第95話 天狗の簑 その5

 十分に見せびらかした後はやっぱりその効果の確認だよね!伝説の通りの効果があるのかどうか、ちょっとドキドキしてくるよ。うふふふふ、ニヤニヤが止まらない。


「じゃあ早速着てみるね!」


「お、おい……」


 私のこの行動にキリトが戸惑っている。特別なものだから大事に扱えって言いたいんだろうな、うん。そのくらいの考えは読めるよ。ま、あんまり気にはしないけど。

 蓑ってあれだ、昔のレインコートみたいな……って言うかマントかな?私は蓑をじっくり見つめて位置をちゃんと確認すると、そのまま背中に背負う。背負うって表現が正しいのかよく分かんないけど。

 ……うーん、着心地は可もなく不可もなく、かなぁ。背中に当たる材質がちょっとくすぐったいけど、感想としたらそのくらいだね。えっと、これで何か変化はあったのかな?


「どう?消えてる?」


「そんなの分かるだろ?」


 蓑を付けた姿を目の当たりにしている彼は小首を傾げる。きっと蓑はその力を発動させているのだろう。だからこその反応だ。

 けれどそれを装着者が実感する事は出来ない。鏡がないと自分の顔が見えないのと似たような感覚だ。実際、私自身は自分の身体がはっきりと見えている。

 だからこそ、周りの反応で本当の事を教えて欲しい訳で。改めて私は目の前の傍観者に訴える。


「着ている方からは分からないんだよー」


「消えてるよ、全然見えない」


「本当!やったー!」


 蓑の効果を実感した私はジャンプして喜んだ。こう言う時、事実しか言わない彼の言葉は信用出来るからいいね。見えないと言う事でひとしきりキリトの周りで変なポーズや変顔や変わった踊りをしてみるものの、やっぱりそれについて全くツッコミが入らなかった。うん、本当に姿は消せてるな!

 ただ、姿が消えるだけで音は聞こえるので、動く度に聞こえる服の音とかでかなり怯えさせてしまったけど。些細な事だよね、うん。


 しばらくそうして蓑の効果を堪能して満足した私はそれを脱いで姿を現した。ま、基本的に周りに姿が見えないのは不便でもあるしね。

 使い方によっては蓑を装備しながら姿を見せたり消したりも出来るのかもだけど、その方法が分からないから姿を見せる時は脱ぐしかないんだな。


 脱いだ蓑はキリトに渡してそのまま預かってもらう事にした。ミッションコンプリート!あ、蓑はキリトが持参してきていた天狗の袋に入れたから楽に収納出来たよ。


 それから私達は来た道を逆に歩いて、つまりまた吊橋を渡って元の場所に戻る。そこには成果を聞きたそうな住職が目を輝かせながら待っていた。


「どうじゃった?」


「うん、天狗の蓑だったよ!」


「そうじゃなくて、ドキドキしたか?」


 どうやらこの妖怪住職、お宝の事より2人で吊り橋を渡った時の事についての感想が聞きたいらしい。とんだ色ボケ坊主だな……。ここで事実を誇張して喜ばせても良かったんだけど、あんまり嘘を言うのもどうかと思った私は正直な気持ちをそのまま伝える。


「あー、吊り橋効果?別のそんなのなかったよ?ねぇキリト」


「ま、まあな……」


 ん?キリトの様子が……?私はこの彼の反応についてちょっと詳しく聞いてみたかったけど、住職の目の前でそう言う反応をするのも何か悔しかったので、敢えてスルーする事にした。

 2人共恋愛的な反応が特になさそうな事を受けて、住職はあからさまに不機嫌な顔になる。


「何じゃあつまらん」


「残念でしたー」


 期待に添えなかった事を軽く流して、私達はそのまま帰る事となった。帰りも道を知っている住職に先導されて戻ってくる。そうして裏山を降りるとお日様はかなり西に傾いていた。そんなに時間は経っていないと思ってたんだけど、結構遅くなっていたようだ。時間を見ると16時に近かった。

 今から帰ると地元に着く頃にはちょうどいい頃合いになってるだろう。私は見送る住職に手を振って帰路についた。


「じゃあまたね~」


「ああ、またいつでも遊びに来るといいぞ」


「気が向いたらね~」


 駅に着いた時、帰りの電車が来るまでのタイミングが悪くて30分以上待たされたけど、お宝は無事ゲット出来たので電車待ちでのキリトとの会話は明るいものになった。

 話していると時間はあっと言う間に過ぎ、電車内での会話も途切れる事もなく、2人共睡魔に負けずに地元駅まで戻る事が出来た。


 蓑の管理は彼に任せて私はそのまま家に帰る。残りのお宝は後一個!ゴールが近いと思うと自然と足取りは軽くなるのだった。

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