第31話 空から降るもの その3
体育会系のファルアはここで強気の提案をする。この言葉に共感したマールは早速行動を開始した。人だかりはあったものの、少しそれが収まったタイミングを見計らってマールはちょっと強引になおの前に姿を現す。まだクラスに馴染めなくて気疲れしている彼女にマールは元気よく声をかけた。
「なおちゃん!」
「あ、はい」
突然大きめの声で話しかけられてなおはびっくりする。マールは彼女の意識が自分に向いたのを確認して質問を始めた。
「学校には慣れた?」
「いえ……まだちょっと……」
いきなり転校初日でその環境に慣れる訳もない。それでもマールは強引に話を進める。
「あのさ、突然で驚くかも知れないけど……」
「はい……?」
いきなり意味深な事を言われてなおは気構える。その表情には自分が知らない間に何かやらかしたんじゃないかという不安の色がありありと表れていた。
ちょっと怖がらせちゃったかなと思ったマールはニッコリと笑って話しかける。
「私達と遊ばない?次の休みの日に」
「え?」
この突然の誘いになおは呆気に取られたような顔をした。突然の申し出に頭がうまく動かないようだった。
「ダメ……?」
「えぇと……あの、私まだ」
混乱しているらしいなおの様子を見てマールはすぐ手を小さく振ってに彼女にフォローの言葉を告げる。
「あ、すぐに答えなくてもいいから。休みの日までに考えておいてくれたら」
「あ、はい」
その彼女の言葉になおは安心したように返事を返した。この様子だと返事は保留と言ったところだろう。否定されなかったのだから一歩前進はしたとマールは判断して、みんなのもとに戻って結果報告をする。
「流石にすぐに返事はもらえなかったよ」
「でも断られなくて良かったね」
マールの報告にゆんは労いの意味も込めて答えた。対してファルアはその先の事に関して問題を提起する。
「まずはOKをもらえた時の為に何して遊ぶのか決めておいた方が良いんじゃない?」
「そうだ!それ大事だね!」
このファルアの言葉にマールも同意する。ゆんは早速どうしたら良いか自分の考えを口にした。
「この島の事を何も知らないだろうから、知ってもらうようなプランを立てるのはどう?」
話がここまで進んだところでいいアイデアが閃いたマールはぽんと手を叩く。
「そうだ!お金かけるよりさ、いい景色を紹介するような感じにしない?」
「いいね!それなら懐も痛まないし」
このアイディアにゆんもファルアも快く賛同する。そうと決まればこの島のいいところを色々調べなくちゃとマールは思った。
「これから忙しくなるなぁ~」
放課後に予定のある2人の為にこの計画はマールがメインで立てる事になった。それで彼女は書店に寄って必要なものを買い揃える。意気揚々と帰宅した彼女は自分の部屋で買って来た本を袋から取り出してざっと一通り読み始めた。僕はヒョイッと机に飛び乗ってその本を一緒に眺める。
「……それで観光ガイドの本を買って来たんだ」
「だって、やるからにはちゃんとやらないと」
どうやらマールは珍しくやる気を出しているみたいだ。僕は彼女の熱意に水を差す気がしながらも、アドバイスがてら一言つぶやく。
「自分の知ってる範囲で案内したらいいと思うけどなぁ。本で得た知識じゃ付け焼き刃になっちゃうよ」
「もう!買って来たんだから使わなきゃ損でしょ!それにどうやって紹介するかとか、本の記事の文章が参考になるし」
案の定マールは僕の言葉に逆ギレした。でもその態度で彼女の熱意が分かったので、僕は顔を洗って気持ちを落ち着かせてから口を開く。
「ああ、ちゃんと考えてるんだ。ちょっと見直した」
「ふふん、尊敬していいよ!」
「またすぐに調子に乗るんだから……」
その後もマールは熱心に地元の観光地をチェックしていった。その熱意を少しでも勉強の方に回せばいいのにと思いつつ、それを僕は口に出さないでおく。何か口を挟むとまたすぐに機嫌を悪くするので僕はもう何も言わずに先に寝る事にした。
次の日の朝、みんなが集まっている時にマールはドヤ顔で一冊のノートを取り出した。
「ほら、こう言うプランを考えて来たんだけど!」
「えっ?マールにしては仕事が早いじゃない、どうしたの?」
その珍しい光景にゆんが驚嘆の声を上げる。その声にマールは一瞬で不機嫌になった。
「私だってやる時はやるんだよっ!」
「あ、そっか、ごめん」
ゆんは少し騒ぎすぎたかなとマールに謝った。それから興味深そうにそのノートをめくり始める。マールはドキドキしながら感想を待った。
「で、どうかな?」
「うん、いいと思うよ、よく出来てる」
そのノートにはこの島のお金の掛からない観光名所が効率良く且つ分かりやすくまとめられていた。ゆんは勿論だけど、覗き込んで隣で見ていたファルアも納得出来る出来だった。ファルアはノートを眺めながら最後に残った問題点を口にする。
「後はなおちゃんの返事次第だねぇ」
この言葉を受けてマールは満を持したように持論を述べる。
「そこで思ったんだけどさ、やっぱ一緒に遊んで貰うには普段から仲良くなるべきだと思うんだよね」
この言葉にゆんが相槌を打つ。
「そりゃあそうだね」
「だからこれからは積極的に彼女に話しかける事にするよ」
「マールがそうするなら私も協力するわ」
「私もね」
ゆんがマールの意見に同意すると、ファルアもそれに続く。こうしてマール達のなおと仲良くなろう作戦が始まった。仲良くなるにはまず挨拶だと全員でそれとなくなおの前に行って挨拶を交わす。
彼女の人気は相変わらずで、その席の前には常時人だかりが出来ていたけど、お構いなしにマール達はそれが当たり前のようになおの前に割り込むと、とびっきりの笑顔で彼女に挨拶をする。
「なおちゃん、おはよ♪今日はいい天気だね」
「あ、はい。そうですね」
そして間髪を入れずにゆんがその後に続いた。ファルアも同じように挨拶をする。
「なおちゃん、おはよ……」
「なおちゃん……」
この挨拶の連続攻撃はなおの目にどう映っただろう。挨拶は何もマール達の専売特許と言う訳でもなく、その後も多くのクラスメイトが彼女に挨拶をしている。だからあまり爪痕は残せていない気もしていた。それでもその積極さは多少はインパクトはあったずだと、マール達は自分達の行為に少なからずの効果を期待していた。
挨拶の後も多少の雑談を交わすものの、他の生徒達の横やりとかがあってその会話は大抵長くは続かなかった。
人だかりから押し出される形になってマール達はまた自分達の場所に戻って来た。それからの反省会。最初に口を開いたのはゆんだった。
「どう?成果は感じる?」
「うーん、まだ分からないなぁ」
挨拶をした感じ、なおの顔を見たマールはその表情にぎこちないものを感じていた。まだまだ彼女はクラスに馴染めていないと言うか、一歩引いている雰囲気だった。多分急に人気になり過ぎたと言うのもあるのだろう。彼女は才能がありすぎた。
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