第47話 魔法検定 その3
僕は溜息をひとつ吐き出すと、折角やる気になっているマールの機嫌を損ねないようにと最大限譲歩する事を約束した。主を成長させる事が使い魔の仕事だから、あんまり不満ばかりも言ってられないよね。
マールは僕の準備が整ってから修行を始めると言う事で、この日は言いたい事を言いたいだけ口に出すとそれからすぐにベッドに潜り込んでしまった。
「お願いね~おやすみぃ~」
「はぁ……先が思いやられるなぁ」
マールの性格は幼い頃から知っているからこの行動だって別に驚く事はないんだけど、幼い頃から彼女が全然成長していないのを少し気がかりにも感じてしまう。
それから僕は今のマールでも出来そうな検定用修行グッズを必死に探して選んで準備する。最初こそそんな都合のいいグッズなんてない気がしていたものの、あちこち探し回ってついに倉庫の奥で具合の良さそうなグッズを発見する。探し出せてやっと肩の荷が下りた僕はどっと疲れが襲って来てしまい、そのままその場で眠ってしまった。
次に気が付いて目を覚ますともう時間はたっぷりと過ぎていて、目の前には学校から帰って来たマールが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「で?何かいい方法はあった?」
「簡単なのはこの魔法板を使った訓練かな。カードゲームの要領で遊びながら感性を磨けるよ」
「何それ面白そう!やる!やり方教えて!」
ゲーム感覚で技術が磨けると言う事でマールはすぐに僕の出したアイディアに乗っかった。良かった。必死でマールでも出来そうな方法を探した努力が報われたよ。
さあ、彼女のやる気の炎が消えてしまう前にうまく話を進めなきゃ。
「まずカードをみんな裏返しにして5つ選んでそれを裏返す。点数がカードに書いてあるから総合得点で高得点を出すんだ」
「ふーん、神経衰弱みたいなもんか」
マールは僕の説明を聞きながらうんうんとうなずいている。よし、いいぞ、この食いつき!僕は嬉しくなって説明を続ける。
「だね、カードは魔法でランダムの数字が変わっていくんだ。裏返したところでその数字が固定されてそれが点数になる。安定して高得点が出せるようになったら実力がついたって事になるんだ」
「任しとき!よーし、やるぞー!」
説明を聞いたマールは早速カードをテーブルに広げ始めた。トランプと同じく52枚のカードを並べ終わると、彼女はまず一度深呼吸して呼吸を整える。
それからゆっくりと吟味するように一枚一枚カードを裏返し始めた。5枚裏返したところでマールは僕に結果を報告する。
「28点、19点、8点、12点、35点……これっていい感じなの?」
「見事に点数がバラバラじゃないか。全然良くないよ。後、高得点を出すよりは全ての点数の差が小さい方が力があるって事だからね」
「え~、めんどくさーい。もっと楽なものはないの?」
結果の説明を聞いた途端、マールが急に面倒臭がり出した。ちょっとでもややこしいと感じたらとすぐこれだ。まぁ彼女の性格から言ってそう言う反応が返ってくるだろうとは思っていたけど。
僕は呆れて溜息をひとつ吐き出すと、楽ばかりを求めるマールにちょっとガツンと言ってやろうと声を荒げて返事を返す。
「これ程楽なのはないよ!これ以上を求めるのなら協力出来ないからね!」
「わ、分かったよ。冗談も通じないんだから……」
「全く、またすぐ誤魔化す。さあ最初から始めるよ」
僕が強気の言葉を返すとその勢いに押されて彼女もそれ以上もワガママは言わなくなった。やっぱり飴と鞭って大事だよね。それからは彼女も心を入れ替えて真剣にゲームを続けていく。一度集中するとその集中力はかなりのもので2時間3時間続けてももう弱音のひとつも吐かなくなっていた。
この修行は魔法検定の前日まで続けられ、ゲームの結果もかなり安定した数字を出せるようになって来ていた。
「22点、18点、11点、20点、22点……これでどうよ!」
「う~ん、まぁまぁじゃないの?点数のブレも小さくなったし」
ゲームを始めた頃のブレブレの結果が嘘みたいに、今ではかなり安定した数字を出せるようになって来ていた。このゲームの最終到達点はカード最高点の100点を5枚全部出すと言うもので、今のマールではまだまだ届かないものではあった。
けれど、今の結果だって2週間という期間で叩き出した結果としては悪くはない。
僕の評価を聞いた彼女はニコニコと笑いながら質問をする。
「これでD判定行ける?」
「そ、それは……ふ、普段の実力が出せればね……」
正直、今の結果から言うとD判定は厳しいと言うのが本音だった。
しかしそんな事を正直にマールに話せる訳もなく、僕は無理やり希望的な言葉を口にする。
「おっし!自信ついた!どんとこい魔法検定!」
僕の言葉に自信をつけたマールは満面の笑みを浮かべる。それからベッドに潜り込むと速攻で夢の世界へと旅立っていった。多少心配な面はあるけれど、自信を付ければきっと最高の結果を導き出せるはず。僕はそう自分に言い聞かせて寝床に入ると目を閉じた。
次の日はいよいよ魔法検定の当日。彼女はもう結果は分かりきっていると言う風な勢いで学校へ登校していく。意気揚々と教室に入ったマールは既に教室にいた幼馴染2人にニヤニヤと笑いながら声をかけた。
「いや~楽しみだねぇ~」
「あらマールさん、どこからそんな自信が?」
そんなマールの態度にファルアがちょっとふざけ気味に声をかけた。彼女はニヤケ顔のままファルアの方を向いてその自信の理由を口にする。
「ふふ、今日のために秘密の特訓をしたのだよ」
「いい結果が出せればいいですわねえ」
特訓と言う言葉を聞いて今度はファルアの隣りにいたゆんがマールに声をかけた。このやり取りで場の雰囲気が奇妙な感じになって、誰とはなしに妙な笑い声が漏れ始める。
「ふふふふふ……」
「をほほほほ……」
「何やってんのよ……」
その様子を見たしずるは呆れたようにツッコミを入れていた。
魔法検定は午後からの為、授業は午前中までで終わり、午後の授業が始まる時間からひとりひとり生徒が呼ばれていく。検定が終わった生徒は次の生徒を呼んで、そのまま帰宅するのが検定の日の習わしだ。
検定が始まって段々と教室の生徒が減っていく中、ついにその時がやって来る。
「次、マールの番だよ」
「ほーい!」
名前を呼ばれたマールは魔法検定の為に特別にしつらえた部屋に入った。ここは魔法実験室で普段から様々な魔法の実験をしている部屋だ。魔法検定用の特別仕様になった魔法実験室の机の上には、サッカーボールくらいの大きさの立派なクリスタルが置かれている。そして対面側には検定員のおねーさんが座っていた。
マールが部屋に入るとおねーさんに用意された席に座るように指示され、彼女は言われるままにちょこんとそこに座る。検定自体は小学生の頃からしているから、もうすっかり慣れた光景だった。
「では、このクリスタルに両手をかざしてください」
おねーさんに言われてマールはクリスタルに手をかざす。クリスタルは検定者の両手から発する波動によってその色を変化させる。検定員のおねーさんがその色を読み取って魔法力を読み取るんだ。
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