第39話 妖精を探して その5
2人が何も出来ずにただ硬直していると妖精は腰に下げていた袋から何かを取り出して彼女達に振りかけた。それが何かは分からないものの、振りかけられた2人の視界は急に暗くなり、何処かに飛ばされるような感覚を味わっていた。
「キャアアアッ!」
2人が気が付くとそこは足を踏み外す前の見慣れた森の景色、山道の真ん中で倒れた状態で目を覚ましていた。目をこすりながら2人がそれぞれのタイミングで起き上がると聞き慣れた声が背後から聞こえて来た。
「あれ?マール、どうしてこんなところに?」
「え?ファルア?」
マールに声をかけたのはファルアだった。その後にゆんとも合流し、こうして4人は無事に再会出来たのだった。突然姿が消えた事に対してファルアがマールにちょっとキツめに声をかける。
「全く、先に行くなら声をかけてよ。てっきり迷ったのかと……」
「助かったぁー!」
ファルアが全てを言い終わる前にマールはそう言って彼女に抱きついた。2人の間でそんなスキンシップをした事なんて今までになかったので、この突然の行為にファルアは戸惑ってしまう。
「わわっ!一体どうしたの?」
「私達、さっき妖精に会ったんです」
ファルアのその質問に同行していたなおが代わりに答える。精神的にまだ立ち直れていないマールに対して彼女は既に平常心を取り戻していた。
なおの言葉を聞いたファルアは彼女の言っている意味が分からなくて、思わす聞き返す。
「えっ?それって……?」
「そこには妖精がたくさんいて集落を作っていました。けれど……」
ファルアに聞かれてなおは淡々とはぐれていた時の事を説明するものの、彼女が結論だけを話すものだから聞かされる側にとっては要領を得ない答えになってしまっていた。その説明にピンと来ないファルアは両手を広げてもっと詳細な説明を彼女に求めるのだった。
「どう言う事?私達はまだ妖精を見つけてないのに」
「多分あの場所はこの世界と別の世界なんです。だから電波も通じなかった」
言いたい事は分からなくもなかったものの、この説明だと推測する部分が多過ぎた為、ファルアは同じ体験をしたはずのマールにも説明を求める。
「ほら、マールも何か言ってよ。あなたも妖精を見たんでしょ」
「うん、見た。でも全然話が通じなくて、それで多分追い返されたんだと思う」
マールの答えもまたなおの説明と似たり寄ったりだった。その話から推測すると彼女達は妖精を発見したものの、彼らに見つかってこの場所に追い返されたと言う事になる。黙って話を聞いていたゆんはマールの肩を軽く叩いて声をかけた。
「でもそれで戻って来れて良かったじゃない」
その言葉にマールは黙ってうなずいていた。このやり取りで彼女も落ち着いてようやくファルアから離れる。それから考えを整理したなおが事の顛末を先行していた2人に推測を加えて説明する。
「この森の、多分私達が迷った辺りに何らかの別世界の入り口が偶然空いていて、そこから私達は妖精のいる世界に行ってしまったんだと思います」
「じゃあ、妖精を見たって噂は妖精が何かの理由でその次元の入り口から一時的にこっちの世界に迷い出したのを誰かが目撃したって言う事なのかも」
なおの説明を聞いたゆんは妖精の噂をそう結論付ける。この説を聞いたファルアは少し落胆したようだった。
「そっか、普通にしていたら妖精は見られないのか~」
ファルアはしばらくがっかりしいたものの、その後急に何かを閃いてマールの肩を両手で叩いて彼女に催促する。
「ねぇマール、その次元の入り口の場所に案内してよ。私も妖精見たいし」
この彼女の話を聞いた瞬間、マールは妖精達に気付かれた後のあの扱いを思い出して涙目になりながら強くその要求を拒否するのだった。
「もうあんなの二度とゴメンだよ~」
それから4人は大人しく探索を再開したものの、この森を訪れている多くの観光客と同じで妖精に会えずに終わってしまう。結局妖精に会えたのは別次元に迷い込んでしまったマールとなおだけだった。
探索を終えて何となく心のモヤモヤが晴れなかったファルアがもう一度森に入ると言うので、そこからは団体行動は解散と言う流れになってマールは家に帰る事にした。ちなみにゆんはなおを連れて街で買い物とかをしたらしい。
「ありゃあ、大変だったねぇ」
「あの森に異次元への入口があるってとんちゃんは知ってた?」
「いや知らない。って言うかそもそも僕ら森になんて行かないし」
家に帰ったマールは自分の部屋に戻るなり、すぐにベッドに寝っ転がって今日あった出来事を僕に報告する。噂になった妖精の真実を話すマールは、まるで大冒険をした探検隊の隊長のような口ぶりだった。
異次元の入り口の事を僕が知らないと言うとマールは真剣な顔になって訴える。
「じゃあこれからしっかり使い魔ネットでこの事を広めてよね!誰かが犠牲になっちゃう前に!」
「う……うん、分かった」
その勢いに飲まれた僕は要求を飲んでただうなずくしか出来なかった。彼女があんまり真剣なんで僕はちょっと尋ねてみる。
「それで、怖い目に遭わされて妖精を嫌いになった?」
「ううん。あそこで妖精に会わなかったら私達こっちの世界に戻って来れなかったかもだし。そう考えると妖精に感謝だよ」
意外にもマールは妖精を嫌いにはなっていなかった。むしろ元の世界に戻れて感謝すらしていると。この答えを聞いた僕は彼女らしいなと感じ笑顔で返事を返すのだった。
「そっか。うん、そうだよね」
あの時、妖精の声を聞けたのがマールだけだったと言うのは彼女にしか聞こえなかったのか、それともなおだけが聞こえなかったのか――現時点ではその答えが出る事はなかった。
ただ、その後の妖精の集落では2人共妖精の姿を確認出来ていた事から、なおに問題があるとも考えにくい訳で――。
そもそもあの妖精は昔からコンロンの森にいたのか、それとも最近引っ越して来たのか……。この島にも妖精がいると言う噂自体は真実だったものの、まだま謎の多くは解明されないままなのだった。
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