第133話 偉大なる霊水 その7

 私は促されるままに渡されていた霊水用の竹筒水筒を番人に手渡す。霊水は背後の泉から湧き出ているようで、それを器用に大青竜は汲み取った。


「それにしてもそなたの勇気、中々であったぞ」


「えへへ……」


「これでいい、気をつけて帰るのじゃぞ」


 霊水の番人から満タンになった天然の水筒を手渡され、私はそれを大事に両手で受け取る。これで正式に霊水をゲット出来たと言う事で、私は満面の笑みを浮かべ、ペコリと頭を下げた。


「有難うございました」


「気をつけてな!」


 こうして無事にミッションもクリアした言う事で、私達は天狗城に戻る事に。青竜親子に見送られながら霧の深い切り立った山々を後にする。2人で並んで飛びながら、今回は特にいいところのなかったキリトが今日の私の功績を褒め称えた。


「今日は完全にちひろの1人勝ちだ。俺はまだまだだな」


「いやキリトだって霊水の謎を解いたじゃない。私1人だったらきっと無理だったよ」


 一方的に褒められるのも何か気持ちが悪いと言う事で、一応私の方も相棒の功績を挙げて立てておく事にする。するとそう言う返事が返ってくるとは想定していなかったのか、彼は目を丸くしながら私の顔をじっと見つめた。


「俺も役に立ててた?」


「当然じゃん!ヘタレなところは今後直さなきゃだけど!」


 上げて落とす、これって会話の基本だよね。褒められて気分を良くしたキリトはまたすぐに不機嫌になった。


「くっ……。一言多いんだよっ!」


「あははっ。ここまでおいでっ!」


「待てーっ!」


 私はからかった手前、追いつかれないようにとスピードを上げる。相棒も何とか一泡吹かせてやろうと本気で追いかける。こうして自然発生的に始まった追いかけっこで私達は楽しい気持ちを維持しつつ、天狗城まで一気にスピードを上げて帰ったのだった。


 無事にゲットした霊水はその後、大天狗に献上される。私が差し出した竹水筒を大天狗は快く受け取ると、水筒から漏れ出す霊水のエネルギーを感じ、まるでソムリエみたいにその極上の雰囲気を味わっていた。


「ほう、確かに霊水じゃ。お見事」


「私達2人で頑張りました」


「仲良き事は良き事じゃ。では早速頂くとしよう」


 大天狗は私達の功績を認め労をねぎらったかと思うと、すぐに水筒の蓋を開けごくごくと飲み始めた。霊水が猛毒だと聞いていた私は、その流れるような無駄のない動作に驚いてしまう。


「ええっ?」


「プアハァーッ!うまいっ!やはりこの霊水は最高じゃあっ!」


 霊水を一気飲みした大天狗は、まるで仕事終わりのサラリーマンがビールを飲んだみたいなリアクションをした。その様子から、今朝霊水を汲んでくるように私達に頼んだのは自分が飲むためだった事が判明する。

 劇薬を全く躊躇せずに飲んでしまうだなんて、流石は天狗の長と私は感心してしまった。


「……流石大天狗様、霊水を飲んでも平気なのですね」


「何を言っとる?この霊水は人が飲んでも病を治す特効薬となるものじゃぞ?」


「えっ?」


 大天狗からの衝撃的な一言に私は一瞬固まってしまう。霊水って劇薬じゃないの?聞いていた話と違うんですけど?

 私はすぐにこの場に同席していたお目付け役の天狗の顔を見た。


「ハルさん?」


「いや、はは。全ては試練じゃ」


 開き直った嘘つき天狗はそう言いながら誤魔化すように笑う。何だかからかわれたような気がした私は、そんな軽い態度のハルさんをきっとにらみつけた。すると一連のやり取りをじいっと眺めていた大天狗が事態の収拾に乗り出す。


「ハルを責めるな。全ては試練の一環だったのじゃから」


「もしかしてみんなグルだったの?もう信じらんない!」


 考えてみれば、霊水の番人もまた劇薬設定に完全に乗っかっていた。人の勇気を試すためだか何だか知らないけど、あんまり嘘をつくと信用を失うんだからね!


 私は機嫌を悪くしたままその日一日を過ごしていた。キリトだって一緒に怒っていいものの、真相が分かった途端にあいつ、すぐに納得しちゃって私の味方はしてくれない始末。考えが妖怪側に近いからな、アイツは。

 本当、1人で怒っているのも何だか馬鹿らしくなるよ。次からは絶対に騙されないんだからねっ。

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