第48話 魔法検定 その4

 両手を置くクリスタルの変化が固定される時間は数十秒で、集中しているとあっと言う間に終わる。

 この時間に気合を入れたり、心を無にしたりと検定者は様々な行為を行って少しでもいい結果を得ようとするんだけど、実際のところは何をしても結果は特に変わらないらしい。

 ただ、少しでも効果があるならと、マールも気合を入れて最後の悪足掻きをしていた。


「どうだった?」


 検定が終わって教室に戻って来たマールにまずはファルアが駆け寄って手応えを聞いて来た。マールはニヤリと笑うとVサインを出してその声に答える。


「もち、手応えアリだよ!」


「ほほう、言いますなあ」


 この時、マールは検定の結果に絶対の自信を持っていたんだ。


 それから一週間後、検定の結果が戻って来た。先生は順番に結果の書かれた紙が入った封筒を手渡していく。すぐに封筒を開けて結果を見る者、家に帰ってから結果を確認する者、人によって確認のタイミングはバラバラ。マール達はと言えば、全員が結果をすぐに知りたい派だった。


「ふぅー。D-だったよぉー」


「私も一緒、ギリだったね」


「やっぱ世の中そんな簡単じゃないねえ」


 封を開けて結果を確認したファルアとゆんはお互いの結果を見せ合って感想を漏らしている。2人は望み通りにDの判定を受ける事が出来たようだった。

 ただし、D-と言う事でお情けでDの判定を貰ったと言うレベルであり、あまり自慢出来る風でもなさそうだった。


 2人がそうしていると、そこに先生から結果の封筒を貰ったばかりのマールが横切っていく。彼女を見つけたファルアは早速声をかけた。


「あ、マール、おーい!」


 マールは封筒を貰って速攻で結果を確かめていたんだけど、その紙を見た瞬間に表情が固まっていた。この様子を見て大体の事を察したゆんは手招きしているファルアを止めて首を横に振る。


「そっとしとこ」


 その瞬間からマールはずっと暗い顔のまま――。いつも仲良しの幼馴染2人ですら気軽に彼女に声をかけられない程だった。

 学校から帰ったマールはすぐに居間でくつろいでいる僕に向かって怒りの抗議をぶつける。


「とんちゃん!どう言う事よ!」


「えぇ……?」


 何でいきなり怒鳴られるのかその理由が全く思いつかなかった僕は、この突然の彼女の行動にただ戸惑うばかりだった。キョトンとする僕の顔を見て、話が通じていないのがよっぽど悔しかったのか、マールは抑えていた感情を最大限に爆発させる。


「何でDじゃないのよー!あんだけ頑張ったのに!」


「だって……付け焼き刃じゃんか」


 そう、検定の結果、マールは望む判定を貰えなかったんだ。ようやく事態を理解した僕は思わず素直な感想を口にしてしまった。この言葉を聞いた彼女の怒りはさらにヒートアップする。


「検定の朝に言ったよね?Dは確実だって!」


「言ってないよ!どれだけ都合のいい耳してるの!」


「あーあー、裏切られたー!とんちゃんに期待裏切られたー!」


 何を言っても聞き入れてくれないマールの僕は閉口した。黙っていると彼女はずっと僕を非難する言葉ばかり口に出している。それがあんまりしつこいものだから、僕は何とか彼女を納得させようと精一杯のポジティブワードを使って彼女をなだめた。


「でもE+なら上出来じゃん。僕はEすら厳しいと思っていたよ」


「そこは私の実力だよ!」


「……」


 良い結果が出たのは自分の実力。悪い結果が出たのは相手のせい。この典型的な小物思想を口走るマールに僕はもう何も言えなくなってしまった。


 次の日、教室にようやく戻って来た平穏な気配を感じたなおがそれを口にする。


「魔法検定も終わって平和が戻って来ましたね」


「ひとりまだダメージから回復していないけどね」


 彼女の言葉を聞いたファルアは幼馴染を気遣うようにふわっとした感想をつぶやいた。当事者のマールはと言えば、自分を置いて検定で高評価を得た友達2人に対して逆ギレとも言えるような思いを全く隠そうともせずに素直に口に出す。


「う~、みんなの裏切り者~」


 マールの気持ちが落ち着いたのはそれから一週間後。ネガティブな思いを一週間も持ち続けるなんて、相当検定の事を根に持っていたんだな。


 でも学校の彼女はまだいい方で、僕なんてそれプラス一週間ずっと無視され続けていたんだ。これは本当に、本当に辛かったよ。

 ちょっとしたきっかけでまた元の関係に戻れたはしたけど、逆ギレした事への謝罪は最後までないままだった。ま、ずっと引きずっていてもアレだし、僕も忘れる事にしたんだけどね。

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