遠足
第40話 遠足 その1
マールの通う学校では遠足の時期が近付いていた。この行事を楽しみにしていたマールは遠足の日が近付くに連れテンションが上ってくる。
「もうすぐ遠足だねー」
「おっ、マール嬉しそうだね」
そんな彼女の様子を目にしたファルアが彼女に声をかけていた。
「だって遠足だよ、楽しいに決まってるじゃん」
「歩いていける範囲だからねえ、どこに行くにしても大体みんな知ってる場所じゃない?」
マールが遠足を楽しみにしている理由を話していると、そこにゆんがツッコミを入れる。自分の主張が伝わっていないと感じたマールは更に言葉を続ける。
「学校のみんなと喋りながら歩いて行くってのがいいんだよう」
「私はまだよく知らないから……」
3人が遠足談義に花を咲かせていると、少し控えめになおが会話に混ざって来た。この島についてまだまだ馴染みの薄い彼女にとっては遠足と言うイベントはこの島の事を知るのに絶好のイベントだ。
彼女の存在に気付いたゆんはすぐに自分の意見を訂正する。
「そっか、今回はなおちゃんがいるね」
「どこ行くんだろうなー、楽しみ」
さっきからずっと遠足を楽しみにしているマールは同じ言葉を何度も繰り返していた。そんな彼女を横目に見ながら、ファルアはなおにこの学校の遠足について補足説明をする。
「この学校の遠足はね、色んな魔法現象を見学するって言うのもあるんだよ」
「魔法現象?」
魔法現象と言う言葉がイマイチ把握出来なかった彼女は首を傾げた。その様子を見てファルアは更に言葉を続ける。
「普通の自然現象に加えて魔法的な現象が現れるんだよ。ほら、前になおちゃんと行った奇跡の丘って覚えてる?」
「あっ、あの時の……!」
ひとつ例を出したところでなおは納得したようだった。流石は優等生、飲み込みが早いね。
奇跡の丘の現象は現象自体は魔法現象の一種ではあったけれど、普通なら起こり得なかったはずの現象なので今回の遠足で見学する魔法現象とはちょっと違う。
けれど、今話しているのは魔法現象の説明なのでファルアは敢えて分かりやすい方向で話を進めていた。
「そう、ああ言うのが魔法現象。この島ではああ言うのが結構観測されたりするんだ。あそこまで派手なのは滅多にないけどね」
「やっぱりこの島は不思議な島なんですね」
ファルアの話を聞いてなおがこの島の印象を口にする。するとそこですかさずゆんが割って入って口を開いた。
「ここは外れの島だから。本島はもっとすごいのがあるらしいよ」
「皆さんは本島には?」
本島の話題が出たところでなおはみんなにこの話の流れでは当然の質問をする。この質問に最初に答えたのはファルアだった。
「私は行った事があるよ」
マール達3人の中で一番本島に渡った数が多いのが実は彼女なんだ。ファルア曰く一年に一回は本島に行っているらしい。勿論観光でだけどね。
ファルアが話した事で次にゆんが口を開く。
「私も」
「どーせ私はこの島以外の事は知りませんよ……」
ファルア程ではないものの、ゆんも本島に渡航経験があるらしい。逆に今までこの島を出た事のないマールは話の流れに乗れずに軽くすねていた。
「あっ……」
そんなマールの様子を目にしたなおは自分が不味い質問をしていたと気付き、反省する。
「す、すみません。私そんなつもりじゃ……」
「分かってるよ。なおちゃんのせいじゃないから」
しょぼんと沈んでしまった彼女を見て、マールは焦って取り繕うようになおに声をかけた。それから少し自慢げに言葉を続ける。
「でも行った事はないけど、知識では知ってるよ。テレビでもよく紹介されているしね!」
「そう言うの、耳年増って言うんだよ」
そんな聞きかじりの知識を自慢するマールを見てゆんがツッコミを入れる。その言葉に違和感を覚えたファルアがさらにツッコミを入れた。
「あれ?そう言う使い方だっけ?」
「えっ?違うの?」
「普通は知ったかぶりって……まぁいいか」
細かい言葉の違いについて自分もうまく説明出来ないかも?と感じたファルアはそれ以上は追求しなかった。このやり取りのせいで場の空気がおかしくなり、そこで唐突に話は終わってしまう。
しばらくの沈黙の後、無理矢理にでも何か話そうとマールが口を開いた。
「え、遠足ってやっぱお弁当だよね。青空の下で友達と食べるお弁当は美味しいだろうな~」
「遠足でお弁当と言えばおやつ問題!」
仕切り直したマールの話題に早速ゆんが食いつく。これは盛り上がると思ったのかファルアもテンション高くその会話に参加する。
「バナナはおやつに入りますかぁ~ってヤツだ!」
「で、実際どう思う?」
この問題についてみんなに聞いてみたかったマールは早速問題提起をした。するとすぐになおから言葉が返って来た。
「おやつじゃあないですよ」
「お、なおちゃん気が合うね!」
自分も同じ考えだったマールはなおの言葉に嬉しそうに同意する。逆に異を唱えたのがファルアだった。
「私はおやつかなーって気もするけど」
「む、敵発見!」
「別にどっちでもいいじゃん」
バナナおやつじゃない派とバナナおやつ派の抗争が勃発しかける中、中立派のゆんがその争いを止めようとわざと場を白けさせる。彼女の一言のおかげで不毛な争いは発生する前に止められたのだった。
その後も何となくグダグダに会話は続き、昼休みは楽しく消費されていった。
放課後、家に帰ったマールは昼休みの出来事を楽しく僕に話してくれた。
「そっか、遠足の季節だねそう言えば」
「まだちょい先だけど今から楽しみだよう~」
「確かマールの学年で遠足と言えば……」
遠足を楽しみにしているマールに追加情報を教えてあげようと僕が言いかけると、すぐにマールが大声を出してその言葉を遮った。
「その先は言わないで!行き先は先生から聞いて感動したいから!」
「感動……?」
「ネタバレ厳禁だよ!」
どうやらマールにとって遠足の行き先は先生の口から聞くまでは知ってはいけないトップシークレットらしい。この言葉に呆れた僕は思わず言葉を漏らす。
「もうそこからネタバレに入るんだ」
「余計な事言うならもう寝るよ!おやすみ!」
彼女がへそを曲げて布団に潜り込んでしまった為、僕も仕方なく寝る事にした。マールがどれだけ遠足を楽しみにしているのか、このエピソードでもよく分かったと思う。まだ13歳だもん、楽しい事に夢中になるのも仕方のない話だよね。
そんな事があってから3日後、ホームルームの時間においてついに先生の口から遠足の目的地が発表された。
「えー、それでは遠足についてだが、今回みんなが遠足で行くのは『うさぎ岬』に決まったぞ」
この先生の発表に対してクラス中にどよめきが起こる。うさぎ岬と言うのはこの島でも結構メジャーな場所で、大抵の人は何度か訪れた事のある場所だった。
それなりに景色の良い観光名所ではあるものの、遠足に新鮮さを求める一部生徒達には不評を買っていた。
「えーまたー」
「小学生の時に行ってるんですけどー」
「前の休みに行ったばかりだー」
「行くならもっと先の季節がいいなー」
「あ、うさぎ岬行った事ないや」
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