第26話 魔法スポーツ観戦 その2

 今回のマールは精神的に余裕がある様に見えた。そこで僕は感じたことを素直に口にする。


「マールも体を動かす楽しさを知った事だし、意外と楽しめるかもよ?」


「いやいや、楽しめなかったら時間の無駄じゃん。そこは無理にでも楽しもうと思うよ」


 この僕の言葉に対して、彼女から現実的で現金な言葉が返って来た。全く……この返事を聞いて僕はため息を漏らす。


「うーん……積極的なんだか皮肉なんだか……」


「失礼だな君は!私はいつも正直なんですー!」


 僕の言葉が気に障ったのかマールは頬を膨らませて反論した。これが彼女の素直な気持ちなんだから仕方ないか。楽しもうって意気込みは伝わって来たし。この話を続けても話題が広がりそうもなかったので、僕はもうそれ以上のツッコミはしなかった。


 それから数日後、大会まで後一週間を切って、マールは学校の窓から見える曇り空を見上げながら、心配そうにファルアに質問する。


「ねぇ、大会って雨天決行だったっけ?」


 そう、ここ最近は天候が不安定で、今のままで行けば大会当日の天気は雨になりそうなんだ。この質問を聞いたゆんも言葉を続ける。


「確か雨降っちゃうと平日の日に開催されるんだよね」


「だ、大丈夫!まだ時間はたっぷりあるから……週間予報なんてコロコロ変わるし……雨なんてそんな……」


 2人に同時に天候の事を聞かれてファルアは動揺していた。その彼女の様子を見てゆんがツッコミを入れる。


「声、震えているんですけど」


 一方、マールはファルアに優しい言葉をかけていた。


「週間予報、また変わってくれるといいね」


 ファルアはゆんの言葉に少しイラッとしながらも、マールの言葉に心を落ち着かせた。窓の外の空模様は曇っているけど雨は降らない、そんなハッキリしない感じだった。


 更に時間は過ぎて金曜日。大会はもう間近に迫っている。心配なのはその天候。空模様は相変わらず曇りがちでこの日も場所によっては雨が降っていた。

 みんなで集まって話している時、テレビの天気予報の情報を仕入れたマールが誰に言うでもなくポツリとつぶやいた。


「今朝の週間予報、季節外れの荒れた天候に注意だって」


 この彼女に言葉にゆんが同調する。


「大会、次の日曜なんだけど……」


「いや、大丈夫、大丈夫だと思う!」


 また2人から同じ話題でプレッシャーを掛けられて、ファルアは自分に言い聞かせるように大会当日の天気が晴れる事を信じていた。それは全く根拠のないもので、強く言い切ってはいたものの、その顔は不安一色に彩られていた。


「大会当日、どうか晴れてくれますように……」


 問題が天候なだけに自分に出来る事と言えば祈る事だけ。ファルアは両手を固く握り、大会当日がしっかり晴れるように必死に祈り始めた。

 この様子を見た2人は、ファルアが余りに真剣に祈っているので心を動かされていく。そしてまずマールがゆんに声をかけていた。


「私達も祈ろっか」


「多少でも効果があるなら……」


 2人も大会の為に祈ってくれそうな雰囲気を察して、まぶたを閉じて祈っていたファルアは、ぱっと目を見開いて2人に懇願する。


「一緒に祈って、絶対想いは届くよ!」


 その気迫すら感じさせる雰囲気に、マール達もファルアと一緒に日曜の快晴を祈った。多くのクラスメイトが思い思いに休み時間を謳歌している中で、3人だけが真剣に天に何かを祈る姿は周りから異様に映っていたかも知れない。

 けれど3人にとって今はそんな周囲の目は何ひとつ気にならないのだった。全ては日曜の大会の観戦の為に!


 そうしてついに土曜の夜になった。必死の祈りが天に通じたのか明日の予報から傘マークは消えていた。ただし終日曇りの予報。つまり少し間違えば雨が降ってくる可能性は十分にあった。降水確率も判断の難しい40%を常にキープしていた。


「明日、天気不安だねー」


「一緒に行かないとんちゃんが心配する事もないでしょ」


「いやだって主の事だもの、やっぱりいい経験になって欲しいからさ」


 僕はこれでもマールの事を心配しているのに、当の彼女は僕をからかってばかりいる。


「言うね~。普段は結構無関心の癖に」


 僕が好きで無関心を装っているだって?とんでもないよ!気苦労を知らないマールに対して、僕はちょっと強い口調で本心を言った。


「だって、マールは色々言うとすぐに機嫌悪くするだろ?僕こう見えて結構セーブしてるんだよ?」


「はいはーい、分かりましたー」


 僕がちょっと本気で話をするといつもこうだ。真面目に話を聞く気のない彼女にこれ以上この話を続けても仕方がない。僕は話を切り替えて、明日の事についてマールに注意する。


「明日の天気もそうだけど、寝過ごさないようにね。起こしてあげてもいいけど」


 僕のこの言葉にマールは自信ありげににやっと笑うと口を開いた。


「大丈夫!……だと思うけど、もし寝過ごしそうになっていたらその時はよろしく!」


「全く、調子いいなぁ……」


 僕はこのマールの態度に怒れないでいた。それはいつもと変わらないテンションだったから。これなら今夜興奮して眠れなくなるって事はないだろう。

 逆に僕が寝坊しないように気をつけないと。ま、朝には自然に目が覚めるから寝坊なんてした事はないけどね。


 チチチ……チチチ……。


 日曜の朝、普段なら寝坊するマールが何とか起床時間ギリギリに目を覚ます。僕は彼女が寝坊した時の為に伸ばした爪を使わずに済んでホッとしていた。目覚めたマールは眠い目をこすりながら口を開く。


「ふぁ~。眠い~」


 起き上がったマールはパジャマ姿のまま窓まで直行。そうして窓を開けて心配そうに空を眺めている。


「空模様……怪しいなぁ……」


 現時点の空の様子を確認した彼女は、次に携帯を取り出して天気予報サイトに接続する。今日の予報は昨夜から一転、朝から小雨が降る予報に変わっていた。

 この結果を知ったマールはすぐにファルアに電話をかける。彼女に今日の判断をしてもらうためだ。


「もしもし……天気予報は小雨の予報だけど、どうするの?」


「朝に雨さえ降っていなければ大会は開催されると思う。一応は集まって。会場にはみんなで行こう」


 そう、予報は傘マークでも実際にはまだ雨は降っていない。予報の範囲は結構広くて、場所によっては傘マークが出ていても雨が降らない事だってあった。

 ファルアが行くと判断したので、マールもそれに従って出かける準備を始める。日曜に朝早く行動している事にマールのお母さんはびっくりしていたけど、朝ごはん自体はいつもの時間に出来上がっていたので、彼女は待ち合わせの時間に遅れる事なく家を出る事が出来た。


 待ち合わせの場所にマールが向かうと、既に2人は合流していた。みんなの姿を確認してマールは元気良く手を振りながら声をかける。


「おーい!」


 彼女の声に気付いたファルアがマールに声をかける。


「おはよう、マール。今日はこんな空模様だけど、きっと大丈夫だって思ってるよ」


 これで待ち合わせの駅前に3人が揃った。みんなを前にして、今回のリーダーのファルアは動き出す前に全員に持ち物の確認を促した。


「ここでチケット忘れたとかお約束なポカはしてないでしょうね?」


「あっ!」

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