クレーマー

とある客が買ったばかりの商品を店員に突き付けて文句を言った。

「おいこのレタス、ここにキズがついてるじゃないか。返金してくれ。」

「申し訳御座いません。お客様、何処にキズがあるか教えていただけないでしょうか。」

「ここだよここ。ほら、ここにキズがついてある。あんたは、こんなの出されたら食べるのか。」

「私は気がつかないんで食べますね。」

「はあ?店員ならちゃんと気づけよ。」

「いえお客様。私こう見えてもスーパーの仕事は長年やっておりまして、商品を見る目は自信があります。しかし、そんな私が見逃してしまうようなキズに気づく、お客様が大変優れているのではないでしょうか。」

「あんた、俺のこと舐めてるのか?」

「舐めてるのではございません。褒めているのです。いや、敬っていると表現した方が正しいでしょう。お客様の審美眼は大変素晴らしい。それに加えて、わざわざ私にご指導なさるために、私に声をかけてくださいました。この行動に、お客様生来の徳が溢れ出ておりますね。」

「やっぱり、俺に喧嘩売ってるだろ。」

「喧嘩など売っておりません。ただ商品を売っております。しかし、その商品にキズがついていた。これは私共にとって存在意義を考え直さないとならないほど大変な事態でございます。ただ、神は私共を見放さなかった。貴方という救世主を遣わしたのだから。」

店員は口八丁に客を褒めたおす。やがてお客は返品することすら忘れて帰ってしまった。


そのやり取りを見ていた店長が店員に言った。

「君のクレーム捌きには感心するけど、後で冷静になった時に接客の対応について本社のほうにクレームを出されるかもしれないよ。」

「まあ、そうでしょうね。さっきのお客様は何につけても、ネチネチ文句をつけてくるタイプでしょうから。」

「そうでしょうねって。それでも君はあんな対応をするのかね。」

「しかし、店長。店に迷惑をかける奴がここに来なくなれば、それが結果として店の利益に繋がるのではないでしょうか。」

「君。確かにそうかもしれないが、その言い方はお客様に対して、流石に失礼じゃないかな。」

「いえ、お客様のことではございません。私ここで4軒目でございますから。」

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