リフレイン

久山 渡

リフレイン

 エス博士は病原菌の研究の権威なのでよく未知の病原菌の調査の依頼が来る。

ある日エス博士のところに青年が訪ねてきた。

その青年はエス博士に新種の病原菌の調査の依頼を持ってきたのだった。

青年は慣れた様子で挨拶をしながら話し始めた。

「エス博士、最近変わったウイルスが流行っているんです」

「ほう、それはどんなウイルスなのかね」

エス博士はいかにも興味がそそられたといった顔をしていた。

「感染するとある事柄について全て忘れてしまうという特徴があります」

「うーん、要領を得ないな。つまりどういうことかね?」

「そうですね、例えばテレビを忘れた患者はテレビを見て何かわからず恐ろしくなり壊してしまったといった事例や恋人のことを忘れてしまって痴漢と勘違いしたとかひどいものだと歩き方を忘れてしまい歩けなくなってしまったといった事例もあります」

青年の口調は非常になめらかで、まるでエス博士が何を聞きたいかを分かっているようだった。

「ふむ、それはすごいな。ぜひ研究したい。さっそく始めよう」

エス博士はすぐに研究を始めた。

エス博士の研究は順調に進み、そこでさらに二つの特徴が分かった。

一つ目はウイルスによって忘れたものはもう一度憶えたとしても再感染したら確実に忘れてしまうこと。

二つ目は感染した人間は忘れたことに気付かないこと。

エス博士の研究は元感染者の協力のおかげでドンドン進んでいった。

もう少しでウイルスの全容が解明できそうという知らせを受けて青年がエス博士の研究室に行くとエス博士がせっかく作った研究資料を燃やしていた。

そこで青年があわてて止めに入った。

「なぜこんなことをするのですか。この資料を作るのにあんなにも苦労されたじゃないですか」

するとエス博士はきょとんとした顔をして不思議そうに言った。

「何を言っているんだ、ごみを燃やしているだけだろう。こんないつ研究したかも憶えていないようなウイルスの資料なんてどうでもいいじゃないか」

それを聞き青年は肩を落として帰って行った。



 次の日、エス博士のもとに青年が訪ねて「エス博士、最近変わったウイルスが流行っているんです」と慣れた口調で話し始めた。

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リフレイン 久山 渡 @Wataru-Hisayama

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