第51話 不思議な夢 その3

「よし、やろう!それで夢の中に入れるのはなおちゃんだけ?」


「え?」


「良かったら私達も連れて行ってよ」


 ファルアはなおに自分達も同行すると頼み込む。その私達と言う言葉に敏感に反応したのが一緒にお見舞いに来ていたゆんだった。


「ちょ、私も行くの?」


「行こうよ、この際だし!」


 彼女の悪い予感は当たってしまう。ファルアはゆんの腕を揺らして一緒に行くように力いっぱい勧誘した。彼女はそんなに乗り気ではなかったものの、ファルアの熱意に渋々了承する。

 そんな彼女達を様子を見ていた僕は遅れを取るまいとすぐに慌てて立候補した。


「待って!それなら僕も行くよ!」


「とんちゃんはお留守番ね、何が起こるかも分からないし。外側からのサポートも必要になるかもだから」


「あ……うん、分かった」


 僕の希望はあっさりとファルアに拒否されてしまった。確かに彼女の言う事も最もだ。仕方ない、それならそれでしっかりサポート役を努めよう。と、そんな訳で僕以外のメンバーは全員がマールの夢の中に入ると言う事になった。上手く行けばいいけど……。


 で、どうやってみんなで夢の中に入るのかと言うと、3人で手を繋ぎあって輪になり、その状態でなおが念じる事で夢の中に入れると言うもののようだ。

 言い出しっぺのなおもぶっつけ本番なので出来るかどうかはやってみなくちゃ分からないらしい。

 準備が整ったところでファルアがなおに話しかける。


「じゃいこう!なおちゃん、自分のタイミングでお願いね!」


「どうしてこんな事に……私もとんちゃんのサポートを……」


「行きます!」


 ゆんが自分の選択を後悔している中、なおはひとり気合を込める。次の瞬間、3人は一気に気を失って倒れ、それぞれの体から魂的なものが出現し、それがまるで栓を抜いたお風呂の水のようにマールの中に吸い込まれていった。この状況の中、3人の中でゆんだけが絶叫を上げていた。


「うわあああああああああああ!」


 僕が気が付くと3人はみんな揃って寝息を立てている。どうやら夢の中に入る魔法は成功したらしい。思いつきでこんな難しい魔法を成功させてしまうなんて、なおって子は本当にすごい。

 僕は感心すると共に、彼女達の無事を願っていた。どうか夢の中のマールと合流してこの作戦がうまく行きますように。


 その頃、夢の中に入った3人は早速マールと合流していた。彼女が夢の中で一休みしているところに、まるで召喚士に召喚されたみたいに突然3人が現れたのだ。この現象にマールは目を丸くして驚いていた。


「あれ?みんな?」


「本当に来ちゃったよ」


 夢の中に入る事に成功したゆんは思わずつぶやく。この突然の来客に座って休んでいたマールはすぐに立ち上がり、まだ手を繋ぎ合っている状態の3人に思いっきり抱きついた。


「良かったぁ~寂しかったんだ~!」


 しばらくその状態が続いたものの、時間が経って落ち着いたところでファルアが抱きついていた彼女をどかし、話しかける。


「マール、あなた知らないのね」


「え?」


 まだ事態を把握していないマールはこのファルアの言葉にキョトンとしていた。状況を分かって貰う為に、今度はなおが説明を始める。


「マールさんは今日一日ずっと眠りから覚めていないんです。眠り病にかかってるんです」


「嘘でしょ?だってこれは私の夢、ゆんもファルアもなおちゃんも私の夢の登場人物でしょ?」


 マールは夢を見ている本人だったので、この突然現れた友達3人も当然自分の夢が作り出した存在だと勘違いしていた。この言葉を聞いたゆんは感心したように口を開く。


「あ、ここが夢だって言う自覚はあるんだ」


「うん、だってここって不思議な場所で私以外に誰もいないんだもん。こんなのどう考えたって現実じゃないでしょ」


 確かに夢によっては自分以外誰もいないって事も普通に有り得る。そう言う世界だからここは夢だって自覚する場合もあってもおかしくはないのだろう。

 ファルアはまだ混乱しているマールをあんまり刺激させないように慎重に言葉を選びながら話しかけた。


「まぁ別に信じなくていいけど、私達はマールの夢の中にやって来た本人だからね」


「その本人が私に何の用なの?」


 マールはまだイマイチ状況を理解していないのか、改めてファルアにどうして自分の夢の中にやって来たのかの説明を求める。そのやり取りに苛ついたのが最初からここに来るのに乗り気じゃなかったゆんだった。彼女は自分の気持ちを誤魔化さず、急かすようにマールに声をかける。


「まだ分からない?助けに来たんだって!早くここから出よう!」


「どうやって?」


 ゆんの叫びを聞いたマールは彼女の方に顔を向けて根本的な疑問を口にする。その疑問に対する答えを用意していなかったゆんは困ってしまい、思わず回答を丸投げする。


「それは……なおちゃんの力で!」


「えっ?」


 急に話を振られたなおは当然のように困惑する。その態度を見て心配になったファルアは彼女に声をかけた。


「なおちゃん、どうしたの?」


「私の力じゃ、夢を見ている本人を起こす事は……」


「出来ないの?嘘ぉ……」


 この彼女の言葉にファルアはショックを受ける。何故なら何かマールを起こす方法を思いついたからこそ、なおはこの方法を提案したものだとばかり思っていたからだ。自分が勝手に思い込んでひとり突っ走ってしまった事を彼女はここで知る事になった。


 ショックで固まるファルアになおは改めてここに来ようと思った自分の本心を語る。


「だからその、夢を見ている本人の目覚めるお手伝いなら出来るかなと思って……」


「あ、そっか、うん、そうだね!」


 彼女の言葉を聞いて自分の思い違いを反省したファルアは気持ちを切り替える事にした。なおに頼る事は止めて、自分達がアイデアを出し合ってどうにかマールを目覚めさせようと。

 その為にまずは現状を確認しようと彼女はマールに質問する。


「マールはどうやったら目覚められるか分かるの?」


「そんなの分かんないよ。分かってたらとっくにそうしてるよ」


「よし、じゃあ一緒にこの世界を冒険しよう、そうすればきっと何か分かるはずだよ」


 このファルアのアイデアにみんな賛同する。醒めない夢の謎を解くにはこの夢の事を詳しく知る必要があるとみんな納得したからだ。静かで広大なこの夢の大地を歩きながらゆんは不服そうな顔をしながらマールに声をかける。


「早く謎を解いてよね、私今日もレッスンがあるんだから」


「じゃあ、ゆんが一番に頑張って謎を解いてくれないと!」


「う~。分かったよ!私も頑張るから!」


 結局逆に言いくるめられてしまった彼女は問題解決に積極的に取り組む事を約束させられてしまう。このやり取りを周りで聞いていた2人はくすっと笑った。

 その後、歩けども歩けども全然果てが見えて来ない状況にファルアが口を開く。


「変な世界だねここ。夢だから当然だけど」


「ファルアも見覚えないの?私ここを本島の景色だと思ってたんだけど」


「私も本島は隅々まで行った訳じゃないから断言は出来ないけど、私の知ってる場所にこんな所はなかったよ」


「なーんだ、折角本島かと思ってたのに」

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