第24話 アイドルライブ! その4

「そうなんだ、応援してるね!」


 ゆんがアイドルオーディションを受けていると知ったファルアは屈託のない笑顔を向けて彼女を応援した。いつも衝突しがちな相手からの素直な応援にゆんは少し戸惑いながらその言葉を受け入れて照れくさそうに返事を返す。


「あ、有難う」


 それからは話がスマガのライブからアイドル全体の話へと変わっていく。まずはアイドルに偏見のようなものを持っていたマールから話し始めた。


「アイドルって小学生アイドルとかもいるからさ、ちょっと馬鹿にしていたよ」


 この言葉にすぐにゆんが噛み付く。アイドルを目指す者として当然の反応だろう。


「トップアイドルとそう言うのを一緒にしないでよ」


「うん、それが今日分かった。あれは一朝一夕で出来るものじゃないね」


 一口にアイドルと言ってもその中にはクオリティの高いのからそうでないのまでいる事。レベルの高いアイドルはトップアーティストと遜色がない事。

 それだけにアイドルの世界は奥が深い事などゆんの口から淀みなく語られていく。


「……それに魔法アイドルは歌唱力とダンスと魔法の高い技術が渾然一体となった総合芸術なの!」


 あんまり得意気に話すものだから、ついマールは出来心で彼女に質問していた。


「ゆんはそこに近付けてる?」


「が、頑張ってるよ!」


 さっきもファルアに似たような質問をされて口ごもってしまったゆんだったけど、やはりトップレベルのアイドルと今の自分の実力を比べたら、どれだけ努力しても超えられない壁を自覚せざるを得ない感じになっていた。

 この雰囲気のまま話を進めたらドツボにはまってしまいかねないと感じた彼女はその後にまたひたすらアイドルの素晴らしさを2人に語り続けるのだった。


「だからさ……」


 話の流れの最後にゆんが何か言いかけた時だった。ちょうどマールの家との別れ道に差し掛かったのでここで彼女とは別れる事になった。マールはゆんに向かって満面の笑みを浮かべると、今日のライブのお礼を言った。


「今日はすっごく楽しかった。ゆん、チケット有難うね!」


 そうしてマールは自分に家へと帰っていく。帰宅するマールの後ろ姿をを見つめながら、ゆんはさっき言いかけた言葉を飲み込むのだった。


「ま、いっか」


 そんなゆんを眺めていたファルアは、ニヤニヤと笑いながらからかうように言う。


「勧誘失敗したね~」


「ば、何言ってるのよ、今日はアイドルの素晴らしさをマールに知ってもらえただけで、一歩前進だよ!」


「そうかなー?私にはあのレベルは無理ーって拒否反応起こすかもよ?」


 このファルアの皮肉を込めたツッコミにゆんは言葉が詰まってしまう。


「くっ……」


 言い返せなくて少し悔しそうな顔をしている彼女を見ながらファルアは言葉を続ける。


「もっとお手軽なアイドルのライブに誘って自分にも出来そうって思わせた方が良かったんじゃないの?」


「そんなの、私が許せないよ!アイドルを知ってもらうなら最高のものを見てもらわないと!」


 そう、ゆんとしてはアイドルの最高峰を見せる事でマールが抱くアイドルイメージの向上を狙ったのだ。それが同じ道を目指す彼女のイメージ向上にも繋がると、そう言う作戦だった。ゆんの力説を聞いたファルアはニコっと笑って相槌を打った。


「そっか、じゃあ今日は大成功だったと」


「そうだよ、成功だよ!」


 話を無理やりいい方向に持って行ったところで、この2人にも別れる時がやって来た。いつもはお互いの将来の方向性の違いでからかい合う仲ではあるけど、今日はライブに連れて行ってくれたお礼も兼ねてファルアは彼女にエールを送って別れるのだった。


「じゃあゆん、オーディション頑張ってね。努力が報われますように!」


「ファルアもね!」


 その頃、家に帰って自分の部屋に戻ったマールは早速僕の猛烈な質問攻めを受けていた。


「スマガ、どうだった?」


「そりゃもうすごかったよ!アイドルのライブって初めて見たけど感動しちゃった」


 いつもは僕がテンション高いとマールはすぐにうざがって相手をしてくれないんだけど、今回はマール自身もライブの興奮がまだ残っていたので同じテンションで僕の話に付き合ってくれた。こんな彼女は本当に珍しいんだ。きっとそれだけライブが素晴らしかったって事なんだろうな。

 本当、誘ってくれたゆんにも大感謝だよ。


「僕が虜になるのも分かるだろ?」


「うん、分かった。私、アイドルを誤解していたよ」


「で、ゆんからのしつこい勧誘がまたあったんじゃない?」


 僕だってゆんがしつこくマールをアイドルの道に誘おうとしているのは知っている。今回のライブだって勧誘が目的なのは誰の目から見ても明らかだった。だからそう言う話があったんだろうと思ったんだけど、マールから返って来た言葉はその予想を外したものだった。


「ん?それはなかったよ」


「え、意外……」


 僕はその言葉に本音がついポロッと漏れてしまった。その反応を見たマールはゆんの心情を彼女なりに解釈して言葉を続ける。


「本心じゃ誘いたかったんだろうけどね、でも……」


「でも?」


「あのライブを見て私にはアイドルは無理だなって分かったよ。出来ないもん、あんなパフォーマンス」


 あらら、ゆんの作戦は結果的に逆効果になったみたいだ。このマールの言葉を聞いて僕はゆんにちょっと同情したよ。折角プラチナチケットを使って最高の体験をさせてあげたのに、そのせいで夢から遠ざかってしまっただなんて。

 でもそれがマールの性格なんだよね。僕は彼女の話を聞きながら苦笑いをするばかりだった。

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