贖罪
その男は、神の子であると両親から言われて育ち、30歳になった時に神の啓示を得た。
『お前にはこれから、苦難が降りかかるだろう。しかし、それは人類の罪を償う代償なのだ。信者を増やし、より良い世の中を目指せ。』
それを聞いて男は新たな宗教を作った。いつの時代でも新興宗教というものが素直に受け入れられるはずもなかったが、男は地道に活動をし、神の教えを説くことでわずかに信者を増やしていった。
だが、それを快く思わない勢力がいた。
「小銭稼ぎのために、宗教活動をする分にはまだ見逃してやったが、奴は神の子を名乗って、他の宗教は嘘っぱちだと言いやがる。」
「危険分子の芽は早い内に摘んでおいた方がいいな。」
既存の対立する宗教組織に、男は誘拐され誰にも見られない山中で殺されてしまった。
しかしその3日後男は、ピンピンした状態で不況活動をしていた。
肝を冷やしたのは、暗殺した宗教組織である。なぜ奴が生きているんだと。なにより、自分たちが殺したのがばれてしまう。もうなりふりは構っていられない。男は屋外での説法中に狙撃され絶命した。
しかし、またもや3日後には男は生き返っていた。今度は人の目があったため、その復活は大々的に広まることとなった。奇跡の聖人であるとの噂が広まり、多くの人が彼の教えに耳を傾けた。だが、それに焦った他の宗教団体に男は殺されてしまう。
そうして男は殺され続けた。ある時は、信者を装った男にナイフでさされ、ある時は食事に毒をまぜられ、ある時は乗っていた車を爆破された。
それでもやはり3日後には生き返るのだ。もはやその噂は世界に広まり、信者の数は日増しに膨れ上がっていった。
そんな日が続く中、男は他の幹部と二人っきりで食事をしていた。最近は外に出ると何らかの理由で殺されてしまうための処置だった。
「教祖様、不自由な生活を強いてしまい。すみません。」
「これぐらいのことなんて気にしてはいないさ。私には人類を救うという使命があるからね。」
それを聞いて感激した幹部は水を取ってきますと席を立ったが、そのまま男の方に近寄って彼の首を絞めた。
何が何だか分からない。男は必死に抵抗する。幹部は
「すみません。自分でもなんでか分からないんですけど、体が勝手に。」
と釈明するが、その手に込められた力はどんどん強くなっていった。
男は朦朧とした意識の中で考える。過去に出現したとされる神の子は、一度の死で人類の罪を償うことができた。しかし、あれから時が経ち人類の数はおよそ70億人。数々の生物を滅亡させ、自然環境を破壊している。
これを償うには後何回死ねばいいんだろうか。そう思いながら男は窒息死した。
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