと……」
「それは最初にしたよ。でも何重にも障壁が張られていて、魔力を無駄に消費するだけだった」
しずるもまたファルアと同じ事を考え、とっくにそれを実践していたらしい。
けれどその試みは失敗に終わって路線転換をしている。つまり、天候を荒らしている本人は特定される事を想定して事前に対策を取っていたと言う事のようだ。
かなりの実力者でないと、しずる程の能力の持ち主を翻弄させる事は難しい。つまり、それだけの手練がこの件に関わっていると言う事は容易に想像出来る。
彼女の話を聞いたゆんはそれが信じられないでいるようだった。
「嘘……しずるでも無理なの?」
「クリスタル……」
この会話の最中、ずっと黙っていたなおはしずるの前で明滅するクリスタルを見てトランス状態に入ったのか、急に言葉をつぶやき始める。
突然の彼女の豹変ぶりに隣りにいたマールは驚いた。
「な、なおちゃん?」
「光の柱……雷鳴の鍵……大地の門……天空の刻印……」
なおのつぶやきは更に続く。一言喋る度にクリスタルに文様が浮かび、呼応するように実習室の床に光の魔法陣が描かれていく。
「ちょ、これって……」
事態が飲み込めない3人。みんな何が起こったのか確認する為に辺りをキョロキョロと見回して不測の事態に備えようと身構える。そんな中、しずるはと言うと、クリスタルに浮かび上がったその文様を興味深く眺め、そうしてそれをまるで調整するかのようにかざした手を動かし続けていた。
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