消えた影

華はドクターたちの足音で目が覚めた。

華はベッドに眠っていた。

「はじめ」

そう言って華は起き上がった。

ベッドから降りようとしたとき「点滴」が刺さっていることに気が付いた。

華の声に看護婦が気が付いて華に声をかけた。

「大高さん?気が付きましたか?」

「一、大高一は?」華は興奮していた。

「まだ。。。意識は戻っていません。それよりも奥さん軽い貧血を起こしたみたいです。」

「点滴を取って」

「え」

「早く一のところに行きたいの」

「だめですよ。先生の許可がないと」

「なら、先生を呼んできて」

「おねがい、、、お願いします。。。。」

「わかりました」

そういうと看護婦は医師を連れてきた。

女性のドクターだった。

「大高さん。大丈夫ですか?」

「先生、一に、早く一に会いたいんです。。」

医師は華を落ち着かせた。

「大高さん、あなたの体はもう「貴女一人」のものではないんです」

「え」

「お腹に赤ちゃんがいるんですよ」

「あ。赤ちゃん。。」

「旦那さんも心配でしょうが、今は無理をしないことが一番大切なんです」

華の体から力が抜けた。

「は、、はじめの、、、子供が。。。」

「旦那さんの事は、担当の医師が全力を尽くします。旦那さんも頑張っているんですよ。産まれてくる子供のために」

医師がそういうと華は横になった。


それから一日ほど華はベッドに寝ていた。

医師は退院の許可を出し、華は一の看病にあたった。

一の両親には「別れたことは伝えていない」

そして、華は「嘘」をついた。

「実は私、、一さんと来年結婚するつもりでした。」

「え」

「お腹には、、一さんのあかちゃんがいます。」

そういって華はお腹を愛おしくさすってみせた。

「そうか。そうか。」父親は涙を必死に我慢したが、瞳からは涙が流れていた。

「私たちの初孫よ。一もここで死んだら本当の親不孝よ」


それから三日ほど一は意識がなかった。

しかし、「生きていた」

そして意識を取り戻した。

「はじめ。、」皆が叫んだ。

「は、はな。。。」

「はい、」華は一の口元に耳をよせた。

「す、、すきだ」それは途切れそうな、か細い声だった。

「わたしも、はじめのことが大好きだよ。だから死なないで」

「し、しなないよ」

そう一は言った、口元が少し緩んだようだった。

そしてまた意識が遠くなる。


その20分後担当医が駆け付けた、急に血圧が低下したからだ。

「なにかのアラーム」が鳴り続けている。

「はじめ。」華は何度も叫んだ。


波が音を立てて引いていくように、血圧は低下していく。

「恋しい人の影」がだんだんと薄くなっていく。

やがて「ピー」という音だけが流れていた。

医師が「午前4時26分、ご臨終です」と時計を確認してそう告げた。

「はじめ」

皆の声は一には届かなかった。


悲しみが波のように寄せてくる。

涙が止まらなかった。

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傍ら(かたわら) 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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