第63話 雨の日 中編
「しずるちゃんは朝はいました。1時間目が終わってすっといなくなりましたけど」
「やっぱり何かあったんだよ!」
この話を聞いたマールはすぐにピンとくるものがあったらしく、頭脳を推理モードに切り替える。黙って会話を聞いていたファルアがここでやっと口を開いた。
「もしかしてこの天候、自然のものじゃない?」
「分かんないけど、そうかも知れない」
この推測にマールが同意する。教室はこの嵐の現状を心配する生徒ばかりで、原因等について考えを巡らせているのは今のところマール達だけのようだ。
しかしそこまで推測をしたところで、会話は止まってしまう。それはゆんの発したこの一言のせいだった。
「だとしても、私らにはどうにも出来ないけどね」
昼に止むはずの小間降っていた雨を暴風に変えてしまうような、そんな能力を持つ人がいたとしたなら、それはとんでもない実力を持っているはずで、とても一介の魔法中学の学生が対応出来る話じゃない。マール達もそう言う結論に達したが故に言葉が出なくなっていたんだ。
空が暗いせいで余計に暗くなっていく雰囲気の中、なおがポツリと口を開く。
「確か、天候を操作出来る魔法もあるんでしたよね」
この質問の後、少しの間沈黙が続く。それからこの質問にファルアが答えた。
「魔法自体はあるけど、並の魔法使いじゃここまでの悪天候は……」
「この学校の先生の中にもいないのでしょうか?」
ファルアの言葉を受けて、続けて話すなおの問いかけに反射的にマールが口を開く。
「まさか先生の中に犯人が?」
「そうじゃないです。その魔法が使える先生がいたらこの嵐も静められるんじゃないかと……」
「あ、そ~言う意味ね、だと思った」
なおの真意を聞いたマールは愛想笑いをしながらすぐに自分の勘違いの言い訳をした。
しかしそれでごまかせられる友達がいるはずもなく、彼女は早速ゆんにいじられる。
「嘘だ~、絶対勘違いしてたでしょ」
「でもさ、そんな魔法を使える先生がいたなら、もう静めてないとおかしくない?」
マールとゆんがふざけあっている中、ファルアが根本的な疑問を口にする。確かにどうにか出来るのならもうとっくに動いておかしくない。
けれど荒れた天候は放置されたまま、収まるどころか嵐の勢いは更に強さを増していっていた。その理由についてマールが仮説を披露する。
「もしかしたら先生はこれを自然の天候だと思っているのかも?」
「いや、この荒れようは絶対不自然でしょ」
この説はゆんに即否定された。自説を却下されたマールは落ち込む事なくすぐに次の手を考える。
「しずるがいなくなったのも気になるし、やっぱ先生に聞いてみよう」
マール達はお互いにうなずいて教室を後にする。職員室に向かう間、廊下を歩く生徒はひとりもいなかった。みんな窓の外の異様な天候に釘付けになっていたのだ。職員室に着くと、その普段と違う雰囲気にマールは戸惑った。
「あれ、ドアに結界……緊急会議だって」
「これは怪しいね」
荒れた天候に緊急会議、この状況をゆんは訝しむ。マールもまた職員室のドア越しに感じる緊張感に言葉を漏らす。
「中で一体何を話しているんだろう?」
職員室に入って先生方に事情を聞こうにも、そもそも入る事が出来ないならそれも叶わない。それに結界を張ってまで会議しているのだから、会議中に生徒が入ってはいけないと言う事なのだろう。マール達はしばらく職員室前で待機していたものの、何の進展もないまま時間だけが過ぎていった。
「取り敢えず教室に戻ろっか」
このファルアの決断でマール達は一旦自分達のクラスに戻る事にした。彼女達が教室に戻ったことろで始業ベルが鳴り、すぐ後に校内放送が始まった。
『今からしばらく授業は自習です……皆さんは大人しく勉強をしていてください』
放送を聞いた生徒達は自習と言う事で先生が来ない事を察して放送が終わると同時に各々好き勝手な事をやり始める。ゲームに興じる者、世間話を始める者、いきなり机に突っ伏して寝始める者……。
しかしその多くは荒れ続ける天候を心配してずうっと窓の外を眺めていた。
そんな混沌とした教室の中で、マールはと言えば自分の席に座って頬杖をついてぼうっと考え事をしていた。彼女の周りにはまるでそれが当然のようにいつものメンバーが集まり、そのまま何となく会話が始まる。
まずはファルアがボケッとしているマールに語りかけた。
「会議、長引いてるね」
「もしかして今日はこの後もずっと自習だったりして」
彼女に続けてゆんも話し始め、その言葉を聞いたマールはやる気なさそうに口を開く。
「それはそれで暇だね~」
「あれっ?」
さっきからスマホをいじっていたなおが突然何かに気付いたような声を上げた。気になったマールは声をかける。
「何かあったの?」
「今天気予報見ていたんですけど、大雨なのはこの辺りだけみたいです」
「嘘?」
「ほら、見てください」
なおに画面を見せられ、マールは絶句する。
「本当だ、他の地域はもう雨が止んでたりしてる……」
「これって……」
その不可思議な現象に当のなおも言葉を失っていた。そのやり取りを目にしていたゆんもスマホを起動させ、情報を集め始める。画面をスワイプさせながら、そこで得た情報をすぐにみんなに伝えた。
「魔法積乱雲が発生している為、だって」
その聞きなれない言葉にマールは思わず聞き返す。
「魔法積乱雲?」
「魔法で気候を操って積乱雲を発生させているみたい」
こうして悪天候の理由がはっきりしたところで、マールの頭にはまた新たな疑問が浮かんでいた。
「じゃあやっぱりこれは魔法の仕業!何処かに術者がいるんだ。でも何で?」
「それは分からないけど、学校の周辺をずっと雨にしていたい誰かがいる……。きっと先生達はその対処を相談しているんだよ」
「原因がもう分かっているなら先生達がきっと対処してくれるでしょ。私達は自習だよー」
ゆんの説を聞いてそこから先はお手上げだと結論付けたマールはまた机に突っ伏して寝てしまう。彼女らしいその行動に友達3人はやれやれと言ったジェスチャーをして、それぞれの席に戻って自習を始めた。
自習はその後の授業でも続き、風雨の勢いは収まらないまま給食の時間がやって来る。先生のいないまま生徒達は自主的に食事の準備をし、食べ終えた。
昼休みに入り、マールが背伸びをしながらくつろいでいると、暇を持て余したゆんが近付いて来た。
「まさか昼になってもこのままとはね~」
「どうせならこのまま学校も休みにすればいいのにね」
マールは腕を伸ばしてそのまま頭の後ろで手を組みながら無責任につぶやく。その言葉を聞いたファルアがツッコミを入れた。
「でもこの雨の中を帰るのは危なくない?」
「雨が止んでから帰った方がいいですよ」
いつの間にかなおもこの会話に参戦する。集中攻撃を行けたマールは焦って口を開く。
「でもさ、この嵐が人為的なものなら、この後もずっと荒れたままなのかもだよ」
「迷惑な話だよね~」
ここでゆんが窓の外を眺めながら話しかけた。
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