夜食

『~博士は、長時間の読書中は空腹を感じないという体験から、人間の知的欲求や想像力が体に与える影響を研究することで、それらをエネルギーに変えるを因子発見した。それにより人類は食事をするという文化は衰退し、代わりに読書やその他芸術活動で~』

眠い目を擦りながら『人類の歴史12』という本を読む、いまいち何を書いてるかは理解できないが、眠気覚ましには丁度よい。

 

「朝ごはん準備できてるわよー」

「はーい、今行くー。」


 『知は力なり』と言った哲学者は誰だっだけな、ベーカリーだか、ベーコンだか。昔は、野菜や動物を食べる(なんと比喩でもなんでもなく口に入れていたらしい。)文化があったらしいが、今や教養が人を豊かにする時代になったのは世間の常識だ。


 今日の朝はいつもと同じく「ショートショート」で済ませる。手軽な短さと、それなりの読後感が魅力だ。ただ、今日の作品はあんまり美味しくなかったかな。やっぱりタイトルがそのままオチになる作品はあまり好きではない。どうしても途中で終わりが見えてしまって少し物足りないからだ。


 今やこの国の人口の7割が小説家や芸術家、またはそれに携わっている。学校では、将来良い小説が書けるようにと、様々な教養を教えられる。

 4時限目、今受けている授業は理科だ。去年までいた先生は、推理小説のトリックを科学的に検証をするという形式で授業を進めてくれて面白かったのに、今年の先生は、文学にはリアリティが必要だと言って、宇宙の成り立ちや化学式を長々と説明している。それを聞きながら昼食までひと眠りする。

 

 学校から帰宅後、甘酸っぱい恋愛漫画を読んでいると、

「そんな間食してると。夜ご飯が食べれなくなるわよ」

と母に注意される。ラブコメとファッション雑誌は別腹だっての。

 

 夜は家族で一緒にSF映画を見る。数十年前の、近代未来をテーマにした映画だった。どうやらお父さんとお母さんの初デートで見た映画だったらしく、二人は昔の昔の思い出に花を咲かせていた。

 良い作品は後世に残る。それは作品という形に限らず、人と人との繋がりにも表れるのかもしれない。明日からは化学の授業も真面目に受けようかなと思った。


「おやすみー」

「おやすみ。いつもぎりぎりに起きるんだから明日は早起きしなさいよ。」

「はーい」

日頃のやり取りに空返事をしておく。お楽しみはこれからだ。


家族が寝静まった夜中に、こっそりとタブレットをつける。

今夜はどんな作品に出会えるだろう。

期待と食欲に胸を膨らませ、ネット小説の世界に足を踏み入れる。

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