不自由なコック

船上レストランに、緑色の奇抜な服装をした少年が入ってきた。

その少年は虚空に向かってぶつぶつと喋る。

「おい、本当にあいつはここにいるのか。」

他の客はその問いかけに誰も反応を示さなかったが、やがて少年は満足して頷き、つかつかと客席の間を通り抜け、厨房に押し入る。


厨房では忙しそうにコック達の包丁の音が響いている。

トントントントントン

トントントントントン

トン トン トン

その中に一人だけ包丁さばきのリズムが遅いコックがいた。


少年は彼に近づき、左の袖を捲って言った。

「お前はコックじゃなくてフックだろ。」

ぎょっとするコックの左腕には鉤爪がついていた。


「おいティンカーベル。フックの奴はここにいたぞ。」

少年は相変わらず虚空に向かって呼びかけ、逃げ出そうとするコックの首根っこを掴む。

 少年に拘束されたコックは、引きつった声で叫ぶ。

「俺もお前もそろそろ前に進むべきなんだ。放っておいてくれ、俺はあんな所には戻りたくない。ただ、まっとうに働いて死にたいんだ。」

「お前には、俺たちの遊び相手という仕事があるじゃないか。」

少年は彼を甲板まで引きずり、海へ放り投げる。 

「おい、ワニ公そいつをもとの場所へ連れて帰ってくれ。」

チクタクと腹の中で音がするワニが哀れなコックを飲み込む。


 フック船長は元の世界に戻される。永遠に時間が進まない理想の世界ネバーランドへ。

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