違いの分かる男
喫茶店で待ち合わせをする間、暇潰しに雑誌の間違い探しコーナーを見る。
「犬の耳の形、リードを持っている手が逆。看板の数字、背景の太陽の大きさ。靴紐の結び方。手前の草の数。」
先ほど注文した珈琲が届き終わる前に、ささっと6つの間違いを見つけ出す。
間違い探しのコツは、先入観を捨てることだ。二つのイラストを似ているとか同じだと思ってしまうことが誤りの元である。一度そう考えてしまうと共通点ばかりに目がいってしまうからだ。
元々2枚のイラストは別々のものと考えれば、自ずと答えは見えてくる。
「こちら、ブレンド珈琲でございます。」
マスターが珈琲を持ってくる。この店には普段から通っており、特にこのブレンド珈琲が私のお気に入りである。
スッと、目の前に置かれた珈琲の匂いを嗅いで、おや?と思う。
そして、その疑問は一口飲むだけで確信へと変わる。
「マスター、もしかして豆の配合変えた?」
それを聞くとマスターはニヤッとして
「流石でございます、お客さま。お客さまの好みに合うようにと思いまして、ブレンドを少々。」
「前よりも私の好みだよ。」
実際は前の方がスッキリとしていて好きだったのだが、時には本音と建前を使い分けるのも人付き合いのコツだ。
いらっしゃいませー。一名様でよろしいでしょうか。
いえ、待ち合わせしてるので
入り口の方から彼女と店員のやり取りが聞こえたので、見えるように手招きをする。
「お待たせ。待った?」
「いや全然。今来たばっかりだから。」
目の前に珈琲を置いておきながら我ながら白々しい返しだとは思う。
しかし、その程度の小さな違和感には興味がないようで、向かいの席に着くなり彼女は
「どう?」
控え目な彼女としては珍しく、全身を強調するようにぐいっと此方に体を見せつけるように聞いてきた。
「ん?いつもと同じで可愛いよ。」
「んー。」
私の答えが求めていたものではなかったらしく、少し不服そうな様子だ。
「そうじゃなくて、なんかいつもと違うところとか、気づいた事とかない?」
(いつもと違うところ?なんだ、考えろ。髪型は同じような気が…する。装飾品も普段と同じであまり目立つようなものはつけていない気が…する。体型元々こんな感じだったような…。駄目だ全く分からない。というか、今まではそんな質問してこなかったから完全に油断していた。ということは、そんな自信があるレベルの違いなのか。考えろ、考えるんだ。)
混乱する思考の中で、天恵のように己の格言が頭に思い浮かぶ。
《間違い探しのコツは先入観を捨てること》
「も、もしかして、妹さん…。だったり双子の…」
それを聞いて彼女の表情がみるみるうちに変わっていく。
(まずい)
そう感じた私は
「というの冗だ」
咄嗟に 訂正しようとすると、
「すごーーーい!!良く分かりましたね。」
目の前の彼女はおおはしゃぎで喜び始めた。
「お姉ちゃん、店の前で待たしてるんで呼んできますねー。」
そう言ってからバタバタと出ていく妹?を見ながら、私は優雅に珈琲を啜る。
対人関係のコツは、分からないときは当てずっぽうでもいいから、なんでも
言ってみることだ。
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