マール勧誘計画

アイドルライブ!

第21話 アイドルライブ! その1

「ライブ行こうよ!」


「え?何突然!」


 昼休み、マールがいつものようにぼうっとくつろいでいるとゆんが突然話しかけて来た。そのあまりの唐突っぷりにマールはただ事態が飲み込めずに鳩が豆鉄砲食らった顔をしている。

 ゆんはそんな彼女にお構いなしに話を続けた。


「チケットが取れたんだよ!」


 ゆんがここまで熱心にすすめるライブ……。マールはすぐにピンと来て面倒臭そうに返事を返す。


「どーせアイドルのライブなんでしょ?私あんま興味ないんだ」


「滅多に取れないライブなんだよ!」


 マールのその反応を聞いてもゆんは一歩も引く事なく話を進める。どうやらよっぽどすごいチケットが手に入ったんだろう。そんな2人の会話に強引に入り込んできたもうひとつの影があった。


「3人分確保出来たの?」


 そう、その声はファルアだった。いつもは音楽関係の話題にはあんまり乗って来ない彼女だったけど、今回のゆんの熱心ぶりに興味を持ったみたいだった。

 そのファルアの反応にマールもちょっと驚いて彼女に声をかけた。


「ファルアも興味あったんだ?」


「ない事はないよー。アイドル次第だけど」


 ファルアはマールの質問に悪びれもせずに答える。この話しぶりから言ってマールより彼女の方がアイドルに詳しいのかも知れない。このファルアの反応に驚いたのはマールだけじゃなかったみたいで、ゆんも驚いた顔をして彼女に話しかけた。


「ファルアは男性アイドルに興味あるのかと思ってたよ」


「そりゃ出来れば男性アイドルが見たいけど、ゆんの場合は女性アイドルなんでしょどうせ」


 流石お互い幼馴染なだけあってゆんがファルアの好みを把握していたように、ファルアもゆんの思考を読んでいた。そんな2人のやり取りを眺めながらマールは微笑ましいものを感じていた。それからファルアに本心を見抜かれたゆんは開き直って喋り始める。


「と、当然じゃない!今後のアイドル活動の参考になるからライブを見るんだし!男性アイドルを見ても参考にはならないよ!」


 この会話の流れが面白かったのでマールもノリでこの会話に参戦する。


「私も男性アイドルなら興味あるんだけどなー」


 けれどこの企みはすぐにゆんに見抜かれてしまう。


「嘘ばっかり。マールはアイドルそのものにそんなに興味ないくせに」


「うーん、確かにアイドルよりはアーティストが好きかもねー。アイドルって愛嬌を振りまいてるイメージがあるし」


 冗談が通じなかったマールは仕方なく自分の中のアイドル感をゆんに吐露した。喋った後ですぐにこんな事を言ったら彼女の心を傷つけちゃうかなと後悔したけど、当のゆんはこの言葉に全く動じる事なく、自分のしたい事を全力で推し進めていた。


「だから、このライブを見て欲しいのよ!アイドルのイメージ絶対変わるから!」


「で?3枚チケット用意出来たんでしょーね?」


 どうしてもそのライブを見て貰いたいゆんに対して改めてチケットの枚数を追求するファルア。彼女のライブに参加したい気持ちは本物のようだ。

 この猛烈プッシュにゆんがちょっと不機嫌な顔をして答えた。


「なんであんたも誘う流れにしようとしてるのよ」


「嘘?私達友達じゃないの!仲間外れにするつもり?」


 ゆんがチケットを取れているのかそうでないのかはっきりさせないので今度は泣き落とし作戦に出る。大体、本当にチケットを取れていないならすぐにそれを言うはずで、そうしないのはチケットを取れているに違いないとファルアは確信していたんだ。

 彼女の泣き落とし作戦が功をなしたのか、ゆんはハァとひとつため息を付いて言葉を漏らす。


「チケット、取れたの奇跡なんだからね!」


 ゆんは3人分のチケットが取れた事を上手く話すタイミングを逃してしまっただけらしい。この言い方でファルアは自分の分のチケットもあるとはっきりと確信した。その流れでマールだけがどこか面白くない顔をしている。


「私、まだ行くって言ってない」


 そう、マールがライブに行く事がまるで確定事項のように捉えられているのが不服だったんだ。自分の意見も聞かずに話が進むって言うのはあんまり面白くないよね。そんな乗り気じゃないマールを見てゆんは必死でライブの楽しさを訴えた。


「行こうよ!ライブだよ!絶対楽しいって!」


「ライブって行った事ないんだけど……」


 マールが乗り気じゃない理由は勝手に話が進んでいくのもあったけど、今までライブそのものに参加した事がないと言う部分も大きかった。まだ13歳だもん、そりゃ当然だよね。この件に関してはすぐにゆんとファルアからの反応があった。


「私もないよ」


「私だってないよ」


 つまり、友達3人共全員ライブ未経験者だった。この発言の後、みんな一緒だと分かって全員で顔を見合わせて笑いあった。ひとしきり笑い終わった後、シーンと場が静かになってぽつりとマールはこぼす。


「楽しめるかなぁ……」


 この言葉にゆんは絶対楽しめるって、と判で押したような反応をしていた。最初から興味ある人ならそうなんだろうなとマールはぼうっと考えていた。

 そもそもアイドルに興味のないマールはそのライブにさほどの価値も見出してはない訳で。このやり取りの中で何かに気付いたファルアはゆんに質問する。


「ところでさあ」


「?」


 このファルアの問いかけにゆんは素の表情になって彼女の顔を見た。ファルアはそのまま言葉を続ける。


「ライブって誰のライブ?」


「ふふん、聞いて驚きな!」


 この質問に対し、ゆんは待ってましたと言葉を溜める。その勿体つけぶりにファルアは思わずゴクリとつばを飲み込んだ。しっかり溜めを作ったゆんがおもむろに口を開いた時、そこから出た言葉は2人を驚かせるのに十分なものだった。


「今をときめく新進気鋭のニューカマーアイドル!スーパーマジカルガールズよ!」


 スーパーマジカルガールズ、略してスマガ。それはフォーリン諸島で活躍する魔法アイドルの中でもトップクラスのメジャーアイドルだった。タイアップ曲多数、冠番組も持っていて、メンバーは歌以外にも女優や番組司会などで活躍中の誰もが知る国民的アイドルだった。

 それはアイドル情報に疎いマールでさえも知っているほどの有名アイドルなのだ。


「え……知ってる。あの娘達ってアイドルだっけ?」


「かなりアーティストよりだよね。でも本当によくチケット取れたね」


 マールもファルアもゆんがそんな有名アイドルのライブチケットが取れた事に驚いていた。スマガと言えばいつもライブチケットが瞬殺で相当運が強くないとゲット出来ないと巷でも話題になるくらいのシロモノだったからね。そんなレアなチケットが1枚どころか3枚も手に入るだなんて普通に考えるとありえないレベル。そんな2人からの賞賛の眼差しを受けて、嘘のつけないゆんは正直にそのからくりを2人に話した。


「実は親のコネなんだ」


 そのゆんの言葉を聞いて真実の分かったファルアは豪快に笑いながら言った。


「なーんだ!ゆんがそんなメジャーアイドルのチケット取れるなんて何か裏があると思ってたよ」


 ライブの詳細が分かって、興味の出て来たマールがゆんに質問する。

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