第37話 天狗の服 その4

「うーん、天狗ってもっと大柄な気がしてたけど……これ……」


 この服、サイズ的に言えば――って言うかキリトは綺麗にたたまれたその服を広げてみないので正確なサイズは分からない。

 普通一応は大きさを確認する物じゃない?何でそれをしないんだろう。あんまり服そのものには興味ないとか?神聖なものだからあんまり雑には扱えないって心境なのかも?


 それにしてもここから見た感じだとその服は私達が着るのにちょうどいい感じの大きさに見えるんだよね。天狗って大男のイメージがあったけど実はそうでもないのかな?

 その私の疑問を側で見守っていた木霊が答えてくれた。


「天狗様の服は触れたものに合わせると聞いた事があります、多分そう言う事なのでしょう」


「流石妖怪の着る服だけあるね。妖力ってヤツが満ちているとかなのかな?」


 そう言えば、指輪にしても、うちわにしても、笛にしても妙に私達の体のサイズに合っていたけど、あれはつまりそう言う事だったのかも。

 私が天狗のお宝の不思議機能に納得しているとキリトが信じられない事を口にする。


「じゃ、帰るか」


「は?」


 その言葉が私には到底信じられなかった。そして私のこの態度が信じられなかったのか彼は不機嫌な顔をして聞き返す。


「何?」


「えー、着てみないの?」


 今までお宝はみんなその効果を確認して来た。私はそれを責務だとすら感じていた。なのにこのにーちゃんはそれをせずに帰ろうだなんて……。

 それってちょっとおかしくない?と言うのが私の主張だった。この私のポリシーを聞いたキリトは――切れた。思いっきり切れちゃった。


「何で着なきゃいけないんだよ!天狗のお宝は集めるだけでいいんだよ!」


「えー、つまんないよー!絶対何か特殊効果とかあるのに!ここで着なきゃ嘘だよ!」


 どうもお宝に関しては私と彼とで全く考え方が違うらしい。いや、前から薄々感じてはいたんだけどね。

 やはり最初に指輪を試して以降、彼からしてみればお宝に振り回されっぱなしだったから、きっと触らぬ神に祟りなしみたいな感じになってしまってるんだろう。

 もう後戻りなんて出来ないんだから、どうせならこの状況を楽しんだ方がいいと私は思うんだけどな。


 私の抗議を受けたキリトは更に激高してもう全然話を聞く耳を持ってくれなかった。


「じゃあ今度から自分でゲットすれば?順番を俺に譲った以上は俺のルールで動く!」


「あ、そう言う事言うんだ?じゃあそうするからね!もうキリトにお宝は触らせないんだから!」


 結局、売り言葉に買い言葉だよ、あ~あ。まぁ、仕方ないか。

 私が自分が放った言葉にちょっと後悔していると、このやり取りを見守っていた木霊が小さく笑ってこの状況に関しての感想を漏らす。


「ふふ、御二人は仲が宜しいですね」


「え、そう言うんじゃないから!」


「そう、成り行きで一緒に行動しているだけだから!」


 私達は2人は揃ってその意見に反対する。この瞬間は何だか不思議と息が合っていた。


「そう言うのを仲が良いと言うんですよ」


 木霊は最後まで自分の意見を改める事なく、私達を仲の良い者として扱った。否定しても受け入れてくれないんだから、最後はもう黙るしかなかった。


 それでもそんな事を言われると変に意識してしまう訳で――それからしばらくはお互い会話も行動もギクシャクしてしまう。その後、親切な木霊は私達を森の出口まで案内してくれた。お世話になった彼にお礼を言って私達はそこから解散した。


 ああもう、明日からキリトにどんな顔をして接すればいいんだろう。一晩寝たらすっかり忘れてくれてたらそれが一番いいんだけどな。

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