火星人

「今年のノーベル賞授与式は人類にとても大きな意味を持つものとなるでしょう。」

司会の男が言った。

「まずはノーベル化学賞、対火星人用の防衛機構の開発をした、M教授です。」

盛大な拍手につつまれ、M教授は壇上に進む。

「火星からの脅威が知られてから1年が過ぎました。しかし、ご安心を我々人類の科学技術は奴らから人類を守って見せます。」


「続いてはノーベル平和賞。火星人による侵略を訴え、多くの紛争問題を解決したA外交官です。」

「今は人類で争っている場合ではありません。世界一丸となって火星からの脅威に備えましょう。」

A氏の熱意ある弁舌に、多くのフラッシュがたかれる。


「さあ次は皆さんお待ちかねのあの人。彼は火星人の脅威を私達に教えてくれました。ノーベル文学賞、『火星人』を書いたR氏です。」

壇上に立ったR氏は他の授与者とは違って険しい表情をしていた。

「私はちょうど一年前に趣味で『火星人』という本を書いた。しかし、あの作品自体は三流フィクションだ。そんなことは子供でも読めば分かる。頼むから大衆よ目を覚ましてくれ、我々の本当の脅威はあの薬を作っ...」

演説の、背後から注射をされR氏はパタリと倒れた。会場にざわめきが広がる。

しかし、司会者は落ち着き払って説明をする。

「皆さん。嘆かわしいことに、R氏は火星人達が送り込んだウィルス、火星病に感染していたようです。火星人をいないものと錯覚させるこの恐怖の病は、人々を疑心暗鬼にさせ、多くの犠牲が出ました。」


「ですがご安心を。我らが救世主、今年のノーベル医学賞、火星病の特効薬を発明したS博士です。」

名前を呼ばれ、壇上に立った青い肌の男はにこやかに微笑んだ。

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