収益化

動画サイトやSNS、個人の創作活動を無料で始められる時代から、今度はそれを支援しようというシステムが浸透してきた。そうこのサイトにも。



 俺は2年前からコツコツと小説を書いていた。最初は誰にも見向きされなかったが、段々と書いてるうちに面白いと言ってくれる人が増えていった。自分で言うのもなんなんだが、今では上位はないにしても中堅ぐらいの安定感はあると思っている。

 そんな矢先だった。のプログラムが発表されたのは。もちろん物書きとしての一番の目標は書籍化だったのだが、広告収入という形でも、自分の作品がお金になるということが嬉しかった。

  

 3か月後、俺の預金口座には数千円が入金されていた。これが多いのか少ないのかいまいちよく分からなかったが、収入にしてはそこそこのモノだと思う。なによりコメントでも

『いつも楽しく読ませてもらってます。広告押しておきました。』

『応援してます。書籍化したら絶対買いますが、今は広告で我慢。』

というような応援で溢れていて今までの努力が報われた気がしていた。


 それからが、半年経った。俺は振り込まれた後の預金通帳を確認していた。残高は前と比べて、桁が2つ増えていた。

 「もっと、広告を載せてくれませんか?」

 そう俺はサイト運営に問い合わせたのだ。

 そのせいで、スパムのような広告が付くようになった。コメントでも

『最近、読みにくいです。』

『登場人物まで金、金言うようになってませんか。』

というようなクレームが増えていき、PV数も多少減ったが、それ以上に広告収入は増えた。

 そもそも、こっちは3年近くかけて書いてるんだ。それを無料で見ようなんておこがましい。俺はそう考えるようになっていた。

 そして、ついに俺の作品はついに書籍化されることになった。書籍化されれば、離れていった読者より、もっと多くの新規が読みに来てくれるだろうし、印税も入る。俺は来月の預金通帳のことしか頭になかった。


 発売日当日、起床後すぐに作品のコメント欄を確認した。しかし、そこに俺の期待していた反応はなかった。

『読者をバカにしてるのか。』

『あきれました。もうあなたの作品は読みません。』

 もちろん、俺自身もある程度の反発があることは予想していた。しかし、どういうことだ。ほとんどのコメントが批判的なモノばかりだった。

 俺は急いで、近所で一番近い本屋に駆け寄った。店内を見渡すと、おそらく開店当初から高さが変わっていない、積まれたままの自分の作品が目に入った。その瞬間俺は全てを理解し、漏れるようなうめき声をあげた。

 

 そのライトノベルの新刊は表紙を含めた全ての挿絵が、全く関係のない商品の宣伝広告に挿し変わっていたのだった。

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