夢の冒険
不思議な夢
第49話 不思議な夢 その1
その時、マールは何故か知らない場所にいた。辺りは深い霧に包まれていて何も見えない。この異常な状況に思わず独り言をつぶやく。
「あれ?」
何とかこうなってしまった経緯を思い出そうとするものの、その辺りの記憶が曖昧で全く思い出す事が出来ない。腕組みをしながらマールは首を傾げる。
「どうしたんだろう?ここ?」
見慣れない場所と言う事はきっと地元ではないのだろう。そう結論付けたマールはこの場所をまだ行った事のない場所だと決めつけた。
「ここ……が、本島?」
霧はまだ晴れていなかったけど、じっとしていても仕方がなかったので取り敢えず彼女は歩き始める。足元には背の短い草が敷き詰めるように生えていて、歩いても歩いても見える景色が変わる事はなかった。歩き続けても全然疲れない事に気付かないまま……。
「あ……」
「マール?」
気が付くとマールは自然に目を覚ましていた。そう、さっきまでの情景は彼女の夢の中の景色だったのだ。いつもと違って起こす前に目を覚ましたマールにびっくりした僕はしばらくなんて彼女に声をかけていいのか分からなかった。
「あ、おはよう、とんちゃん」
「珍しいね?こんなに早く起きるなんて」
目を覚ましたマールはすぐに僕に挨拶をする。それをきっかけにようやく僕も彼女に声をかける事が出来た。
「うん、起きちゃった」
「じゃあもう二度寝せずにこのまま起きちゃおうよ、うん」
折角早起きをしたのだからと僕はマールにアドバイスをする。寝起きだからなのか、まだ何となく要領を得ない感じだったので後ひと押しと更に言葉を続けた。
「朝余裕があると気が楽だよ」
「それもそうだけど……また眠くなって来ちゃった」
「だから、寝ちゃダメー!」
結局マールはまた布団に潜り込んで、次目覚めた時にはいつもより10分も遅い時間になってしまっていた。使い魔として、主をしっかりサポート出来なかったのが悔しいよ。
そこから先はいつもと同じ。かなりドタバタしたけれど何とかマールは遅刻を免れた。今までに何度も遅刻寸前になっていたからノウハウが蓄積されていた訳だ。これもある意味怪我の功名だね。
今朝の夢がすごく印象に残っていたのか、みんなが集まった休み時間にマールは楽しそうに身振り手振りを加えてその事を話す。
「……てな事があってね?」
「ふーん、いい夢だったんじゃないの?」
彼女の言葉にファルアが少し呆れたように返した。人の夢の話なんて他人からすればどうでもいい話だもんね。ファルアのやる気のない返事が気に障ったのかマールは口を尖らせながら言葉を続ける。
「夢の内容、殆ど覚えてないんだけど?」
「でも早起き出来たんでしょ?いい夢じゃん」
この反論にファルアは彼女らしい理由を口にする。結果から言えば、確かに夢のお陰で早起き出来たのだから悪い夢ではない事は間違いない。言い返せなくなったマールは不機嫌そうな顔をするのが精一杯だった。そこでこの会話にゆんが割って入る。
「その夢……最近流行ってるアレかも?」
「何?ゆん知ってるの?」
「最近奇妙な夢を見る子が多いんだって。テレビでやってた」
このゆんの話はマールにとっても興味深いものだった。もっと詳しい事を聞こうと彼女は身を乗り出し気味に口を開く。
「そうなんだ。原因は何だって?」
「それはまだ分かってないみたい。専門家が調べているって話だったけど」
「夢を見たらどうなるの?」
「最悪ずっと夢の中で彷徨うって」
ゆんの話を聞いていたマールはその結論に背筋を凍らせた。彼女が特別怖く喋っていた訳ではなかったけど、自分の見た夢がもし同じものだったとしたらと思うとすごく身近な話題として感じられたからだ。
「何それ、怖いね」
「マールもずっと寝ちゃわないでよ」
「大丈夫だよ、とんちゃんがいつも起こしてくれるし」
ゆんの話をリアルに感じていたマールではあったけど、自分には起こしてくれる存在がいる。そう、この僕を信じているからギリギリのところで彼女は平常心を保つ事が出来ていたのだった。
「その夢の話、先生も研究しているみたいです」
次にこの会話に入ったのがなおだった。どうやら彼女の保護者である先生がこの問題についても研究をしているらしい。当然のようにマールはすぐにこの話に食いついた。
「何か話は聞いてる?」
「いえ……そんな簡単に分かるものじゃないみたいですね」
なおは残念そうにマールにそう告げる。その顔は期待にそえなくて申し訳ないと言う風な辛そうな表情だった。そんな彼女を見たマールは取り繕うようになおに言葉をかける。
「い、いいんだよ別に……」
「やっぱ病気みたいなものなのかなぁ?」
この会話の流れを受けてファルアがその夢の事を彼女なりに推測する。その言葉にゆんもすぐに便乗した。
「やばいじゃん!私もそんな夢見ちゃうかもだよ」
「だね、マールが見るくらいなんだから」
「ちょ、それどう言う意味よ!」
このファルアとゆんの漫才にマールがツッコミを入れる。怒りが収まらないのか、マールはそこから更に言葉を続けた。
「大体、私の見た夢がそう言う夢とはまだ限らないんだから!」
「でも気をつけてよ、夢から抜けられなくなっても知らないよ」
機嫌を悪くしているマールに改めてファルアが忠告する。
しかし、その言葉もまた彼女を不機嫌にさせるのに十分なものだった。
「そんなの気をつけようがないじゃん、夢なんだもん」
「それもそっか」
マールの言葉に納得したファルアは、もうそれ以上この話について何も言わなかった。その後、会話は別の話題で盛り上がり、マールの機嫌もいつの間にかすっかり直っていく。やがてマール自身、夢の事はすっかり忘れてしまったのだった。
そうして一日が終わり、あっと言う間に就寝の時間がやって来た。パジャマに着替えたマールは布団に入って僕に声をかける。
「ふあ~あ、それじゃあ目覚ましはよろふぃくね~」
「マールもちゃんと起きてよね」
「起きる、起きるって、じゃあおやふみぃ~」
就寝時間目前のマールはすごく眠そうにしている。これならきっと今日は熟睡して明日はスッキリ目覚められるだろうと僕は思った。その後、彼女は照明を消さずにころっと眠ってしまったので、僕は呆れながら天井の照明を消す。
この時はまだ僕は知らなかったんだ。マールがそんな厄介な夢を見てしまっているだなんて。
変わったところなんて何ひとつ感じられないまま、僕もその後を追うようにすぐに眠りについた。
「あれ?また同じ夢?」
夢の中でマールはまた彷徨っていた。彼女が続きの夢を見る事は以前にもあったのだけれど、この夢は過去のそう言う夢とも何か違う気がしていた。どこが違うかと言うと、それはうまく説明は出来ないものだったのだけれど。
「やっぱり知らない場所だ……一体ここは……」
マールは夢の中の風景をキョロキョロと見渡すと、好奇心の赴くままにこの世界を探検する事にする。幸いな事に昨日は濃かった霧が今回はかなり薄くなっていて、結構な遠くまで景色を確認する事が出来た。
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