第61話 化け猫の来訪 中編
「ぶー。そこは妖怪と同じになって欲しい、日焼け嫌い」
「じゃあ誰にも認識されなくなるぞ、それでいいのか?」
「うう……」
流石に妖怪知識においては私に勝ち目はなかった。キリトめ、やりおるわ。妖怪は人に見えない、物理的には存在していないようなものだから日にも焼けないって事なんだよねつまり。その理論が正しいなら私は人間でいたいから日焼けも受け入れなくちゃなのか、仕方ないなぁ。
「2人共落ち着いてください、喧嘩はいけません」
「別に喧嘩するつもりはないよ。私は鈴ちゃんが羨ましいだけ」
私達のやり取りを聞いて勘違いした鈴ちゃんが焦ってそれ止めようとしてくれた。うぅん、可愛いのう。私はすぐに誤解を解いて彼女を笑顔にさせる。
それから少しして、何かを思い出したのか文書を読んでいた彼が突然唐突に語り始める。
「認識されないと言えば天狗の道具に姿を消すヤツがあるな」
「それしたら日焼けしなくなる?」
「さあ、ただの昔話だし……」
自分から話し出した癖に大事な所はぼかすと言うポカをやらかすとは……キリトってば本当にポンコツだなぁ。私はその由来が天狗の物である事からひとつ頭を働かせて彼にカマをかける。
「でも天狗のお宝にそれも含まれているんでしょ?」
「見つかる頃には冬になってるかもだぞ」
う。キリトめ、的確なツッコミをしおる。確かにお宝が見つかる順番は運次第、こっちで好きに選べないんだった。何てこった!私は願いも込めて必死に願望を口にする。
「今すぐ見つかって欲しい!」
「はぁ、神様にでも祈っとけよ……」
この私の言動に彼は呆れ果てていた。まったく、日焼けを笑う者は日焼けに泣くよ!祈って叶うなら私は本気で祈るんだからね!
「神様~!どうか私に日焼けしない体を!」
「ふふ……」
私達のこのやり取りを鈴ちゃんは微笑ましく見守る。下らないやり取りでも彼女が笑ってくれるならそれでいいかな。日焼けしない体が欲しいのは本気だけど。
そうしてこのやり取りを不満げに眺めていたのはキリトだけじゃなかったみたい。
「全く馬鹿しかいないなここは!」
「だ、誰っ!」
「おかしいですね、気配はするんですが……」
突然の声に私は戦慄を覚える。妖怪が近付けば気配で分かるようになっていたはずなのに、それを全く感じさせないなんて……。同じ妖怪の鈴ちゃんでも気付いていないなんて大概だよ!
もしかして妖怪のすごい大物がやって来たのかと、私は焦って周りをキョロキョロと見渡した。
「更にお前ら馬鹿!ここだ!ここにいるわ!」
「え?」
声の主は気付かれない事で更にお怒りになっている御様子。ヤバい、早く見つけないととんでもない事が起こってしまうかも。そう思った私が声のした方向を改めて注視すると、そこには直立する白黒ハチワレの可愛い猫がいた。いつの間にっ!
