第116話 天狗の里へ その5

 仕方がないので、ちゃんと分かるように私は身振り手振りを加えて必死に説明した。


「でも、お宝を集めてた時に色々とあったじゃん。私達が初めてっぽかったじゃん」


「何を揉めておる、お主、ここに来た人間の話をしたんじゃろ」


 内輪揉めしているのを不思議に思ったのか、ここでハルが質問を飛ばしてきた。どうやらさっきの答えには何か条件があったらしい。

 話しかけられたところですぐにはその言葉の意味が分からず、私は思わず首を傾げる。


「え?」


「宝を集めてここに来たのはお主らが初めてじゃぞ?」


 どうやらお宝を全部揃えたのは私達が初めてで間違いではないらしい。ハルの言葉を聞いて更に謎が深まった私は遠慮なくその言葉の真意を尋ねる。


「じゃあ、最初にこの里に来た人って……」


「ああ、宝などなしに里に来たのじゃよ。儂らが招待したんじゃ」


 天狗に招待された人物、そんな人がいたんだ。と、私が感心していると、その人物に心当たりがあったのかここでキリトが口を開いた。


「それってもしかして……」


「そうじゃ、お主の先祖じゃのう」


 その推測が当たっていたらしく、ハルは答えを口にする。一族のルーツの話が出たと言う事もあって、今度は彼の方が興奮して言葉を弾ませた。


「ご、御先祖様は天狗になったのですか!」


「残念じゃが、その願いは叶わんかった。だから書に書き記させたのじゃ」


 ハルの話によれば、当時天狗を助けた浅野家の御先祖様は、その御礼にとこの天狗の里に呼ばれたらしい。そこで天狗の素晴らしさを実感した御先祖様が、自らも天狗になりたいと天狗の長たる大天狗に頼み込んだのだとか。


 けれどその突然の申し出に大天狗は困り果て、人が天狗になるための方法を急遽部下に指示して作らせて御先祖様に手渡した、と言うのが天狗文書の真相らしい。この話がうまく飲み込めなかった私は、もっと詳しく聞こうと説明を求める。


「どう言う事?」


「まさか人が天狗に憧れるとは思わなかったのでのう。その望みを受けて急遽作ったのがあのお宝じゃ」


 つまり、お宝を集める事で天狗になると言う仕組みは浅野家の御先祖様のために急遽作られたものだと言う事らしい。それで御先祖様は全ての準備が出来たところで早速お宝探しに奔走したものの、結局今まで全てを集める事は出来なかったと言う事のようだった。


 お宝がキリトの御先祖様のためだけに用意された事はこれで分かったけど、この話を聞いて逆に腑に落ちない事があった。それで私はこの件を追求する。


「何で最初の指輪は2つあったの?何で私にも使えるの?」


「お宝は基本的に誰でも使えるんじゃよ。適性さえあればのう。2つあったのは……儂もよく分からん」


「えぇ~」


 一番聞きたかった肝心な事をはぐらかされて私は落胆する。何で浅野家の御先祖様の事は詳しく知ってるのに、お宝の事については知らなかったりするの?

 私が意気消沈していると、その様子を見たハルが開き直ったかのように明るく声をかける。


「まぁいいではないか、細かい事は」


「結構いい加減だね」


 私はそんな態度を取る天狗を見て対愚痴をこぼしてしまった。すると、このやり取りを聞いていたキリトがぼそっとツッコミを入れる。


「ま、この天狗は出迎え担当みたいだし……」


「こら、聞こえておるぞ!儂は見極め担当でもあるのじゃ!お主らが天狗になるのに相応しいのかどうかのの!」


「でも私達……」


 私達は天狗化を止めるためにここまで来た……そう言おうとしかけたところで、キリトが急に言葉をかぶせてきた。


「いや、今はその話は止めとこう」


「なんで?」


「この話は大天狗の前でするんだ。今は調子良く話を合わせておいた方がいい」


 この言い方からして、彼は何か作戦を練っているみたいだ。それならばここで私が勝手な事をしない方がいいよね。

 今のキリトは勘の鋭くなる指輪も装着している。その効果はさっきの試練を余裕で乗り越えた事でも証明されている訳で――と、言う事で私は彼の話に乗る事にした。


「ま、キリトがそう言うなら……」


「ん?なんじゃ?」


 私が話を言いかけて止めた事でハルは不審がっている。私は焦って大袈裟に手を動かして何とか誤魔化した。


「ご、ごめん。なんでもないんだ」


「おかしなヤツじゃのう。ほれ、もうすぐだぞ」


 ハルは何とか私の言葉を信じてくれたようだ。そうしてその言葉の通りに私達の旅も終わりを迎えようとしていた。会話を楽しんでいる内に、いつの間にか天狗の里の中心地までやってきていたのだ。眼下の集落の景色もすっかり都会になっていて、それはまさに城下町と言う風情になっている。

 そうしてハルが指さした先には、今まで見た事のあるどのお城よりも立派なお城がでんと構えていた。


「うわあ、でっかいお城」


「ここが大天狗様のおわします天狗城じゃ」


 まるで山のような大きなお城はまさに天狗が治める場所に相応しい荘厳さを感じさせている。地上にも入口があるみたいだけど、天狗の城らしく、城内の上層部の各場所からも出入りが出来るようになっていた。私達はハルの案内のもと、一番近くの出入り口に入っていく。もうすぐ大天狗に会えるんだ。もうそれだけで私のテンションは最高潮になっていた。


 多分一緒に来たキリトも同じなのだろう。後はもう大天狗に話を通せばいいだけだ。この時の私達は希望だけに胸を膨らませていて、それ以外の事は全く何も考えてはいなかった。

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