第90話 子狐の依頼 その4
最後までやる中にちゃんと正解が入っていたらいいけど……聞き漏らしたからもう一回とか、勘弁だからね。と、もう機械的に色の名前を言うマシンと化していたら、ある色の名前を口にしたところでついにストップがかかった。
「ちょっと待って!今の!」
「と、
常磐緑とは常磐のような緑色の事を指す……んじゃないかと思う。結構いい色だよ、この色、私も好きだなぁ。こうして自分の好きな色を思い出せて影の男は感謝の言葉を述べると、失った記憶が段々思い出せてきた事に感動していた。
「そうだ!その色だ!有難う。ああ、段々思い出せてきた……失うばかりだった記憶が……ああ……」
「良かったな、影の男」
感動に打ち震えるその姿を見て、さしものキリトも彼を労っていた。あの彼が他人の事に興味を示すなんて……珍しい事もあるものだよ。それから影の男は好きな色を思い出せた事で、自身の身に起こっている変化を口にする。
「ああ、もうすぐ俺は全てを思い出すだろう、この子狐ともお別れだ」
「良かったね」
「最後にお宝の事を教えよう。それで俺に会いに来てくれ、待っているぞ」
影の男は子狐の夢から去る前に大天狗から託された情報を私達に教えてくれた。全てを伝えきった後、男の意識は消え、環ちゃんはまたバタリと机の上に横になった。私達は誰も彼を起こそうとせずに、ただその可愛い寝姿を見守っていた。
それから大体1時間くらいの時間が過ぎて、モフモフ子狐は自然に目を覚ました。ふあ~あと大きく背伸びをした環ちゃんは、見守っていた私達に向かって可愛らしくペコリと頭を下げる。
「あの、有難うございます」
「えっ?」
突然お礼を言われた私は、理解が追いつかずに思わず聞き返してしまった。環ちゃんはスッキリした顔でその理由を口にする。
「夢の中で影の人が言ってました、迷惑をかけたなって」
「そ、そうなんだ」
「そうしたら夢の部屋がすううっと消えていったんです。もう悪夢を見る事はないぞって。消えていきながら影の人の体は逆に何か色付いていくようでした」
好きな色を思い出せたから影の男の人が患っていた病気が治っていったんだなと、環ちゃんの話から私は推測する。彼を助けた事で結果的に環ちゃんの悩みも解決出来たんだ。こんなに嬉しい事はないよ。
私はすぐに興奮しながら、話してくれたモフモフ子狐ちゃんに状況の補足説明をする。
「その夢は本当の夢だよ。悪夢の原因がなくなったんだ」
「やっぱりそうなんですね!相談して良かったです!」
ちょっと日本語が不自由な感じになっちゃったけど、うまい具合に伝わって良かった。環ちゃんは嬉しさでぴょんぴょんと飛び跳ねながら部員全員にお礼を言っている。影の人が記憶を思い出すきっかけになった色をずっと喋り続けていたのは私ひとりだけなんだけど――まぁいいか。
感謝されたキリトも鈴ちゃんもすごく戸惑っている。そう言った様子を傍から眺めるのも微笑ましい感じがして何かいいね。
気が済むまでお礼を言った環ちゃんは流石にもう何もする事がなくなって、家に帰る事になった。私はそんな彼に声をかける。
「気をつけて帰ってね」
「はい、本当に助かりました。このご恩は忘れません。さようなら」
さっきまであんなにお礼を言いまくっていたのに、更にもう一度改めて深く深くお辞儀をすると環ちゃんは部室を出ていった。ふう、何とかひと仕事終わったね。充実感で胸がいっぱいだよ。
と、私が感慨にふけっていると、キリトが訳知り顔で声をかけてきた。
「一件落着だな」
「うん、上手く何とかなって良かったよ」
まるで自分の手柄みたいに言うその態度に一言返したくもなったけれど、今の私はもうそんな事はもう割とどうでも良くなっていた。
私が何も言い返さないのに気を良くした彼は調子に乗って言葉を続ける。
「またお宝をゲットしに行かないとだな」
「これで次の休みの日の予定が埋まったね」
さて、苦労して得た情報だ。次は一体どんなアイテムが手に入るだろう。今一度影の人から得た情報を反芻して、しっかりとお宝をゲットしようと私は決意を新たにする。
ちょっと遠出をしなきゃだから出発の日までに準備をちゃんとしておかなきゃだよね。と、なると意外と時間はあるようでないのかも。
私はすぐに必要なものをメモ帳に書き出していく。こりゃ明日からちょっと忙しくなるぞ。
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