「な、何だ?」
「キャー、猫ーっ!」
私は目に入った二本足で立つ猫をそのまま抱き上げた。猫の方も素直に抱き上げられた癖にこの扱いに不満の声を上げる。
「おおっと!いきなり何をする!」
「なんで猫が喋ってるの?猫の妖怪?」
「お前、妖怪に縁が深い癖に俺を知らんのか?」
猫は抱き上げられたままジト目で私を軽蔑するように口を開く。妖怪と縁が深くったって知らないものは知らないよ。普通ならこんな言い方をされたら少しは腹も立つものなんだけど、言葉の主が猫なので全く気にならない。それどころかもっともっと話して欲しいとすら思っていた。
私は好奇心の赴くままにキラキラ瞳を輝かせてこの猫に質問する。
「知らない!喋る猫なの?」
「お前なぁ、猫又くらい知っとけよ……。妖怪の中でもメジャーな奴だぞ」
私と猫のやり取りを聞いていたキリトが呆れて口を挟んで来た。どうやら彼は猫又って言う妖怪の中でも結構メジャーな存在らしい。
「猫又、初めて聞いたかも……化け猫なら聞いた事あるけど!」
「ふん、ようやく俺の正体を理解したか」
自身がようやく妖怪だと理解されて猫はドヤ顔でふんぞり返っていた。つまりは彼が今日の妖怪相談の最初のお客さんと言う訳だね。じゃあ早速仕事を始めるとしますか。
私はこの猫をまた元に戻すと早速質問を開始する。
「で、可愛い猫妖怪さん、今日は何の御用?」
「お、俺を可愛いとか言うなっ!」
どうやらこの猫、可愛いと言う言葉がNGらしい。自分の武器を否定するとは、世の中うまく渡っていけませんぞ。本人がどう否定しようと、実際とても可愛いので私は鈴ちゃんと事実の確認をし合う。
「だって事実だし」
「ですよねー」
同じ妖怪にも可愛いと思われているこの事実に猫は相当なショックを受けていた。彼は前足後ろ足を床に付けて声を震わす。
「よ、妖怪にまでそんな風に思われているのか俺は……」
「話もないなら帰ってくれるかな?俺は忙しいんだ」
流石キリト!この状況を前にして普段の態度を崩さないっ!もしかして彼は犬派なのかな?猫派だったらこの状況に正気を保っていられるはずがないもんね!
それはそれとして、私は猫を傷つけるような言い方をした彼をすぐに注意する。
「ちょ、キリト!猫さんに失礼じゃない?」
「その呼び方は……」
この言い方に猫は何か言いたげな雰囲気だったけど、その声は小さくて私の耳にもキリトの耳にも入らなかった。
「あ?こっちは文書解読で頭がいっぱいなんだ!余計な事を考える余裕はねぇ!そう言うんだったらお前が猫の相手してろ!」
「その呼び方はちょっと……」
言葉遣いを指摘されて逆ギレしたキリトが感情を爆発させて私を絡む。その声が大きくてまたしても猫の発した声はかき消されてしまった。
「何よ!どうせいつもキリトはほぼ役に立たない癖に!いいよ!猫ちゃんの相談は私が受けるから!」
「話を聞けーっ!」
ここでずっと話を無視され続けた猫の怒りが爆発する。この突然の怒鳴り声を耳にした私はびっくりして改めて彼の方に顔を向ける。
「え?何?」
「俺はただの猫じゃねぇ!」
どうやら猫は自分が猫扱いされているのが不満みたい。そう言われても見た目が猫だからねぇ。とは言うものの、ここで機嫌を損ねるのも良くないと思い、私はちゃんと彼を妖怪扱いしていると言う事をニコニコ笑顔でアピールする。
「うん、知ってるよ、世にも珍しい喋る猫さんでしょ」
「俺は化け猫カズキって名前があるんだ!」
成る程ね、彼は名前で読んで欲しかったんだ。だからってそんな大声で叫ばなくてもいいとは思うんだけど。それで、ふぅん、化け猫カズキねぇ。
確かキリトは猫妖怪を別の名前で呼んでいたような……?えーと、確か――。
「猫又じゃなくて?」
「俺はそう呼ばれるのが嫌いなんだよ!」
カズキはそう言うとプイッと顔をそらした。まぁ猫妖怪の世界にも色々あるんだろう。猫又って言うより化け猫って言う方が何だか強そうだしね。
私は気を取り直して、さっきのやり取りで気になったもうひとつの部分を質問する。
「……化け猫はともかく、カズキって言うのはどこから?」
「それは俺が生きていた頃のなま……べ、別にどうだっていいだろ!」
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