呼吸

 男は重度の閉所恐怖症だった。閉じこもった空間にいると呼吸ができなくなるのだ。その症状は、幼少期にトイレから出てこないことを心配した母親が気絶した息子を見つけたことで判明した。

 両親は家を改築した。壁を全て取り払い、息子がどこにいても目につくようした。しかし、少年はだんだんと家の中でも息苦しいと感じるようになってきた。

 やがて一家は田舎に移り住んだ。地方の澄み渡った空気に少年は満足していた。しかしある日、両親が買ってきた地球儀を見てから、自らが地球という星の中に閉じ込められていると知ると、日に日に息苦しさが増していった。

 このままでは、やがて窒息死してしまう。男は文字通り死ぬ気で勉強し、やがて宇宙飛行士になった。そして今、宇宙空間にいる。

 ああなんて素晴らしい場所なんだろう、心が満たされる。だが、なんだこの息苦しさは。

 男はすぐに違和感の原因を見つけ、満足そうに宇宙服を脱いだ。

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