産地偽装

「最近それ売れてますね。」

 スーパーの商品の品出し中、若い店員は店長が持っていたレタスを見てそう言った。地元産のレタスのパッケージには《生産者の顔》と書かれた横に、二枚目の男性がにこやかに手を振っている写真が載っていた。

「この写真に写ってる広瀬って奴が、見ての通りのイケメンで、女性に大人気らしい。」

「そういう店長の奥さんだって美人じゃないですか、最近子供も生まれたって言ってましたし。写真見て下さいよ。」


 事務所に戻ってから、店長は恥ずかしそうに、スマホで撮った娘の写真を見せる。

「可愛いっすね。目元なんて店長にそっくりじゃないっすか。」

「そうかなあ。」

と店長はぼやいた後、

「お前には娘はやらんからな。」

とじろりと店員を睨み付けて言った。

「どんだけ親バカなんです。こんな年齢差あったら俺が捕まっちゃいますよ。じゃあいいもんも見れたんで、お先に上がります。」

「おいおい、まだ働いていかないか。」

「あいにく、人と待ち合わせしてるもんで。」


「やっぱり、いつ見ても美人だ。」

「何かあったの?」

 一時間後、店員は店長の妻と一緒にレストランで食事をしていた。二人の目の前には国産牛のステーキが並んでいた。

「俺達の娘可愛くなってるじゃないか。目元なんか俺にそっくりで。」

「あら、あいつに見せてもらったの。」

妻は不敵に微笑む。

「店長もバカだよなあ。こんな可愛い嫁さんほったらかして残業三昧なんて。」

二人は不倫していたのだった。


 すると、妻の携帯が鳴った。店員は彼女の夫からの電話ではないかと動揺して、目くばせをする。

「安心して、あいつじゃないわよ。」

妻は不倫相手の滑稽な姿を横目に、化粧室に向かう。そして、浮ついた声で電話を取る。


「もしもし、広瀬さん?」

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