魔法スポーツ観戦
第25話 魔法スポーツ観戦 その1
「じゃあさ、今度は私の番だね!」
休み時間に3人で他愛もない話をしていて、ネタが尽きた次の瞬間に突然ファルアがそう切り出した。
前触れもなく話し始めたこの流れに戸惑ったマールは思わず聞き返す。
「何が?」
すると彼女は少し不満気な顔をしながら言葉を続けた。
「ゆんばかり株を上げちゃってずるいよ。だから次は私の番」
私の番と言う言葉に勘の鈍いマールもピンと来るものがあったので、すぐにその自分の推測が正しいのか彼女に確認の言葉を告げる。
「あ、何かスポーツ系のイベントがあるとか?」
「おお、マール君賢い!」
ファルアは自分の言いたい事を読まれて嬉しそうに笑う。それは何か色々準備している顔だった。うまく乗せられた気がしたマールはしれっと無表情になる。
その流れで隣りにいたゆんもからかい半分に話に割り込んで来た。
「何?体育大会みたいなのとか?」
このゆんの言葉に質問されたファルアは何ひとつ勿体つけずに正直に真相を白状する。ここら辺の素直さは流石体育会系と言ったところだろうか。
「まーぶっちゃけ言うと陸上なんだけどさ」
そう、彼女はもうすぐ開催される陸上の大会の話をマール達にしていたんだ。ただ大会があるって言うだけでファルアがここまで改まって話すはずがない。
彼女は先日ゆんが自分達をアイドルライブに誘って来たのを何とか自分らしい方法でリベンジしようと思っていたらしい。2人の視線が自分に注目する中で、彼女はポケットに入れていた物をマール達にそっと手渡した。
「ほら、チケット」
それは陸上の大会の観戦チケットだった。ゆんがライブのチケットを出し渋ったようなそんな面倒臭い事をファルアはしない。気前良く2人にチケットを渡した彼女はとても満足気な顔をしていた。
チケットを手にしたゆんはそれをじっくり見ながら口を開く。
「ああ、これなんだ」
「何よその反応!好きな人にはスマガのライブ並みのプラチナチケットなんですけど!」
ファルアはそのゆんの反応に気を悪くする。どうやらこれは興味のある人には特別なチケットらしい。
けれどそれは逆に言うと興味のない人にはそれほど興奮する物でもないって事にもなるんだけど。この件で早速2人は言い合いになってしまう。
「スマガと地方スポーツの大会を一緒にしないでよ!規模が違うわ!」
「ただのスポーツ大会じゃないよ!決勝だよ!この島の代表が決まるんだよ!」
そう、この大会は地元の代表を決めるこの島では一番大きな大会だった。この島で優秀な成績を収めた者だけが本島で行われる本大会に出場出来る。
この島でスポーツに興味のある者にとってそれはとても大事な大会だった。そしてそこまで興味のないマールはファルアに対して何気なく一般的な意見を口にする。
「テレビで見ればいいじゃん。何もわざわざ……」
「マール君、君は分かってないなぁ、生で見るスポーツの素晴らしさを。はっきり言って感動するよ!」
マールのその意見をファルアは即座に否定した。彼女曰く生で見るスポーツ観戦は別格のものらしい。今まで一度もその経験のない彼女はファルアのこの言葉に少し半信半疑になっていた。
「そう言うもんなの?」
「そう言うものなの!」
彼女に強い言葉の圧で押し切られてマールは何も言えなくなってしまった。そんな会話の中で今度はゆんがファルアに声をかける。
「やっぱり一緒に行かなきゃダメ?」
大会観戦に余り乗り気でないのはゆんも同じだったようで――この彼女の反応にファルアは子供のような無邪気な瞳でその理由を尋ねるのだった。
「おやゆん君、この日に何か用事でも?」
「空いてはいるんだけど……したい事が……買い物とか……部屋の掃除とか……」
つまり、ゆんはその日を自分の為に使いたいと、そう言う事だった。彼女の理由を聞いてファルアは少しキレ気味に声を上げる。それは2人がちょっと引いてしまうくらいの勢いだった。
「だーっ!みんな分かってない!分かってないよ!どれだけスポーツが素晴らしいかを!」
「いや、それは……」
マールはこのファルアの言葉に反論しようとするものの、うまく言葉が出て来なかった。彼女は更にスポーツの素晴らしさを力説する。
「一遍生で見てみてよ!間違いないんだから。肉体の躍動感!そしてサポート魔法の素晴らしさ!生を実感出来るんだから!」
「生、ねぇ……」
生と言う言葉にゆんが反応する。生と言えば音楽用語でライブって事だし、そこで音楽とスポーツの共通点みたいなものを彼女は感じていた。
話が一旦落ち着いたとところで改めてファルアは2人に言葉をかける。
「チケット、なくさないでね。何なら当日まで持っていようか?」
「いや、もう貰っちゃったし……大丈夫、なくさないよ」
信用されていない雰囲気を感じつつ、マールはそう言ってもらったチケットを鞄にしまい込んだ。それから少し不安になった彼女はファルアに質問する。
「そうだ、応援ってアイドルみたいにルールとかあるんだっけ?」
「そんなのないよ、好きに応援したんでいいから」
マールの質問にファルアはニコニコ笑顔でそう答える。自分の行為が認められて満足したんだろう。そこで次はゆんが彼女に声をかける。
「ここまで勧めるんだからきっと楽しいんだよね?」
「感じ方に個人差はあると思うけどさ、絶対後悔はさせない自信はあるね!」
この質問にもドヤ顔で応えるファルア。よっぽどスポーツ観戦で2人を感動させたいらしい。この勢いに感化されてゆんは彼女に声をかける。
「そこまで言うなら、その話乗った!」
「うん、楽しもうね!」
ゆんの言葉を受けてマールもそれに同調する。そう言う訳で3人は仲良く今度の陸上の大会を観戦しに行く事が決定した。
「ふーん、今度はスポーツ観戦なんだ」
「だよー。みんな積極的だよねえ」
放課後、家に帰ってきたマールは僕との雑談の中で今日起こった出来事を話していた。彼女の話を聞いた僕はアドバイスのつもりでこう話した。
「引きこもりのマールにはいい経験になるんじゃない?」
「引きこもり言うな!私はインドア派なんですー」
どうやらマールは自分の事を客観視出来ていないらしい。第三者から見た彼女は普通に引きこもりなんだけど。
まず休日外に出ない。寝てばかりいる。かと思えばテレビやらゲームやら漫画やら――外の世界の楽しみに全く興味がない。希望に満ち溢れているはずの女の子がそれじゃあ僕はこの先が思いやられてしまうよ。
でも自分ではインドア派と思っているみたいだから今はまあその扱いでいいか。その内、何かのきっかけで変わるかも知れないし。
そんな訳で僕は彼女にそのイベントについての意気込みを聞いてみる。
「競技場に行くのも初めてなんでしょ?楽しめそう?」
「ま、今回はファルアが何度も行ってるらしいから。楽しみ方とか聞いてみるよ」
そう、アイドルライブの時はみんながライブ初体験だったけど、今回のスポーツ観戦においてはファルアは頼れる経験者として頼もしい存在なのだ。
未知の体験を前に経験者がいるのがどれだけ有り難い事か……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます